その68 睡眠は!戦闘よりも重い!
眩しいほどの光が、部屋へと差し込む朝。
俺は窓の外を眺めながら、憂鬱な表情をしていた。
そして、俺は心の中で叫ぶ。
依頼が!難しーい!
宿の部屋で、一人そんなことをしていた。
メリカハルトに戻ってきて、あれから一週間ぐらい過ごした。
あの木札もギルドに出しに行って、俺はCランク冒険者となった。
翔もランクアップの前提条件を満たしてたみたいで、試験を受けてた。
そして、俺と同じ日にCランクに上がってた。
・・・それなら俺も試験を受けてから木札を渡せばよかった、って思ったのは内緒。
まあそんなことはさておき、俺たちはCランクパーティになったわけだ。
つまり、Bランクの依頼が受けられるようになる。
みんな知っての通り、依頼のランクが上がるほど、報酬はよくなっていく。
オヤジにも代金は払ったし、すぐに金が必要!ってなわけでもないけど、あって損することはない。
例えば、最初の方に泊まってた宿はもうやめて、ランクを二つくらい上げた宿にしてるからね。
料金が上がってるんだ。
なんで最初の宿やめたのかっていうと…
わからん。
翔が、防犯ができないとか、安すぎて怪しいとも言ってたな。
とにかくそれに従ったんだ。
そういうこともあって、できるだけ上のランクの依頼を受けたい。
今後、世界を旅することを考えてもね。
そもそも、ランクとか上げてナンボでしょ!
例えばゲームでも、上位ランクに居たいでしょ?
それと一緒。
てなわけで、良さげなBランク依頼を翔と受けて来たわけだけど…
それがまた辛くて…
なにがあったかって言うと、商人の護衛依頼でね。
二日間、ずーっと護衛をしてたわけ。
・・・ま、俺たち強いし?魔物とか、盗賊とかに襲われても余裕だった…と思う。
襲われなかったけど。
で、辛かったのはずっと護衛をしてたことじゃなくて、野営のとき。
ここで問題。
護衛の仕事は?
もちろん依頼人を守ること。
つまり、少なくとも一人は起きて周りを警戒しないといけないわけよ。
さらに!あの依頼人!一人じゃ心配だから、って言って二人とも起きとけって言ってきやがったんだよ!
そのせいで眠くて眠くて仕方なかった。
いくら睡眠耐性なんてスキルがあると言っても、寝なくて良いわけじゃないんだからな!
・・・それから何事もなく護衛の仕事は終わって、翔と転移で街に戻って…
すぐ寝たよね、宿に帰って。
それでさ…なにが悪いって、Bランク依頼で報酬が高いのって、大体が護衛依頼なの。
絶望感がすごかった。
稼ぐためにはあんな辛い思いしなくちゃいけないのか、って。
最初が特別酷かっただけで、他の依頼は翔と交互に寝れたんだけどさ。
それにしても眠かったね。
睡眠耐性が仕事してるのか怪しく思っちゃうくらい。
まさか魔物の強さとかじゃなく、睡眠で挫折するとは…
人生って不思議だね。
俺は、頭の中の考えを追い出し、宿の一階にある酒場へと向かう。
朝飯を食うためだ。
既に酒場で飯を食っている翔を見つけ、俺はその横に座る。
「おはよう!翔!」
「おはよう、優樹。」
翔は俺に気がつき、すぐに返事をする。
そして、俺は目の前にいる店員に注文をする。
「こいつと同じものを、俺にも。」
「・・・はい、かしこまりました。」
それで、俺は翔に話を振る。
「依頼の件、どうする?」
「んぐっ…優樹が決めるべきだと思う。俺としては、護衛依頼でも討伐依頼でも、どっちでも。」
翔は口に含んでいた食べ物を飲み込み、俺に返答する。
てか、マジ?
翔はあの護衛辛くないのか?
やっぱこういうところで俺と翔の差が出るよなぁ…
どうしよう。
結局のところ、報酬はそこまで変わるわけでもない。
銀貨三枚程度の差だ。
ただ、こんなことで楽な方に逃げていいんだろうか?
うーん…
それもこれも、もうちょっと人数が居れば解決なんだけどなぁ…
「・・・まあ、もうしばらく護衛依頼を続けてみようか。」
「優樹がそう言うなら、そうしよう。」
コトッ
そう締めたところで、俺の目の前に料理が置かれる。
「お待たせしました。ブロンクパンとコルトポークの燻製肉、それに野菜のスープです。」
「ありがとう。」
そう言って、俺は料理を食べ始める。
まずはパン。
もちもちで、小麦の味がしっかり、美味しい。
肉は…これベーコンでは?
あ、でも焼いてないな…なら生ハムかなにか?
なんでもいいか、塩味効いててイイね!
緑色のスープ。
ちょっと抵抗ある。
クリーミーな味わい…それしか言えない。
てことで、ごちそうさま。
「ふぅ…食べた食べた。んじゃ翔、行こうか。」
「そうだね。今日は元気そうだな。」
「ちゃんと寝たから。今日はいい依頼ないかなー。」
そんな風に雑談をしながら、俺たちはギルドへと向かっていった。
ガチャ…
扉を開け、中に入る。
すると、今までは感じなかったはずの視線が俺たちへと注がれた。
なんだ…?
昨日もギルドには来たし、別に珍しいもの持ってるわけじゃないぞ?
掲示板へと歩き出す。
すると、話が聞こえ始めた。
「たしか、あいつらだよな…」
「冒険者杯で優勝したっていう…」
「ああ、デカい方だろ…」
「本当なのか…」
「優勝賞品の、ランクアップするための札を見たんだって…」
そんなコソコソ話が、俺の耳に入り始めた。
ついに優勝の噂が広まってきたのか?
事実だし、なに言ってもらってもいいけど。
掲示板に到着して、依頼を探し始める。
そこにも、異様な雰囲気が漂っていた。
悩みと、恐怖が入り混じったような空気だった。
「この依頼…どうする?」
「どうするって…無理だろ…」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
なんでこんなことになってんの?
変な依頼でもあるのかな…
俺はいつものように、掲示板のBランク依頼の場所を見た。
すると、信じられないものを見た。
この護衛の依頼の報酬、銀貨…七十枚…!?
とんでもない額だ…
Bランクの依頼の相場って、銀貨二十枚ぐらいだぞ?
それで、高いって言ってた護衛依頼が銀貨二十五枚かそこら。
で、この依頼は銀貨七十枚と。
なにかおかしい。
一体どんな裏があるんだ…?
俺はまだそこまでこの世界の文字が読めるわけじゃない。
だから、翔に頼まざるを得ない。
「翔。この護衛依頼、怪しいとこないか?」
「えー…と。・・・ない、かな。強いていうなら、三人以上で受けなきゃいけないって条件があるぐらい。それ以外は、護衛日時と集合場所、それにルートしか書いてない。」
えー。
三人以上限定?
なんでだよ…
これのせいか?
報酬が高いのは。
それにしても、依頼の報酬は破格だけどね。
・・・でも、それならなんで周りの奴らは受けない?
銀貨七十枚だぞ?
一週間なにもせず暮らせるぐらいだぞ?
・・・口に出すとそれほど大金じゃないな。
まあ、報酬が美味しいのには変わりない。
できることなら、今すぐにでも受けたいんだけど…
「はぁ…もう一人でいいから居たらなぁ…」
そう、ため息をこぼした。
すると、俺の後ろから声が掛かった。
「困ってるみたいだね。」
それは、聞き覚えのある声だった。
俺はすぐに振り返る。
そこには、あの黒髪の青年、カイルが立っていた。
「カイルさんじゃないですか。どうしたんですか?」
翔が、カイルに話しかける。
いつのまに仲良くなったの?
カイルは続ける。
「いや、カケルと…君は、ユウキだったよな?君たちが困ってるみたいだったからね。手助けをしようかと思ってな。」
「・・・と、言うと?」
翔が聞き返す。
「単刀直入に言おう。その依頼、俺と一緒に受けないかい?」
それを聞き、俺は即座に了承しかける。
だが、ギリギリで踏み止まった。
なんか不利な条件押し付けてくるわけじゃないだろうな…!
「もちろん、報酬は山分け…俺が銀貨二十五枚でどうだ?」
そんなことなかった。
いや、それでもなに考えてるかわかったもんじゃない。
・・・でも、この依頼は受けたい…
うーん…
「優樹、どうだ?」
翔が、俺に判断を委ねる。
俺が決めるんだ。
それなら…
「カイル、だな?よろしく…!」
俺は、信じてみよう。




