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前世に飽きた魔王の孫、世界に首を突っ込む。  作者: 暇凡人T
二章 冒険者始動編

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その73 足手纏い

 俺は、カイルと少し離れて腰を下ろした。

 翔も、俺の隣におそるおそる座った。

 無音。

 静まり返っている。

 街の雑多な匂いとは違い、わずかに草の香りがする。

 夕日が輝き、街が赤く染まる。

 平和だ。

 妙に、落ち着いている。

 なにも考えなくていい。

 たまにはこういうのも、いいな。

 

 「ここ、いいよな。」


 カイルが静寂を破り、俺に話しかけてくる。


 「・・・たしかに。」


 また、静寂が広がる。

 もういいだろう。


 「なぁ、カイル。」

 「なんだ?」

 「俺たちの、仲間にならないか?」


 一瞬で、カイルは口を閉じた。

 そして、口を開けて…また閉じた。

 複雑な表情だった。

 迷っているような、それでも決めているような。


 「・・・ならない。」


 もう一度口を開けた時には、カイルははっきりと拒絶の言葉を発していた。


 「俺はもう、パーティは組まない。」

 

 ・・・なんでだ。

 カイルは、少し辛そうな顔をしていた。 

 なにがカイルを、そうさせるんだ。

 考えを巡らせる俺は、翔の推測を思い出していた。



 カイルを探しているとき。

 翔が俺を引き止めた。

 

 「優樹。ちょっと待ってくれ。」

 「どうした?」

 「カイルさんのこと、わかったかもしれない。」


 そう、翔が言ってきたんだ。

 俺は、カイルの居場所がわかったんだと勘違いし、翔に返答した。


 「ほんとか!?」

 「ああいや、居場所とかの話じゃないんだが…」


 翔には、見透かされていた。


 「カイルさんが疫病神…みたいな話があっただろ?」

 「・・・ああ、あったね。」

 「あれについて、仮説ができた。」

 

 翔は続けた。


 「カイルさんは、強い。」

 「そんな人のいるパーティが毎回全滅するなんて、おかしくはないか?」

 

 それは、俺が考えもしていないことだった。


 「・・・どういうことだ?」

 「カイルさんのいたパーティは、頼っていたんじゃないかってことだよ。カイルさんに全部頼って、それで慢心して…危険な依頼で全滅した。」


 俺は反論したかった。


 「カイルが、仲間を見捨てたって言いたいのか?」


 そう言っているのと同義だったから。


 「違うよ。カイルさんは優しいから、守りきれなかったんじゃないかな。・・・ああ、あくまで俺の妄想だよ。」

 「まあ、今はそんな場合じゃないな。カイルさんを探すんだろ?」


 ただの妄想。

 だけど、そう断じるには、あまりにリアリティがあった。

 


 なんで俺は、これを思い出した?

 カイルに断られたから?

 そうだ。

 俺たちは違うって、証明すれば…

 

 「カイルさん。」


 翔が立ち上がり、カイルを向く。

 翔も、もしかして…

 

 「僕たちは、弱くありません。足手纏いには───」

 「違う。」


 カイルが、翔の言葉を遮った。

 違うって…なにが?

 カイルは足手纏いの仲間に、うんざりしてたんじゃ?


 「なにを考えたのか、大体わかった。それを理解した上で言う。『強いから』そんな言葉は、もう聞かない。」


 そう言うカイルの顔は暗く、なにかを恐れているかのようだった。

 カイルは一体、なにを考えてる?

 俺は、なにも言えなかった。

 俺たちのいる空間に、重い静寂が広がった。




 『俺たちは強いから、大丈夫だ!おまえを守って見せる!』


 そんな声が、頭の中に響く。

 

 『それなら…』


 はっきり覚えている、光景すら浮かぶ、五年前。

 そんな言葉に誘われ、頷いた。

 頷いてしまった。

 場面は切り替わり、二つの物だけが映る。

 もう光がない、仲間たちの目。

 もう動くことのない、仲間たちの体。

 絶望に打ちひしがれ、後悔した。

 簡単に頷いてはいけなかった。

 何回も、何回もあった。

 目の前で血飛沫が舞い、地面は紅く染まる。

 血生臭い匂い、鉄の匂い。

 悲鳴が耳を切り裂き、助けを求める声が心を貫く。

 地獄だった。

 庇われ、守られ。

 それでも動かない体。

 嫌だった。

 嫌いだった。

 危険よりなにより、自分が。

 誰が足手纏いだ?

 どう見ても、自分だ。

 こんな思いは、もうしたくない。

 そう思いながら繰り返す、自分自身に引導を渡したかった。

 でも、できなかった。

 だから、終わらせよう。

 もう、失いたくはない。




 「・・・。」


 カイルはもう喋らないし…

 翔も固まってる。

 なんか言える雰囲気でもない…

 これはもう、無理かもな。

 カイルの触れちゃいけないところに触れちゃったんだろう。

 だけど。

 それでも。

 このままじゃダメだ。

 カイルが、笑えないままじゃ。

 俺は、立ち上がった。

 そして、少し後ろに歩いた。

 なにをするのか。

 俺はカイルに、手を差し伸べた。

 そして、言った。


 「ついて来て。」

 「俺たちと、一緒に行こう。」

 

 これだけは、言おうと決めていた。

 絶対、言いたかった。

 仲間にすると決めたときから、こう言うと決めていた。

 カイルは、遠くを見つめたまま、動かない。

 ・・・反応なし、か。

 せめて、これで笑ってくれれば。

 そう思ったのは、俺の自己満足だったみたいだな。

 そんなことを考えていると。

 カイルの目が、俺と合っていた。

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