ことの真相
話し合いは平行線だった。村人や山の民は野次を投げ合い、憎しみあっている。それでも互いの長は静かに話を進めた。結論には程遠いまま時間だけが過ぎていく。その様子をまた一歩離れたところから森に集まってくれた動物達にお礼を込めて愛でながら見ていたレミールのもとに、先程山の民の襲来を知らせた小鳥が再び彼に何かを訴えている。他の者達もその小鳥のさえずりに耳を貸してしまうほど、その意思は強かった。
「フィル、落ち着いて。なんて言ってるのか分からない。」
小鳥の頭を撫でて落ち着かせると、フィルは言葉の分からない者達にでも分かるようなあからさまなため息をついた。そして再びレミールに思いを伝えている。レミールは時折頷きながら、その鳥の言葉を聞いた。
「本当か!!やっぱりそうだったんだ。ありがとうフィル、流石だ。その場所まで、案内してくれるか?」
この時レミールはやっと自分に注目が集まっていることに気が付いた。憎悪を浴びせられる時以外でこんなことになった試しがなく、居た堪れない気持ちになりつつも彼の中で覚悟は決まっていた。フィルをその手に宿らせたまま、双方の長に普段では考えられないほどはっきりとした声で言う。
「真犯人が分かりました。皆さん、着いてきてください。」
「嘘偽りはなかろうな。」
「動物たちは、沢山の目を持っています。それに彼らは純粋で、我々のように黒い心を持ってはいません。僕は、彼らを信じています。」
レミールの言葉に初めは皆戸惑っていた。それは今まで排斥してきた魔術師の言葉であり、今その青年は鳥と言葉を交わしていた。だが彼が力を持っているのは事実であり、それを今この場で認めることにまだ抵抗があるらしい。
「さて、若者の言葉を信じてみようではないか。」
そう言って立ち上がったのは村長だった。彼がレミールの背に腕を回し、案内してくれと頼んだ。レミールと村長が歩き出すと、その後を村人や山の民たちもついて行った。
「ヘレーナ、歩けるか?」
「うん、もう大丈夫。」
セオドアはヘレーナに手を差し伸べ、彼女もその手を取って立ち上がった。この山に住む人々の後ろを、事件の真相を知るためについて行く。レミールが声を掛けていたのか、動物たちはいつの間にか散り散りに住処へ帰って行った。食料と全く思わなかったわけではない。鳥の一匹位今晩の夕食にと思ったが、レミールを裏切るわけにはいかないと我慢したのだった。
「でも夢みたいな光景だったよな。惜しい事したぜ。」
「仕方ないさ。それに今は飯にも困ってないだろ?」
大袈裟に拗ねて見せるヨハンネスを軽く受け流して進んで行く。フィルは獣道も容赦なく進んで行くが、レミールがいたおかげで人々が獣に襲われることはなかった。だがやはり辺りには死華と思わしき華が咲いている。やがて行列が止まった先にあったのは草木に隠された洞窟だった。セオドア達もレミールの傍にやってきたが、これは気が付かないと感心する。
「ここに犯人がいるの?」
「そうみたいです。行ってみましょう。」
中で何が起こるか分からないからと、山の民の長は戦士を何人か呼び寄せ、彼らに先頭を歩くように指示をした。呼び出された戦士はその命令に従い、慎重に中へ足を踏み入れていく。その後を俺達も行くかと、セオドアとヨハンネスが、へレーナに点けてもらった明かりで照らしながら、進んで行った。そのヘレーナはレミールと共に、少し下がった場所からついて行く。洞窟内は広く、辺りには人がいた痕跡が多く残されている。つい先ほどまで、ここで食事を取っていたのかまだ濡れた木製の食器や、焚火を急いで消したような跡を横目に更に奥へと進んで行くと、洞窟内で開けた場所に辿り着いた。息を潜めているようだが、奥にはいくつか人の気配がする。明かりで照らしてみると、そこには怯えた子供たちが身を寄せ合ってこちらを見ていた。
「君たち、そういうことか……。」
山の民の戦士は二人の長に道を譲ろうとすると、突如何者かに襲われ崩れていく。その速さは凄まじく、まだ暗闇に目が慣れていない山の民は次々倒れていった。武器の無い村人を後ろに下がらせ、セオドアはすぐに剣を抜き、その刃を見定めた。
「速いな、俺ほどじゃないけど。」
「なら、お前が抑えたっていいんだぞ!」
セオドアは矢のように空を切り裂く刃を真向から弾き返す。岩壁に叩きつけられた刃の正体にすぐヨハンネスが光を当てると、その刃もまた年端のいかない痩せ細った少年だった。




