魔法の星
そろそろ帰ろうかと思っていた時、自分にとって懐かしい声が聞こえた。
「月、明るいな。ちょっと欠けてるけど。」
酔いが醒めたセオドアがヘレーナを迎えに来た。話を聞くと、酔っぱらって眠っていたところ、例の子供達にヨハンネスの財布を盗まれ、今取り返して来たところらしい。ヨハンネスはそのまま子供達に説教を垂れているようだ。そちらがひと段落着いたため、セオドアはヘレーナがここに来るだろうと思って迎えに来たのだった。
「気のせいかもしれないけど、ちょっと空が近くなった気がしない?」
「そうかもしれないな。」
「ねぇ、やってみたい事があるの。見ててね。」
ヘレーナは両手を合わせ、魔力をその手に込めると、大きく広げてそれを空へ放った。魔力の輝きが、満天の星のように空から降り注ぐ。月明かりしかない夜の空は魔法の星々で煌めき、見たことのないほど美しい空が広がっていた。その景色に心を奪われ、再び月明かりだけの空に戻るまで目を離せなかった。
「これは……。」
「こんな空があったら素敵だなって思って。昔から練習してたんだけど、初めて出来たの。レミールが長老の樹に話しかけるとき、彼の全身から魔力が集まるのを感じた。きっとそれだって思って、やってみたら出来たんだ。もう何の魔法も使えないくらいすごく疲れたけどね。」
ヘレーナは少し息が上がっていたが、表情は空に向かって輝いていた。レミールの使う魔法と自分の些細な違いや、魔法の使い方に気が付けるのは、彼女がいつも周囲に気を配っている証拠だろう。
「凄く、綺麗だな。」
その美しい表情が、今度はセオドアに向けられた。あまりに輝かしいもので、こちらまでその笑顔につられてしまう。ヘレーナは満足したのか、帰ろうとセオドアの手を引いていった。『魔術師だから』という理由で理不尽に傷つけられた事実は変わらず、彼女の心に残っている。それでも、その力に誇りを持っているヘレーナは強い女性だった。
あの美しい空を見ていた時とは打って変わり、太陽が輝く雲一つない空の下、二日酔いで頭痛の酷いセオドアとヨハンネスは足元が覚束ないまま村を発った。へレーナに治してくれと頼んだがその願いは聞き入れてもらえなかった。二度と酒は飲まないと誓ったのはこれで何度目だろうか。レミールはその姿が見えなくなるまで手を振っていてくれた。村長もまたいつでも来てくれと旅立つ前に声を掛けてくれた上に、数日分の食料を持たせてくれた。自分達の体調以外、最高の旅立ちの朝だった。最悪な状態の身体を引きずってでも発ったのはこの先ルカコスで出会える新たな世界が楽しみで仕方がなかったからだ。まだまだ冒険は始まったばかりで、彼らはこの世界のことも、己の事もまだ何も知らない。この旅が運命の旅であることなど、気付くはずもなかった。
【二日酔いの朝に】
~昨日のプロヤ~
昨夜の残り物を貰えた。一晩経ったことで、味がなじんでまた違った一面が見える。
~採れたてリンゴ~
村で育てていた朝採れのリンゴ。瑞々しく、濃厚な味わい。
~蜂蜜たっぷりレモネード~
村人の良い覚ましに、レモンと山の民から貰った蜂蜜を合わせて一晩寝かせたもの。甘酸っぱい味に村長の優しさを感じる。




