波の音に身を任せて
町並みも綺麗に整えられ、地面には石畳が敷かれていた。大通りから小道に入ると、花々が飾られる家が所狭しと並んでいる。奥に進みすぎると迷子になりそうだった。街は中心に向って登り坂になっており、その丘の上には大きな風車が回っている。
「凄いな、これがルカコスか!」
「なぁ、まず飯にしようぜ。この匂いで腹減った。」
ヨハンネスの提案にそういえばまだ何も食べていなかったと思い出す。砂浜に並ぶ出店から漂う匂いに釣られ、まずは食事にしようと皆の意見も一致した。出店には様々な料理が立ち並んでいる。幸い先日の村で金は稼いでいたため、今日は好きなものを好きなだけ食べられそうだ。
並んでいる出店はどこも良い匂いを漂わせている。何にしようか迷っていたところで、スブラキという串焼きの肉や魚が売られている店に目を惹かれた。好きな串焼きをそれぞれ選ぶと、一緒に平たいパンとソースを貰った。出来立ての串焼きを持ったまま次は何を選ぼうかと通りを歩いていると、また一際良い匂いを漂わせる店があった。どうやら後ろの店舗で捌いたばかりの魚介をフライにしてくれるらしい。カラマリと呼ばれるイカのフライが店主のオススメらしく、それを貰うことにした。こんなものかと食べる場所を探していると、ふと甘い匂いに誘われたヘレーナがもう一軒店で買い物をしてきた。夕日がちょうど海に沈みかけ、家々の明かりが灯る。その明かりを背にして、砂浜に直接腰かけた。
【砂浜と帰り道の一幕】
~焼きたてスブラキとピタパン~
肉や野菜の串焼きとそれを挟んで食べるパン。きゅうりとヨーグルトのソースと共に。
~朝どれカラマリフライ~
朝獲れたばかりの新鮮なイカをカリッとフライした一品。レモンを絞ってさっぱりと。
~揚げたてジュワジュワのルクマデス~
甘党のヘレーナセレクト。揚げたての一口甘々ドーナツ。
秋の夕暮れで海は少し冷えるが、温かい料理を持っていた手だけはほんのりと温かい。三人で並んで、波の満ち引きを眺めながら食べた。スブラキは香辛料が効いた肉とさっぱりとしたソースが相性抜群で、一気に何口も齧り付いてしまう。一息ついた所でカラマリフライを一つ口に放り込むと、これまたフライのサクサク感とレモンの酸味がマッチして次々と手が進んでしまった。ルカコスは美味いものしかないのか。スブラキとカラマリフライを食べ終わった後、ヘレーナに差し出されたドーナツはふわふわと柔らかい生地に蜂蜜がたっぷりと掛けられている。食後にはちょうど良い量と味だった。食事中は皆食べることに夢中であまり会話は挟まなかった。満腹になった所で、ヨハンネスは砂浜に寝転がった。それは良い案だと、セオドアもそこに並ぶ。その頃にはもう日は完全に沈み、夜空には星が輝いていた。
「このまま寝れる……。いやちょっと寒いか。」
「なんと言うか、最高だな……。美味いもの食べて、すぐ寝るなんてさ。」
「あぁ……、でもやっぱ寒いな。」
美しい夜空を見上げて感傷に浸っていると、その視界に突然ヘレーナの顔が割り込んできた。ヨハンネスはそんな妹に対してあからさまに嫌な顔をしている。
「ねぇ、宿探そうよ。自分で寒いって言ってるじゃん。」
「今いい時だったろ?邪魔しやがって。男は我慢してでもこういう時間を大事にするんだよ。これだから引き籠りは分かっちゃいねぇんだ。」
「ヨハン、言い過ぎ。」
その言葉にムッとしたヘレーナは顔をそっぽに向けてしまった。
「引き籠ってなんてないでしょ!?二人が家にいなかっただけじゃない!もう知らない!好きにしたら!?」
そう言って一人立ち上がり、服の砂を払って街の方へ歩いて行ってしまった。セオドアに諭されたヨハンネスもため息をつきながら起き上がった。
「行こうか。」
港の方に行くと商人向けの宿が多くある。外観はどこもそれほど差がないため、適当に入った宿に泊まることにした。部屋は広くは無いものの、大きな窓があり、そこから海を眺められるような開放感のある場所だった。ベッドもふかふかで、荷物や上着を投げ捨てとりあえず飛び込んだ。ここのところ、野宿をしながら歩き続けてきて疲れが溜まっていたことを一気に思い出す。もうそのまま眠ってしまおうかとも思ったが、せめて服くらいは干そうと眠たい身体をなんとか起こした。窓から小さなバルコニーに出ることができ、そこに服を干した。その後の記憶はあまりなく、気がついたらベッドで朝の眩しい光を迎えていた。




