手がかり
まだ眠い目をこすりながら起き上がると既にヘレーナはいそいそと支度をしている。隣で眠るヨハンネスはまだ寝息を立てていた。
「早いな、どうかしたのか?」
「ううん、ちょっとね。」
ヘレーナのいつものドレスはバルコニーでセオドアの服の隣に干され、旅の出発の時絶対にいらない邪魔になると兄に言われていた青くて軽いドレスを身に纏っていた。髪型もいつもの編み込みではなく、頭の高い位置にリボンで一つにまとめている。気分転換だろうか。
「なんだよ、もう朝……?」
やっとヨハンネスも起きたかと思ったが、出発する時にまた起こしてくれと再びベッドの誘惑に沈んだ。まぁいつものことかとセオドアも自分の身支度をしようと外に干していた自分の服を回収した。
「ねぇ、どう?」
ヘレーナは最後にいつものペンダントを着け直してセオドアの前で一回転して見せた。真っ青なドレスのスカートがひらりと広がり、へレーナに巻き付いてまたもとに戻る。そして朝日に照らされた胸元のペンダントが光り輝いていた。
「あぁ、いいんじゃないか?」
「それだけ?」
「あ~……、寒くない?」
ヘレーナは大きなため息をついて呆れて見せた。
「私、別に寒くないと思えば寒くないし。」
そう言って慣れた手つきで黒いコルセットを巻いていた。そういえば彼女にあのペンダントをプレゼントしてから、身に着けていない日を見ていない。
「そのペンダント、まだ使ってくれてるんだな。」
「そりゃ、一番気に入ってるんだからずっと使うよ。」
少し機嫌を取り戻してくれたのか、表情が柔らかくなった気がする。そのペンダントの石は、かなり昔にヨハンネスと森で狩りをしていた時偶然見つけたものだ。そしてその美しい翠の石に穴を開け、細い鎖を通しただけのとてもシンプルな物だった。だからそれをこれほど長い間気に入って貰えるとは思っていなかった。その石は拾った日からかなり経っているにもかかわらず、変わらぬ輝きを保っている。
「さ、私達は準備できたね。そこのバカお兄叩き起こして早く行こう。」
昨日のことをまだ根に持っているのか通常運転か、まだ判断は難しい。ヨハンネスを起こし、出発の準備をさせた。彼の身支度に時間はかからないため、結局すぐに出発することができた。とりあえず宿を出て、情報の聞き込みをしようと街を歩いている。
「それで、どこで話を聞く?まだ朝だけど、人通りは多いみたいだな。」
「とりあえず商人さんに聞いてみようよ。」
「じゃあ市場か。中心部に行ってみようぜ。ついでに朝飯食えねぇかな。」
街の中心にはフィーラと書かれた看板が立っていた。ここは特に人通りが多く、賑わっている。商人は活気強く、呼び込みの声が鳴りやまない。むしろ多すぎるくらいに商人が店を開いている。品々も溢れ、異国の物が沢山売られていた。とある装飾品を扱う店にヘレーナが興味を惹かれ、立ち寄ることにした。
「いらっしゃい、東の国の品々が揃ってるよ!」
「東の国!?何があるの!?」
ヘレーナは目を輝かせながらその耳飾りや腕輪を眺めていた。商人に勧められた品を次々試している。
「安くしとくよ!ここの所散々だからな。」
「何かあったのか?」
「いやぁ、アルバディアへの道が断たれちまってな。品が溢れてるんだよ。」
話を聞くとルカコスから海を渡って南の国であるアルバディアを商人達は目指していたが、強風で全ての船が出なくなってしまったらしい。その強風が止むのを待っているが、もう一月以上は風が止まない状態が続いているようだ。
「それでここに商人がこんなに沢山いるのか。」
「そういうことさ。嬢ちゃん、これなんてどうだい?」
そう言って商人はヘレーナに次の指輪を差し出した。ヘレーナは結局最初に見た腕輪が気に入り、それを買うことにした。金細工に赤い宝石が一つ付いた新しいアクセサリーを手に入れ、彼女は上機嫌だった。
「それで、強風か。一月前ってだいたい俺達がウィンディーネを倒した頃だよな。」
「ウィンディーネは風の精霊に追い出されたって言ってたもんな。なら、そのアルバディアにいるのが風の精霊なんじゃないか?」
「私もそう思う。でもどうする?船はないみたいだよ。……この匂い。ねぇ、すごく良い香りがしない!?」
確かにヘレーナの言う通り、初めて香る甘い匂いがする。その匂いを辿っていくと、商人が屋台を開いて飲み物と棒状の菓子を売っていた。実物を目にしてついにヨハンネスの腹の虫が騒ぎ始めた。
「ねぇ、朝ごはんまだだよ?食べてから考えようよ!」
そう言えば朝食を食べようとしてまだ食べていなかった。彼女の誘いに乗り、謎の菓子と飲み物を朝食にすることにした。




