天まで伸びる長老の木
レミールの言っていた長老の樹のもとへ行ってみたいと思った。もう日はとっくに沈み、月明かりだけを頼りにその樹を目指す。暗い森の中でもその大きく偉大な樹の場所はすぐに分かった。軽い足取りでたどり着くとその樹の麓にはレミールが森の動物達に囲まれながら、彼らをまた愛でていた。へレーナに気が付くと、そこに来ていたフィルはヘレーナに向かって飛んで行った。
「撫でてやってくれませんか。そいつちょっと拗ねてて。」
どうやら他の動物達で手が回らないらしい。さっきまでは人々に囲まれていたが、やはり彼もこの方が落ち着くのだろう。手に止まった黄色く毛並みの良い鳥を撫でてやると、鳥は嬉しそうに頬を擦り寄せて見せた。その行動が嬉しくて、また撫でてやる。
「大人気なんだね。」
「えぇ……。だからこそ、ここを離れられなかったんです。皆とはどうしても別れがたくて。この樹は、皆の憩いの場所なんです。動物達にもそれぞれの悩みがあって、皆ここに話しに来るんです。ここに居れば、だれも一人じゃない。やはりここが、一番落ち着くんです。」
素敵な場所だと心から思った。この樹はきっと遥か昔からここにあり、皆に居場所と知恵を分け与えていたのだろう。へレーナはふと、この樹なら精霊の事も知っているのではないかと思った。
「ねぇレミール、精霊って知ってる?」
あまりに唐突に聞いてくるものだから、レミールは困惑した。少し間があった後、レミールは答えた。
「いや、聞いた事ないですが。長老に聞いてみます?」
へレーナは頷き、彼に頼んだ。レミールは立ち上がってその大樹に触れる。ゆっくりと目を閉じて、彼の体中に魔力が広がったのを感じた。初めて見るヘレーナにも分かった。樹と会話するためにはとても沢山の魔力を使うらしい。やがてその魔力が落ち着くと、レミールは再びゆっくりと目を開いた。
「この樹は二千年以上前からここに存在するみたいです。精霊はその時代に生まれ、自然を蘇らせた存在らしいです。それ以上のことは分からないと、そう言われました。」
「蘇らせてくれた存在……。どういう事だろう。でも分かったわ、ありがとう。」
「あまり力になれずすみません。そしたら僕はそろそろ村に帰ります。明日発たれるんですか?」
「そのつもり。まぁ、あの二人がちゃんと起きられたらだけど。今ルカコスを目指してて、そこでなら何か精霊の情報が仕入れられるかもって思ってね。」
「ルカコスまでなら、あと三日程ですよ。あそこは人も多いですし、大陸の極東からくる商人も沢山訪れていますから、何か分かるかもしれませんね。」
レミールはそれではと言って村へ帰っていった。レミールと共に動物達もそれぞれ自分の住処へ帰っていく。小鳥のフィルもまた、へレーナにもう一度だけ頬を擦り寄せて羽ばたいていった。また一人になり、明るい月を眺めている。夜風が少し肌寒いが、草を撫でるその音は心地よかった。




