pipkとくる…ぷにあげたあれを収納したこれ(訓練)
pipkとくる…ぷにあげたあれを収納したこれ
※雄一郎と雅仁の話
舌鼓は意識を戻すための合図だった。
モヤが晴れて、視界が鮮明になっていく。小田雅仁は、顔を上げて、あぐらをかきながら命令を下した男を見た。「雅仁、『Look』、こっち見ろ」
眼鏡を外していて、ろくに何も見えないはずなのに、その男だけはやけに鮮明に捉えることができた。
桜庭雄一郎は、指を鳴らす。それも合図の一つだ。
「ちゃんと俺に集中しろ。できるな?」
自分の世界へ没入してしまった時の記憶はない。込み上げる熱と多幸感、それが雅仁を支配した。
喋る余裕はなかった。だから、行動で示す。頷いて、促されるまま再び膝に頭を預けて、撫でる手に集中する。
命令であるCommandを使いコミュニケーションのPlayを行うのはあくまで訓練、と雄一郎は言う。
今までDomと呼ばれる支配種と関わりを持たず、縁の遠かったSubと呼ばれる服従種の自分を、雄一郎以外の支配種から日常生活で守るために、と言っていた。
「Subなのに……よくここまで一人で生きてこれたな」
呆れながらも感心していた雄一郎。人見知りが無意識のうちにDomを寄せ付けないための防衛本能として機能していたのだろう、と雅仁は考えている。
「雅仁、もういいぞ。こっち見ろ、ほら、『Look』」
離れた手を目で追っていると、雄一郎の命令が耳に入った。
自分だけの世界に入ると、多幸感ばかりになり、自分すらわからなくなる。そのまま意識を失って、目を覚ましてもまだその世界に囚われていることが多い。
その直前に、雄一郎は雅仁を取り上げた。
「よくできました」
体を起こして同じ目線になり、抱きしめられた。まだ興奮が抜けきらないせいで、息が定まらず肺の奥が痛い。呼吸を宥めるように背中を撫でる手。
服従種を労う時間として、Careが存在する。雅仁はこの時間が、大切にされていると実感できて、何よりも求めている時間だった。
求めるように背中に手を回して、力の入らない指先で服を掴んだ。
少し冷静になった頭は、羞恥を与える。訓練の記憶が波のように押し寄せ、まともな自分に襲いかかってくるからだ。
「……こんなんじゃ、普通に戻れなくなっちまう」
恥ずかしいのに、雄一郎を求めてしまう。もっと頭や背中を撫でて、大切にしてほしい。そればかりが頭を満たした。
「いいだろ? 俺はあんたに一生を渡して、あんたも俺に一生を渡したんだから」
毛布を掴んで、体を包み込んでくれる。敷いていた布団に二人して寝転び、雄一郎は雅仁の頭を撫でた。先ほどの訓練とは違い、ただ純粋にそうしたい手つき。
冷静になれば、小さな欠伸が口から溢れる。そのまま目を閉じて、雅仁はその手に縋る。