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前世に飽きた魔王の孫、世界に首を突っ込む。  作者: 暇凡人T
二章 冒険者始動編

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Y-その9 やらなければならない

 なんでここに松山さんが?

 松山さんも生徒会なのか?

 そんな話聞いたことないけど…

 

 「松山さん…?どうしてここに…?」

 「雪野くん、だよね。あなたこそなんでここに?私は生徒会だから、仕事をしてたんだけれど…」


 やっぱりそうなのか。

 生徒会に入れてるってことは、松山さんも成績いいんだろうか。

 

 「俺は、兄上…生徒会長に勧誘されて来たんだ。生徒会に入るために。」

 「え?会長って雪野くんのお兄さんなの?意外だなぁ…」

 「松山さんは、なんで生徒会に?」

 「私は…入学した後、すぐに勧誘されたんだ。聖女候補だからだって。」

 

 聖女候補。

 あの噂は、松山さんのことだったのか。

 そんな風に話していた俺たちは、近づいてくるもう一つの人影に気が付かなかった。

 

 「盛り上がっているようだな。」


 兄上だ。

 

 「会長。来たんですね。」

 「ああ。ユーリオンの声が聞こえてきたものでな。」


 兄上は、こちらを見る。

 まるで、俺の答えを待っているかのように。

 

 「兄上…少し考えさせてもらいましたが、覚悟ができました。生徒会に入らせていただきます。」

 「そうか…それはよかった。今すぐに加入手続きをしよう。」

 

 兄上は近くに置いてあった書類を手に取り、ペンと共に俺に差し出した。

 

 「これにサインをすれば、貴様は名実ともに生徒会となる。」


 俺は迷わず、その書類にサインをした。


 「・・・よし。ユーリオンよ。貴様は、今この瞬間を持って、生徒会役員となった。学園のため、心血を注げ。」

 「はい。兄上。」


 兄上は、満足したように後ろに振り返った。


 「では、早速仕事だ。全庭園の見回りをして来い。生徒会の通常業務のほとんどが見回りだからな。アリアに付き添いを頼む。」


 そう言って、兄上は歩き去って行った。


 「・・・あ、私、アリア。こっちではそんな名前。ユーリオンくん、でいいのかな?」

 「それでいいよ。じゃあ、行こうか。」

 「うん。色々教えるね。」


 少し気まずい空気が流れつつも、俺たちは生徒会室から出ていった。

 


  

 「生徒会での仕事はね、見回りとか、行事の運営とかが多いんだよ。あとは、学園内のいざこざを解決したりとか…忙しいんだぁ。」

 「へぇ…聞いてた通りだ。」

 

 俺たちは、会話を続けながら庭園へと向かう。

 

 「今からする見回りは…庭園だよね。ならそんなにしっかりしなくていいと思う。一応異変がないか行くだけで、なにも起こるはずないし。そんなに人もいないしね。」

 「あ、そうなのか。じゃあ気楽だな。」

 「うん。景色見ながら歩けるから、私結構好きなんだぁ。」


 俺たちは庭園へと入る。

 そこには、正確に整えられた草木と、花たちが広がっていた。

 俺は、どっちかって言うと草木が好きな方だと思う。

 だからこそ少し、見入ってしまった。


 「・・・綺麗だよねー。ここ。」

 「・・・たしかに、綺麗だ。」


 そんな、少し気まずいやり取りをしつつ、俺たちは奥へと進んでいく。

 ・・・ちょっと待てよ。

 これ、側から見たらデートに見えるのでは?

 もし誰かにバレたら…

 俺が冷やかされるならまだしも、松山さんに被害が行くのは避けたい。

 なにか違う話題を振らないと。


 「・・・あ、それで…見回りするときって重点的に見た方がいいところとかある?」

 「え?うーん…そうだなぁ…ここは私も意識してなかったけど、怪しそうなところ、かな?」

 

 そんな曖昧な。

 まあ、それだけここは安全なんだろう。

 ケンカとかも起きないだろうし。


 「わかった。ここ以外だとどんな風に見回りするんだ?」

 「えーっとねぇ…大体はなんか争いが起きてないかとか、事故とか起きてないかとかを見るかな。なにも考えなくても出来るから、そんなに気にしないでいいよ。」

 「そっ、か…」


 まあそんなきっちり見回りしないでいいんだろう。

 よかったじゃないか。

 そんなことを考えていると、なにか遠くに茶色の物体が見えた。

 なんだ?

 庭園って動物飼ってたりするのか?

 だんだん大きくなっていく。

 どうやら、こちらに向かって来ているようだ。

 徐々に姿がわかり始める。

 それは…

 巨大な猪だった。



 あれって…魔物!?

 三メートルはある。

 あんな大きさの動物がいるなんて聞いたことない。

 たぶんきっと、魔物だ。

 動物から進化した、ステータスをもつ化け物。

 そう教えられた存在。

 初めて見た。

 なんでこんなところに?

 無意識のうちに、体が震える。

 いや、そんなことより…

 あの魔物、明らかにこっちを認識してるよな。

 まずい。

 逃げるか?

 いや、でもここで逃げたら…

 

 『勇者になるというものが、魔物程度で逃げたのか?』


 そんな声が、頭の中に響く。

 ・・・そうだ…

 俺は、勇者にならなきゃいけないんだ…

 戦うしかない。

 それしかないんだ。


 「・・・松山さん。下がって。」

 「え?なに?」

 「前に魔物がいる。」

 「え!?・・・本当!なんでこんなところに!?」

 「わからない。でも、俺が対処するから。」

 「危ない、ダメだよ!一緒に逃げよう?」


 逃げられないんだ。

 戦わないといけないんだ。


 「・・・ごめん。ここでやらなきゃいけないんだ。」


 俺はそのまま、魔法を発動する。

 魔法陣が現れて、腕を前に向ける。

 剣はない。

 だから、魔法で戦うしかない。

 初めての実戦…

 そう考えると、伸ばした手が震える。

 ・・・失敗するな。

 逃げるな。

 ただ、勝て。

 魔法陣に、一気に魔力を流し込んだ。

 

 「水球。」


 野球ボールくらい小さく、それでも鋭い、魔力の籠った水の球が、前方へと打ち出される。

 その球は、魔物の前足を貫いた。




 「ブモオオォォ!」


 鮮やかな血が、庭園を舞う。

 だが、魔物は止まらなかった。

 まるでなにか、やらなければならないことがあるかのように。

 血に染まった草木を踏み潰しながら、俺を狙って近づいてくる。

 ダメか…

 いや、足に当たったのが良くなかった。

 もう一回。

 急所を貫くまで。

 何度でも、撃ち続ける。

 

 「ユーリオンくん!なら、手伝う!『礼法魔剰』!」


 松山さんが何かを言った後、急に力が湧き立ってくるような感覚に包まれた。

 なんだ?

 いや、考える暇はない。

 今は撃つしかない。


 「水球…!」


 もう一度、俺が水球を発動する。

 すると、明らかにさっきの数倍はある大きさの球が、より早く射出された。

 なんとか制御し、魔物の中央に狙いを定める。

 

 ガッパァン!


 何かが砕けるような音と、破裂音が響き…

 風穴が開いた魔物が、崩れ落ちていた。

 


 やった…か?

 俺は動かない魔物を見て、その場にへたり込む。

 

 「ユーリオンくん!大丈夫!?」

 「ああ…大丈夫。ちょっと疲れただけ。」


 そんなのは、虚勢だった。

 足が震えてくる。

 危なかった。

 今ので殺せていなかったら…俺が死んでいた。

 それに…

 俺は、魔物の死体を見る。

 血がダクダクと、地面に広がっていく。

 血生臭い匂い。


 グチャ


 そんな音がして、崩れ落ちる死体。

 体の中央が貫かれ、支えを失った場所が崩れ、潰れている。


 「うっ…」


 吐き気がしてくる。

 この惨状は、俺が作り出したんだ。

 

 「・・・こんなの…初めてだな…」

 

 そう、松山さんが呟く。

 そりゃそうだろう。

 とんでもないもの見せちゃったもんな。

 

 「ごめん、こんなもの見せて。」

 「いやいや!そうじゃなくてね…」


 違うのか。

 じゃあなんだ?


 「私の援護…礼拝魔法なんだけどね?それをさっき、ユーリオンくんにかけたの。」


 ああ、あの言ってたやつ。

 あれのおかげで威力とか上がってたんだろうか?

 よく見てなかった。


 「私が援護した後だと、すごい威力が上がってるように見えたの。」

 「それは…松山さんの魔法がすごいだけじゃ?」

 「ううん。私の魔法は、何回も見てきた。それでどれくらい強くなるのかもね。」

 「さっきは、今までとは違った。明らかに強くなりすぎてた。」

 

 ・・・結局、なにが言いたいんだ?

 

 「それでね?もしかしたらユーリオンくんとは特別相性がいいのかなーって思っただけ。・・・さ、もう大丈夫?会長たちに報告しに行こう?」

 「・・・わかった。行こうか。」


 俺たちは、庭園を後にした。

 そして、俺は考えていた。

 聖女候補。

 その松山さんと、俺が相性がいいとするなら…

 俺は、勇者に近づけているのかもしれない。

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