pipkとくるっぷにあげたあれを収納したこれ(お帰りなさい)
pipkとくる…ぷにあげたあれを収納したこれ
※涼太と幸樹の話
歳を取り、購入した一戸建て。独身で、結婚の予定もない四十半ばの中年の男が、一戸建てを買うなんて、きっと正気の沙汰ではないのだろう。
二十三時が回る頃、水田幸樹は今日で何本目かの缶ビールを開けていた。誰もいない家、テレビの雑音以外音がない。
この歳になって、中年の男の相手をしてくれるような物好きは、ただ一人を除いていない。その一人も、ここ数日家を開けている。缶ビールの本数は寂しさだ。
インターフォンの音が鳴り響く。
「幸樹さん、ただいま戻りましたぁ」
妙に間伸びした声。
玄関の戸を開け、目の前にいる自分だけの支配種を目に入れる。
背は幸樹より少しばかり低く、年は二回りも下だ。茶髪に脱色した髪は、明かりに照らされ微かに輝いている。
「涼太は戻りましたよぉ、幸樹さん」
藤島涼太は、朗らかに笑って見せる。肩にかけられたボストンバックは、家を出る前よりも膨らんでいる。
「幸樹さん、お酒飲みましたねぇ。一日一本、守ってくださぁい」
家に上がり、空き缶と、まだ酒の入っている缶を捨てる涼太。
「お客様からりんごいただいたので、今から食べましょぉか。切るので待っていてくださいねぇ」
散らかっていた机からは酒缶は消えて、代わりにリンゴが入った皿が置かれた。もう夜も遅いから、と持って帰ってきた洗濯物は明日の朝一番に回すことにしたらしい。
家事代行の職についている涼太は、まだ大学生だ。親元を離れて寮に住んでいると言っていた。だが、今では大学から帰ってきたらこの家で、共に過ごし、家のこと全てをやってくれている。
「幸樹さん」
フォークを置いた涼太は、同じくフォークを置いた幸樹の頬を両手で掴む。
「今、Commandを使っても大丈夫ですかぁ?」
年若い涼太にとって、幸樹は初めての服従種だ。傷つけたくないから、と服従種が与えている権限や命令は、幸樹の許可がない限り使おうとしない。これではどちらが支配種なのか分からなくなるが、服従種としてはきっと恵まれたものなのだろう。
「……ああ、構わない」
服従種が持つ権限を、涼太に引き渡す。
「じゃあ、使いますね……幸樹さん、おかえりをちゃんと言ってください。『Speak』、どうぞ」
そうだ、この男が帰ってきた時に、言っていなかった。いつも、帰ってきた時にはすぐに言おうと、注意を払っているのに。
「……おかえり、涼太くん」
次はどんな命令をくれるのだろうか。
涼太は満足げに笑い、口を開く。