その71 先輩の教え
前衛なら、いつも通り戦えばいいよな?
俺は刀を抜き放ち、振り下ろす。
共鳴波動によって、斬撃が飛んでいく。
白虎はそれを腕で振り払うが、その直後、たたらを踏む。
共鳴波動は、当たったものに衝撃がそのまま伝わるんだ。
だから迎撃されたとしても、通る。
ただ、見た感じそんな効いてないな。
白虎は、姿勢を低く、こちらに突進してくる直前のような姿だった。
「ゴグオオオオオン!!!」
まるで雷鳴。
空気を切り裂くような咆哮と共に、白虎の体に紫電が纏い始める。
まさか…
その瞬間、白虎の姿が消えた。
直後、俺は剣を横に振った。
ガッギィン!
速い!
見えなかった!
なら、こっから───
ドスン!
前方から、鈍い音が聞こえた。
白虎の体を、一本の槍が貫いていた。
上を見た。
カイルだ。
「ッッゴガァ!!」
白虎が、苦しみながら俺を押し込もうとする。
でも、その程度なら!
俺は横に逸れ、もう一度刀を振る。
それと同時に、カイルは空から斧を取り出していた。
カイルの身長ほどもある、巨大な戦斧だ。
それを振り下ろしながら、白虎に向け落下を始めた。
ズバァン!
ドガァン!
衝撃が、同時に響いた。
血と共に、肉片が地面に散らばる。
白虎は、すでにそれではなくなっていた。
「優樹!大丈夫か!?」
その直後、翔が俺たちの前に現れる。
「うん、もう終わり。」
「そうか…ならよかった。」
そうだ、馬車はどうした?
これ護衛依頼だぞ?
「馬車の方は?」
「それは大丈夫。結界を完璧に貼ってから来たから。優樹が心配で…」
なるほど、そういうことね。
いくら心配だからって、依頼人ほっていくのはどうかと思うが…
まあ俺のことを思ってくれてるってことだね、
ただ、余裕だったね。
翔いらなかった。
カイルのおかげだ。
カイル、ほんと強い。
でも、今までの強者たちと比べると、異質な強さだ。
単純に練度と手札の多さがまるで違う。
しかも、それでいてまだまだ底が見えない。
味方だけど、怖いな。
こいつが敵に回らないことを祈る。
馬車のところに戻った俺たちは、馬車から降りている依頼人を見て、まず怒られることを覚悟していた。
依頼人ほっぽって戦いに行ったわけだからね。
それなのに…
「あなた方、すごいですね!あんな魔物を、苦労もせず倒してしまうなんて!やはり、あなた方に依頼して正解でした!」
興奮したような様子で、俺たちに話しかけてくる依頼人。
それでいいのか。
ほぼ依頼の不履行だぞ…?
まあ、満足してるならわざわざ言うことでもないか。
「あはは…褒めていただけるのは嬉しいんですけど、結界を張っているとはいえ、馬車から離れてしまって申し訳ありませんでした。これ以降は馬車を離れず、護衛に徹します。」
翔が、そう話した。
しっかり謝るのはいいね。
好印象を残せるはず。
そんな打算で依頼人を見ていると、彼はまた喋り出した。
「いえいえ、安全のため戦闘をしなければならなかっただけでしょう?魔法使いのいない戦いは、かなり厳しい戦いになることは知っています。今後もどうぞよろしくお願いします。」
依頼人は俺たちに向け、深々と頭を下げた。
そして、馬車の中に戻っていった。
上手くいったのか…?
御者が手綱を引くと、馬のいななきが響き渡った。
そして馬車が、また動き始めた。
戦闘の痕跡が残る森を、突き進んでいく…
意外にも、その後は何もなく、野営をすることになった。
翔とカイルと一人ずつ交代で見張り番をしつつ、夜を明かした。
俺が一人だけのときに襲撃が…
なんてこともなく、楽な野営だった。
単純に頭数が多いからね。
ぐっすり眠れました。
そして、無事に目的地に到着した。
それは、一つの小さな村だった。
どうやら、依頼人が統治している村のようだった。
そこで、依頼の経緯を話された。
この村から、メリカハルトへと繋がる唯一の道である森の中の道が、謎の魔物によって通れなくなったとのことで、救援に向かいたかったらしい。
ただ、村に行くための道もその森を通らないといけないのも事実。
途方に暮れ、冒険者ギルドに依頼を出した、ということらしかった。
それでか…
たぶん、謎の魔物ってあの白虎でしょ。
アイツは強かった。
討伐依頼ならA、下手すりゃSランクの依頼になっただろう。
だからBランクの護衛依頼にしたんだろうね。
「無事にここまで送り届けていただけましたし…その上で、問題も解決してもらいました。あの魔物が、謎の魔物の正体でしょう。本当に、ありがとうございました。」
依頼人はそう言ってまた、深々と頭を下げた。
「では、冒険者カードをお出しください。依頼完了にします。」
俺たちは、冒険者カードを渡し、しばらく待つ。
カードが返されると、妙な光を放っていた。
これは、依頼が完了した証。
こうやって完了状態にしてもらって、ギルドで見せると報酬がもらえるんだよね。
そして、依頼人は村民たちのところへ向かっていった。
いい領主だね。
領民思いで、礼儀正しい。
おかげで、やりやすい依頼だった。
ま、てことで依頼は終わりだ。
帰ろう。
「じゃあ、翔。帰ろうか。」
「待て待て…たしか報酬はカイルさんと山分けだろう?ならカイルさんとも一緒に戻らないと。」
そういえばそうでしたね。
「・・・たしかに。ならカイルも…」
俺は、少し離れているカイルに声をかける。
「カイル、一緒に帰らないか?報酬、山分けするんだろ?」
「ん?ああ、そうだな。じゃ、行こうか。」
そう言って、カイルは歩き出す。
村から出る方向に。
そうじゃないんだよなぁ…
転移で帰ろうって言ってるんだよ。
まあ、カイルは翔が転移使えること知らないから仕方ないけどさ。
「ちょっと待って、転移使えるからそれで帰ろう。」
「・・・なんだって?転移?」
カイルが、訝しげな顔で振り返る。
なんか変なこと言ったか?
「転移って、あの転移か?」
「なんのこと言ってるかわからないけど、歩いて帰る必要なんかないよ。」
カイルは怪訝な顔をして、俺たちのもとに近づいてくる。
「本当にできるのか?それなら今、この場所から、メリカハルトに戻れるか?」
「・・・翔、できる?」
「もちろん。」
翔は魔法陣を展開し、周囲が光りだす。
「おお…!?」
カイルの驚いた声が聞こえて…
俺は瞬きをした。
次に目を開けるとそこには、いつもの街の通りがあった。
俺たちの間に、沈黙が続く。
「まさか、本当に使えるとは…」
最初に言葉を発したのは、カイルだった。
「嘘じゃなかったでしょ?」
俺は誇らしげに、カイルに返答した。
たぶん、褒められるだろうなぁ…
「・・・君たち、『転移』の希少性は理解してるのか?」
だが、返ってきた言葉は、俺の予想には反していた。
「というと?」
翔が質問に質問で返す。
「わかってないようだな…まず、空間魔法の使い手はそもそもが貴重だ。それだけで重宝されるぐらいにはな。」
へー。
そうなんだ。
で、だからなんなんだ?
「その中でも、『転移』というのは特に貴重で、重要なもの。下手したら、それが使えるだけで貴族になれるんだぞ?」
え?
マジ?
「・・・なるほど…貴重なことはわかりました。でも、その言いようから察するに、多用すると、なにか良くないことが起こるんでしょう?」
翔が聞く。
たしかになんか含みのある言い方だったな。
てか翔、やっぱり頭の回転早いな…
俺はそこまで思いつかんかったぞ。
「よくわかってるじゃないか。『転移』の使用者はその利便性、戦略的重要性から、悪い虫が寄って来やすい。自分たちの都合のいいように使って、本人の意思とは関係なく、取引の材料にまでされる。」
えぇ…?
えげつないな。
「言いたいことはわかったな?」
・・・まあ、大体。
つまり…
「「あまり人前で『転移』を使うな。」」
ハモった。
翔も同じこと考えてたみたい。
「そうだ。さらに言うと、『空庫』もだ。『転移』が使えるなら、当然使えるだろう?」
「・・・ええ。空庫も利便性が高いからですね。」
翔とカイルの会話が続く。
あれー?
俺、置いてかれてる?
「カケル、君はよくわかってる。ま、俺が言いたいのは、気をつけろってだけだ。先輩からの助言だと思って、心に刻んでおくんだな。」
カイルはそう言って、ギルドへと歩き出した。
俺たちは遅れて、それについて行った。




