Y-その9 やらなければならない
なんでここに松山さんが?
松山さんも生徒会なのか?
そんな話聞いたことないけど…
「松山さん…?どうしてここに…?」
「雪野くん、だよね。あなたこそなんでここに?私は生徒会だから、仕事をしてたんだけれど…」
やっぱりそうなのか。
生徒会に入れてるってことは、松山さんも成績いいんだろうか。
「俺は、兄上…生徒会長に勧誘されて来たんだ。生徒会に入るために。」
「え?会長って雪野くんのお兄さんなの?意外だなぁ…」
「松山さんは、なんで生徒会に?」
「私は…入学した後、すぐに勧誘されたんだ。聖女候補だからだって。」
聖女候補。
あの噂は、松山さんのことだったのか。
そんな風に話していた俺たちは、近づいてくるもう一つの人影に気が付かなかった。
「盛り上がっているようだな。」
兄上だ。
「会長。来たんですね。」
「ああ。ユーリオンの声が聞こえてきたものでな。」
兄上は、こちらを見る。
まるで、俺の答えを待っているかのように。
「兄上…少し考えさせてもらいましたが、覚悟ができました。生徒会に入らせていただきます。」
「そうか…それはよかった。今すぐに加入手続きをしよう。」
兄上は近くに置いてあった書類を手に取り、ペンと共に俺に差し出した。
「これにサインをすれば、貴様は名実ともに生徒会となる。」
俺は迷わず、その書類にサインをした。
「・・・よし。ユーリオンよ。貴様は、今この瞬間を持って、生徒会役員となった。学園のため、心血を注げ。」
「はい。兄上。」
兄上は、満足したように後ろに振り返った。
「では、早速仕事だ。全庭園の見回りをして来い。生徒会の通常業務のほとんどが見回りだからな。アリアに付き添いを頼む。」
そう言って、兄上は歩き去って行った。
「・・・あ、私、アリア。こっちではそんな名前。ユーリオンくん、でいいのかな?」
「それでいいよ。じゃあ、行こうか。」
「うん。色々教えるね。」
少し気まずい空気が流れつつも、俺たちは生徒会室から出ていった。
「生徒会での仕事はね、見回りとか、行事の運営とかが多いんだよ。あとは、学園内のいざこざを解決したりとか…忙しいんだぁ。」
「へぇ…聞いてた通りだ。」
俺たちは、会話を続けながら庭園へと向かう。
「今からする見回りは…庭園だよね。ならそんなにしっかりしなくていいと思う。一応異変がないか行くだけで、なにも起こるはずないし。そんなに人もいないしね。」
「あ、そうなのか。じゃあ気楽だな。」
「うん。景色見ながら歩けるから、私結構好きなんだぁ。」
俺たちは庭園へと入る。
そこには、正確に整えられた草木と、花たちが広がっていた。
俺は、どっちかって言うと草木が好きな方だと思う。
だからこそ少し、見入ってしまった。
「・・・綺麗だよねー。ここ。」
「・・・たしかに、綺麗だ。」
そんな、少し気まずいやり取りをしつつ、俺たちは奥へと進んでいく。
・・・ちょっと待てよ。
これ、側から見たらデートに見えるのでは?
もし誰かにバレたら…
俺が冷やかされるならまだしも、松山さんに被害が行くのは避けたい。
なにか違う話題を振らないと。
「・・・あ、それで…見回りするときって重点的に見た方がいいところとかある?」
「え?うーん…そうだなぁ…ここは私も意識してなかったけど、怪しそうなところ、かな?」
そんな曖昧な。
まあ、それだけここは安全なんだろう。
ケンカとかも起きないだろうし。
「わかった。ここ以外だとどんな風に見回りするんだ?」
「えーっとねぇ…大体はなんか争いが起きてないかとか、事故とか起きてないかとかを見るかな。なにも考えなくても出来るから、そんなに気にしないでいいよ。」
「そっ、か…」
まあそんなきっちり見回りしないでいいんだろう。
よかったじゃないか。
そんなことを考えていると、なにか遠くに茶色の物体が見えた。
なんだ?
庭園って動物飼ってたりするのか?
だんだん大きくなっていく。
どうやら、こちらに向かって来ているようだ。
徐々に姿がわかり始める。
それは…
巨大な猪だった。
あれって…魔物!?
三メートルはある。
あんな大きさの動物がいるなんて聞いたことない。
たぶんきっと、魔物だ。
動物から進化した、ステータスをもつ化け物。
そう教えられた存在。
初めて見た。
なんでこんなところに?
無意識のうちに、体が震える。
いや、そんなことより…
あの魔物、明らかにこっちを認識してるよな。
まずい。
逃げるか?
いや、でもここで逃げたら…
『勇者になるというものが、魔物程度で逃げたのか?』
そんな声が、頭の中に響く。
・・・そうだ…
俺は、勇者にならなきゃいけないんだ…
戦うしかない。
それしかないんだ。
「・・・松山さん。下がって。」
「え?なに?」
「前に魔物がいる。」
「え!?・・・本当!なんでこんなところに!?」
「わからない。でも、俺が対処するから。」
「危ない、ダメだよ!一緒に逃げよう?」
逃げられないんだ。
戦わないといけないんだ。
「・・・ごめん。ここでやらなきゃいけないんだ。」
俺はそのまま、魔法を発動する。
魔法陣が現れて、腕を前に向ける。
剣はない。
だから、魔法で戦うしかない。
初めての実戦…
そう考えると、伸ばした手が震える。
・・・失敗するな。
逃げるな。
ただ、勝て。
魔法陣に、一気に魔力を流し込んだ。
「水球。」
野球ボールくらい小さく、それでも鋭い、魔力の籠った水の球が、前方へと打ち出される。
その球は、魔物の前足を貫いた。
「ブモオオォォ!」
鮮やかな血が、庭園を舞う。
だが、魔物は止まらなかった。
まるでなにか、やらなければならないことがあるかのように。
血に染まった草木を踏み潰しながら、俺を狙って近づいてくる。
ダメか…
いや、足に当たったのが良くなかった。
もう一回。
急所を貫くまで。
何度でも、撃ち続ける。
「ユーリオンくん!なら、手伝う!『礼法魔剰』!」
松山さんが何かを言った後、急に力が湧き立ってくるような感覚に包まれた。
なんだ?
いや、考える暇はない。
今は撃つしかない。
「水球…!」
もう一度、俺が水球を発動する。
すると、明らかにさっきの数倍はある大きさの球が、より早く射出された。
なんとか制御し、魔物の中央に狙いを定める。
ガッパァン!
何かが砕けるような音と、破裂音が響き…
風穴が開いた魔物が、崩れ落ちていた。
やった…か?
俺は動かない魔物を見て、その場にへたり込む。
「ユーリオンくん!大丈夫!?」
「ああ…大丈夫。ちょっと疲れただけ。」
そんなのは、虚勢だった。
足が震えてくる。
危なかった。
今ので殺せていなかったら…俺が死んでいた。
それに…
俺は、魔物の死体を見る。
血がダクダクと、地面に広がっていく。
血生臭い匂い。
グチャ
そんな音がして、崩れ落ちる死体。
体の中央が貫かれ、支えを失った場所が崩れ、潰れている。
「うっ…」
吐き気がしてくる。
この惨状は、俺が作り出したんだ。
「・・・こんなの…初めてだな…」
そう、松山さんが呟く。
そりゃそうだろう。
とんでもないもの見せちゃったもんな。
「ごめん、こんなもの見せて。」
「いやいや!そうじゃなくてね…」
違うのか。
じゃあなんだ?
「私の援護…礼拝魔法なんだけどね?それをさっき、ユーリオンくんにかけたの。」
ああ、あの言ってたやつ。
あれのおかげで威力とか上がってたんだろうか?
よく見てなかった。
「私が援護した後だと、すごい威力が上がってるように見えたの。」
「それは…松山さんの魔法がすごいだけじゃ?」
「ううん。私の魔法は、何回も見てきた。それでどれくらい強くなるのかもね。」
「さっきは、今までとは違った。明らかに強くなりすぎてた。」
・・・結局、なにが言いたいんだ?
「それでね?もしかしたらユーリオンくんとは特別相性がいいのかなーって思っただけ。・・・さ、もう大丈夫?会長たちに報告しに行こう?」
「・・・わかった。行こうか。」
俺たちは、庭園を後にした。
そして、俺は考えていた。
聖女候補。
その松山さんと、俺が相性がいいとするなら…
俺は、勇者に近づけているのかもしれない。




