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ノアの旅  作者: 衣吹
【声を聴かせて】
11/35

食を交えて

 いきなり光を当てられ、その眩しさに目がくらんだ隙に、彼は取り押さえられた。村長が彼に優しく声を掛ける。


「君が、我々の村や彼らの集落から盗みを働いたのか?」


「そうだ。」


 村人は反省の色を一切見せず、未だ眼光を光らせている少年に襲い掛かりそうになったが、それを村長は静かに止めた。


「見たところ、君は碌に食べていないらしいな。盗んだ食料は、あそこの仲間たちに渡していたのか?」


 村長は少年を取り押さえていた男たちに解放してやれと、その手を離させた。少年は解放された後も態度を改めることはなかったが、それ以上抵抗もしなかった。


「あんたらには関係ないだろ。」


「犯人が、このような子供たちだったとは……。我らとて情けない。」


 山の民の長はそう言って少年と目線を合わせるように膝を着いて話してみせた。


「しかし、盗みは困るのだ。ここに居る者達、仲間を養いたければ、それ相応の仕事をせよ。その働きに応じて我々の物資を譲ろう。誰にも気づかれる事なく、我らの格納庫から盗みを働くその技術を正しく活かせと言っているのだ。」


「ほう、それは名案だ。幸い君の攻撃で華も咲いていない。我々の村でも、きちんと働いてくれれば対価を支払おう。名前は、あるのか?」


 こいつらは何を言っているんだと少年は思っていたが、思考が回るほどもう体力もない。名前も覚えていないなと思ったところで、少年はその瞳から光を落とした。反応の無くなった少年に、端で怯えていた更に幼い子供たちが彼に駆け寄った。言葉もままならない彼らは、必死に少年を護ろうと大人たちに立ち向かった。村長は、そんな彼らにゆっくりと話しかける。


「この子を助けたい。君たちも手伝ってくれないか?」


 子供たちは迷いながらもやがて頷き、一度村へ連れ帰ることになった。村長は山の民も村へ招待し、とにもかくにもこの状況に決着を付けようと提案した。村への道中レミールは村の人に話しかけられ、一躍時の人となっている。彼を迫害していたのは村の中でも一部の者であり、他の村人はただ見ていただけの者達だった。その者達はレミールにとって、迫害した者達と何も変わらない。だがしかし、その者達もまた、村という小さな集団生活の中でただ行動する勇気の出なかった者達だ。誰も助けてくれなかった、憎みたいという気持ちは変わらない。それでも、ずっと村の中で孤独だったレミールにとって、やっと一人の人として認められたと思えた瞬間でもあった。あれほど憎んでいたはずなのに、その黒い気持ちを持ち続けることは出来なかった。


「大丈夫かな、レミール。」


「さぁ、後は自分次第だ。レミール、無駄に良いやつだから悪になりきれないんだろうな。」


「それもあいつの個性だろ。」


 少なくとも、レミールの姿は嬉しそうに見えた。事件が解決し、清々しい気持ちになりながらセオドア達も一度村へ戻った。そのまま発とうかとも思ったが、こんなに早く解決するとは思わず宿に荷物を置きっぱなしにしていた。


 皆が村に帰ると、子供たちにはトウモロコシの粉で作られたパンなどの食事が振舞われた。あの少年も目が覚めた時に子供たちが嬉しそうに食事にありついている姿を見て、大人たちの提案を受け入れたらしい。村は同じ食事を山の民にも振舞った。山の民もまた、彼らの酒や肉を持ってきてくれている。その光景はまるでかつての友好関係にあった互いの村のようだった。二つの村のわだかまりが解消され、もはやここにも憎み合う理由は無くなったのだろう。村の端でその様子を眺めていると、村長はセオドア達にも同じ料理と酒を持ってきてくれた。


「君たちのおかげで、村と山の民は再び関係を築くことが出来た。それに、レミールもあの通りだ。ありがとう。」


 レミールが魔術師というだけで受けた暴力や迫害を到底許すことは出来ない。それでも、何かを変える事が出来たのはセオドアにとっても誇りに思えた。だからありがたく、その食事を受け取った。ヨハンネスやヘレーナと共に、村の端にあるテーブルに移動し温かいうちに食べようと早速いただくことにした。


【小さな晩餐会】

~焼きたてプロヤ~

 トウモロコシの粉を使ったケーキ型のパン。ほんのりチーズの味がする。特製バターを添えて。

~温かパスーリ~

 具材たっぷりの豆と馬肉のスープ。寒くなってきた夜にはピッタリ。


 ヘレーナにはなるべく酒に触れさせないようにセオドアとヨハンネス二人で楽しんだ。葡萄酒は軽い口当たりでとても飲みやすく、瓶一本貰っていたがあっという間に空にしてしまった。気分が高揚し、座ったままでもなんだかゆらゆらする。何も面白いことなんてないのに笑いが止まらない。酔った二人を見て、ヘレーナは呆れかえっている。


「ねぇ、話理解できる?」


「大丈夫大丈夫、まだ飲めるぃ……。」


 もうこいつらはだめだと思い、席を立った。ヘレーナも酒が飲めないわけではない。そのはずだ。しかし、この二人の醜態を見ている為にまだ飲む勇気がでていなかった。それにそこまで飲みたいとも思っていない。いつだか飲んだこともあるらしいが、覚えていなかった。一息つきたいと思い、村の外に出て少し散歩をした。

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