行き止まりの旅
酒場の周りにはまだ昼間にも関わらず酔っ払いの船乗りたちが千鳥足で歩いている。
「仕事がしたくても出来ないって、多分辛いよな。」
「分かるわ、風邪ひいて母さんに部屋から出してもらえなかった時は死ぬかと思った。」
「はは、馬鹿は風邪ひかないはずなのにな。」
少し強めの拳骨を肩に喰らった。酒場に入ると、店内は広いが薄暗かった。屋根が高い代わりに窓が少なく、光が入らない場所はまるでいつでも夜のようだ。給仕の女性にカウンター席へ案内され、席に着く。メニューを軽く紹介してくれた後、給仕は次の仕事へ向かっていった。
「セオは麦酒でいいよな。ヘレーナはどうする。」
「どうしよう、何か飲めるものあるかな。」
ヘレーナが迷っていると、バーマンが気を利かせて声を掛けてくれた。
「もし酒が飲めないならブドウのジュースがあるけど、それにするかい?」
ヘレーナはその提案に嬉しそうに応えた。バーマンは承ったと、手早くジョッキに麦酒を注ぎ、セオドアとヨハンネスに差し出した。そして背面の棚からグラスを取り出し、瓶に入ったぶどうジュースを高くから注いでいく。その手際の良さを見ているだけでもなんだか楽しかった。それが酒場の良いところだろう。麦酒は軽い口当たりで飲みやすく、ブドウのジュースは濃厚だったらしい。少し飲み物を楽しみ、辺りに目を向ける。船乗りのような人々は明らかに自棄酒で、話ができる人は少なさそうだった。店の奥に静かに酒を嗜んでいる二人組の男たちを発見し、その者達に声を掛けてみることにした。とても気さくな若者たちで、彼らはずっとルカコスで暮らしていると聞いた。商人達や船乗り達と同じく、仕事が行き詰まって困っていると聞き、セオドアは船乗りなのかと尋ねた。
「俺たちは商会の方の人間なんだ。だが船の手配ならできるぞ。」
その言葉にセオドアは安堵し、彼らに尋ねた。
「アルバディアにどうしても行きたくてさ、出してくれる人いないかなって。」
商会の二人は渋い顔をしている。少し悩んでいたが、その難しい表情のまま答えを述べてくれた。
「今はルカコスの自治体が船の出国を許可してくれない。商会の船は特にな。今のアルバディアは危険すぎる。よほどの腕前があっても船が沈みかねないんだ。悪いことは言わない、嵐が落ち着くのを待った方がいい。」
「そうか、聞かせてくれてありがとう。」
二人に礼を言って、元の席へ戻った。麦酒を飲み干し、バーマンにもう一杯貰うことにした。
「悪い結果みたいだな。」
「やっぱり厳しいらしい。嵐が精霊の力によるものだとしたら、精霊を倒さない限り止むことはない。つまり船が出ることもない。」
「詰みか。早かったなぁ俺たちの旅も。」
ヨハンネスは『ははっ』と、乾いた笑いと共に麦酒を流し込みもう一杯貰っていた。
「なんとか船さえ出してくれたら、この前水を操ったみたいに風を落ち着かせられるかもしれないけれど、そもそもそこにたどり着けないもんね。」
「やめとけ、無理すんなよ。お前あの後相当参ってたじゃねぇか。」
「でもそんなこと言ってる場合じゃない。それに、私お兄ちゃんが酔っぱらって寝てる間にちょっと強くなったんだから。」
明るいヘレーナに少し励まされた気がした。酒場で船乗りも頼れず、どうしたものかと酒に向かって悩んでいる。アルバディアは陸続きになっておらず、海路でしか行くことが出来ない。ヨハンネスの言う通り、本当に詰みかと思っていた時、突然酒場の扉が乱暴に開けられた。
「邪魔するよ、エリアス。」
入って来たのは背の高い赤髪の女性と、それに従うような身なりの悪い男たちだった。




