その69 もしかして、カイルって…
二日後、翔と俺は、指定された集合場所にいた。
そこに。
「すまん!遅れたか?」
カイルが現れた。
軽装で、荷物なんかもほぼない。
腰に付けてある小さなバッグくらいだ。
それだけでどうするつもりなんだろ。
武器とかないけど…大丈夫か?
・・・それを言ったら、俺たちもか。
翔の空庫に頼りきりだもんな。
武器からお金、食料に至るまで取り揃えております。
てか、空庫ってどれくらい入るんだ?
翔が容量で困ってるとこ見たことないから、だいぶデカいんだろうけど。
やろうと思ったら空庫で暮らせるんじゃない?
「いや、全然!まだ時間にもなってないですし、依頼者の方も見えてないですしね。」
翔がカイルに返答する。
「そうか?ならいいんだが…」
カイルは、俺たちから視線を外し、後ろを振り返る。
「・・・どうやら、依頼人が来たみたいだな。」
そう言われ、俺たちもそっちを見る。
が、何もない。
そんなわけないと思って目を凝らすと、遥か遠くに馬車のような物が見えた。
あれのことか…?
・・・え?てかあれをそんなすぐに見つけられんの?
どんな視力してんだよ。
なんかカイルの異常さの片鱗を見た気がする。
しばらくして、馬車が俺たちの目の前に止まった。
豪華な馬車だ。
二頭の馬が引いていて、一人が御者台に座ってる。
この人が御者だろう。
その客車は、今まで見てきた荷物を運ぶことに特化した馬車ではなく、中にいる
人物の快適さや、馬車自体の気品を感じるような、そんな形をしていた。
ガチャ。
馬車のドアが開き、中から人影が出てくる。
服の装飾が多いな…
重そう。
ただ、悪趣味だとは思わんな。
上品な服だ。
その服を着た男は、口を開く。
「はじめまして、あなたがたが護衛の冒険者ですか?」
そう言って、俺たちに向かって歩いてきた。
案外礼儀正しいな。
いわゆる貴族ってやつなんだろうけど、イメージと違う。
もっと傲慢で、下のやつを見下してるようなものだと思ってた。
「そうです。あなたは…依頼人さんでいいんですよね?」
「ええ、私はリュグニア家の、エルド・ドラグネスです。この度は───」
ドラグネス…
・・・ドラゴン?
よく見ると、首筋や頬のあたりに薄い鱗のような物が見えた。
もしかして、翔と同じ?
翔も体中に鱗生えてるしな。
でも、翔よりかなり薄いな…
って、そんなことはいいんだ。
なんか言ってたのを聞き逃しちゃったじゃないか。
「───ということで、ご助力願います。」
終わっちゃったよ。
なに言ってたか全然聞いてない…
まあいいか。
後で翔に聞こっと。
そして、エルドは馬車に戻って行った。
パン!
御者が、手綱を引く音が鳴った。
すると、馬が歩みを進め始めた。
「俺たちも、行こうか。」
護衛開始だ。
俺たちは、馬車の後方で歩き続けていた。
今のところ、危険はない。
魔物は見ないし、まだ整備されてる道通ってるからねー。
暇だ。
ちょっと翔と話すか。
「翔。そういえば、さっきってなんか言ってた?」
「なんの話だ?」
「ほら、依頼人が名乗って、そのあと。聞いてなかったんだよね。」
まあそんな重要なことは言ってないだろうけど。
「たしか…下級貴族で、お金がそこまでないからBランク依頼にしたとか言ってたかな。あと、通る経路が危険すぎるって言ってたよ。」
「へー…」
危険すぎる?
ここが?
まだまだ整備されてる道ですが。
もっと先のこと言ってるのかな?
「ちょいちょい、君たち。」
カイルが、小声で俺たちを呼んだ。
こっちに寄ってくる。
「あの依頼人は、龍人族の方だ。力を誇る文化があって…あんまり失礼なことは言うなよ?」
「なるほど…わかりました…!」
翔が返答し、カイルは戻っていった。
へー、あれで龍人族って言うんだ。
もっと龍!って感じが全面に出てるもんだと思ってた。
しばらく、無言で歩き続ける。
すると、前方に森が見え始めた。
うわぁ…いかにも危なそう…
あそこかぁ、危険って言ってたのは。
考えはそれぐらいにして、歩いた。
危険って言っても、俺たちなら余裕だろ。
そんな慢心があったから。
さらに進み、森に入る。
すると、明らかに空気が変わった。
魔孔眼も、今までより圧倒的に濃い魔力の色を捉えた。
龍迷宮の下層レベルに濃いぞ…
経験上、周囲の魔力が濃ければ濃いほど、魔物が強い。
今まで龍迷宮の外で、こんな濃い色を見たことがなかった。
それもあり、俺は警戒を強める。
「翔、刀出して。」
「・・・はい、どうぞ。」
俺は翔が差し出した刀を持つ。
・・・そう言えば、鞘もらってたな。
これ腰に付けられるかな?
よくアニメとかで見るやつ、俺もやりたい。
ただ、どうやって装備しようか…
俺は自身の腰周りを見る。
すると、ちょうど左側の位置に固定できそうなホルダーがあった。
一枚の布が服に取り付けられていて、そこから二本の細いベルトが伸びている。
今までは邪魔でしかなかったから、ある程度締めて放置してたんだけど。
使うときが来たみたいだね。
たぶん、この服の前の持ち主も使ってたんだろうな。
そんなことを考えながら、俺は刀をそこに持っていく。
これに…刀を鞘ごと通して…締める!
・・・いい感じかな?
俺は少し大きく動いてみる。
だが、刀と鞘はしっかりと固定されていて、俺の動きを阻害しない。
これはいいね!
毎度毎度、翔から武器を渡してもらう手間が省けた。
もっと早くやればよかったな。
「ん…」
周りを警戒しながら歩いていると、カイルがピクッと動き、声を漏らした。
「敵襲だ!迎撃するぞ!」
一拍置いて、カイルから指示が出る。
「どこです!?」
翔が反応し、魔法陣を展開する。
俺も、刀に手をかけた。
「ここからさらに後方、まだまだ距離はある。」
なんだよ。
じゃまだ暇じゃん。
せっかく戦えると思ったのにー。
・・・ん?
ちょっと待てよ?
カイルはその距離の敵を、正確な位置まで割り出してる訳?
今の一瞬で?
どんな感知力だよ。
「いや、そろそろ…」
そう、カイルが言った瞬間、俺の空間感知が反応した。
高速でこっちに向かってくる、魔物の反応を捉えた。
「翔、防衛は頼む!」
そう言って、俺は駆け出す。
久々の強そうな敵だ。
俺一人でやる!
魔人化を発動、加速して、敵を視認する。
豹のような魔物が、牙を剥く姿が見えた。
刀に手をかけ、抜き放ち…さらに加速する。
「一閃!」
ガギャァン!
豹を通り過ぎると、後ろからなにかを切り裂くような音が聞こえた。
・・・ケッ!
面白くない!




