白の都
森を抜けると唐突に視界は開けた。細やかで真っ白な浜とどこまでも広がるような群青の海が目前に広がっている。そして太陽の光を受け、海面は眩しい程輝いていた。故郷にも海はあったが、これほど美しい景色をかつて見たことがあっただろうか。セオドアとヨハンネスは砂浜を駆け、海に向かって飛び込んでいく。砂に足を取られ、先にヨハンネスが転び、その時思いっきり服を掴まれたセオドアも一緒に転ばされた。柔らかい砂浜がクッションになり、転んでもあまり痛くはない。ヨハンネスがすぐに立ち上がり、セオドアを飛び越えてまた海に向かって走り出した。
「海来たああ!!!」
あと一歩で海にとび込める、もう止まれない、俺を止めるものは何もない、そう確信して羽ばたいた瞬間突如現れた見えない壁に衝突した。海に向かって全力疾走だったヨハンネスはその衝撃に仰向けに倒れ込む。
「ヘレーナてめぇ……。」
「今ここでびしょ濡れになったら困るでしょ。船乗れなくなったらどうするのよ。」
セオドアは心底転んでおいて良かったと思った。ヘレーナの言うことは御尤もであり、反論することなど、子供心だから許してくれということくらいしか言えないだろう。だがそれが許されるのならば、あの壁はそもそも無かった。立ち上がってヨハンネスの方に歩いていくと、彼はまだ砂浜に横たわったまま、空を見上げて腕を上下に動かして意味もなく砂を掘って身体を沈めている。ほら行くぞと、軽くわき腹を蹴ってやると、やっと起き上がった。互いに服のあちこちに細かい砂が入り込み、動く度にパラパラと砂を舞い散らせている。
海の向こうにはいくつかの島が浮かんでいる。それらのもっとも大きな島にある都市を、『白の都ルカコス』と呼ぶらしい。辺りを見回すと波止場が何か所かあった。島との連絡船はそこから乗ることが出来そうだ。
「砂浜が白いから白の都?」
「さぁ、そうなんじゃない?」
詳しい事は何も知らないが、その島々が栄えていることはここからでも分かった。沢山の大きな船がその島の周りに集まっている。商船だけでなく観光船もあるのだろう。ルカコスはその海や街並みが美しいと有名な場所だ。だからこそ、沢山の人が行き交うこの場所に、精霊の情報を期待して目指してきた。もちろんこの街を見てみたかったという思いもある。
手前の波止場に泊まっていた小さな帆船の主に声を掛け、ルカコスまで送ってもらうことにした。船に乗るのは生まれて初めてで、目の前の大きな帆に気分が高まる。その様子を見て気さくな主は代金を少し負けてくれた。ここで船を出す者達は客が絶えず内陸とルカコスを一日に何度も行き来しているらしい。それでも船が足りない日があるらしく、今日は人が少ない方だったようだ。船に揺られながら、島までのんびり向かっていった。小さな船のおかげで水面にも手が届く。水は澄み渡り、海の底までも見えそうだった。もう日が沈み始め、夕日に傾いていたが船の時間はあっという間に過ぎ、ルカコスに着いてしまった。船を降りると、なんだかまだ身体が揺れているのか足元が覚束ない気がした。船の主はすぐにまた次の客を見つけ、内陸に向かって出発していく。船での体験に興奮醒めきらぬまま、セオドア達はやっとその街並みに目を向けた。
「白の都、そういうことか……。」
建物は皆白を基調にした造りで、夕日によって色付いた姿はまるでキャンバスのようだった。家々の屋根や扉は海と同じ青色に染まり、そのコントラストが美しい。時間によって、様々な姿を見せる街に心を奪われる。




