その67 日常への帰還
・・・へ?
ここ、どこ?
てか、なんで?
俺、普通に街を歩いてた…よな?
なのに急に、目の前に門が現れて…って、ん?
あれ…?
この門って、もしかして。
そう思い、俺は近づいてみる。
そこには、見覚えのあるトカゲ顔があった。
「ん…?ああ、おまえらか。しばらく見てなかったが、戻ってきたんだな。」
そう言ったのは、トカゲ男。
俺たちが最初に訪れた街、メリカハルトの門番だった。
え?
なんで俺ここにいるんだ…?
さっきまでコルバンにいたのに。
・・・ん?
おまえ「ら」?
違和感を感じ、俺は振り返る。
そこには、澄ました顔の翔が立っていた。
翔も一緒に…?
・・・もしかして。
俺の頭の中には、ある可能性が浮かび上がってくる。
「翔…まさかおまえが───」
「はい。戻ってきました。そうだ、通行証いりますよね…お願いします。」
だが、翔は俺の声を遮り、門番に通行証を渡す。
「ああ…たしかに。入っていいぞ。」
「ありがとうございます。」
そうして、俺たちは街に入る。
すると、見慣れていた大通りが見える。
そこで実感した。
ああ…メリカハルトへと、戻ってきたんだ、と。
俺は帰還の感触を噛み締めるが、すぐにそれをやめることになる。
翔に問い詰めないと。
何をしたのか。
なんでここまで帰ってきているのか。
「翔…やったよな?」
「・・・ああ。」
やっぱり。
まあこんなことができるのは、翔ぐらいしかいないよな。
で、結局なにしたんだ?
「なにやった?」
「・・・空間魔法の一つ、『転移』…それを使っただけだよ。優樹ったら、魔法を使おうとしただけなのに、勘違いして先に行っちゃうんだから…勝手に使ったんだ。」
そういえば…たしかになんか言ってたな。
なんかやり残したことがあるのかと思ったら、そういうことだったのね。
納得納得…
じゃないよ!
転移って…つまりワープでしょ!?
そんなこと簡単にするな!
しかも、相当距離あるぞ!?
数十キロ…下手したら百キロぐらい離れてるんだぞ!
それを…こうもあっさりと…
絶対におかしい。
翔がチートすぎる。
・・・ま、楽だったしいいんだけどね。
おんなじ道もっかい帰るのはつまんないし。
・・・でも、翔に負担かけてるかもな…
そう思い、俺は翔の顔を見るが、全く異常はない。
全然元気そうだ。
これなら、いいんだけど。
・・・え?つまり、まだ魔力も余裕ってこと?
怖いことに気がついてしまった。
もう翔がいたら、この距離往復するのも楽勝じゃん。
往復するのも、楽勝…
ん…?
もしかして、あの時降ってきた魔鱗刀って…
「・・・翔、ちょっと俺の刀出して。」
「ん?ああ…武器屋の店長さんにお礼言わなきゃいけないもんな。」
翔は魔鱗刀を俺に差し出す。
「・・・違う。決勝の時、この刀を俺に届けてくれたのって…」
「え?それはもちろん、転移で行ってもらってきたけど…」
やっぱり…そういうことだったのか。
やけに往復が早いな、って思ったんだよ。
「ただ、初めて使ったから、店長をちょっと驚かせちゃったんだよな。店長の目の前に転移しちゃって…腰が抜けてたな…」
なにそれ面白い。
見たかったな。
てか初使用でそんな危ないことしてたの!?
帰れなくなったらどうするつもりだったんだ…
・・・まあ、それだけ俺のことを心配してくれてたんだろうけど。
あと、まだ金払ってないのに、オヤジが刀を渡してくれたのもありがたい。
・・・そろそろ、精算の時だよな。
「翔。武器屋に向かおう。」
「・・・そうだな。」
俺たちは目的地を決め、歩き出した。
カラン、カラン…
一度聞いた鐘の音が、頭上で聞こえた。
「すいませーん。代金を払いに来ましたー。」
翔が声を上げ、店主を呼ぶ。
すると、奥から背の高い、ゴツゴツとした人影が現れる。
「おお!あんちゃんと嬢ちゃんか!」
「はい、メリカハルトに戻ってきました。店長さん。」
「そんな呼び方でなくていいんだって。オヤジとかでいいんだよ。」
翔はなんか店長と仲良くなってる。
なんで?
「あんちゃんも、なんでも気軽に呼べよ!」
俺もだった。
気さくな人なんだなぁ…
「じゃあ、オヤジ。代金の話だけど。」
早速、俺は自由にオヤジを呼んでみる。
「ああ、そうだったな。」
「たしか、金貨三十枚ですよね。これでお願いします。」
そう言って、翔は財布から金を出し、オヤジに渡した。
すると、オヤジは少し驚いたような顔をして、金を受け取った。
「・・・まさか、本当に払いに来てくれるとはな。」
「それは、どういう?」
翔が問う。
もしや、俺たちが恩を仇で返すようなやつだと思ってたってこと?
「いやいや、あんちゃんたちを疑ってたわけじゃないんだぜ?ただ、ここまでの金が用意できるとも思ってなかった。」
・・・たしかに、俺もオヤジの立場ならそう思うな。
稼ぎの無さそうな冒険者が、金貨三十枚なんて大金、払えるわけないもん。
それでも翔に刀を渡してくれたんだから、人の良さが伺える。
「・・・そうだ。結局、なにがあったんだ?あの時、急に嬢ちゃんが俺の目の前に現れて、刀をくれって言うもんだから渡したが。あんちゃんが居なかったのを見るに、なんかあったんだろ?」
あー…翔、言ってなかったのか。
冒険者杯に出場したって。
「実は、冒険者杯の試合で優樹の武器がなくなって…それで来たんです。」
「はー…なるほど。つまり、優勝して来たのか。だから金が払えたんだろ。」
「その通りです。」
理解が早くて助かる。
「あんちゃんたち、そんなに強かったんだな…って、ん?たしか、コルバンってここからかなり離れてたよな?」
たしかにそうだけど、それがどうした?
「そうですね。」
「じゃ、嬢ちゃんはどうやってここまで来たんだ…?」
「転移ですよ?」
「・・・転移ぃ!?」
なんだなんだ!?
なんかダメだったのか!?
俺は久々に口を開き、オヤジに話しかける。
「オヤジ、なんか問題あるのか?」
「いや…転移だぞ!?ただでさえ貴重な空間魔法使いの中でも、一番使い手が少ない転移を…嬢ちゃんが!?」
オヤジはだいぶ混乱している様子で、俺たちを見つめる。
「本当なんですけど…信じてもらえませんか?」
そう、翔がオヤジに言う。
「・・・いや、信じよう。嬢ちゃんもあんちゃんも、しっかり約束を守ったわけだしな。嘘はつかない、だろ?」
オヤジはそう言って、豪快に笑った。
「・・・お、そうだ。あんちゃん、一回あの剣を見せてくれ。」
そう言われて、俺はぶら下げていた刀をオヤジに渡す。
「これだよな?」
「そうだそうだ。」
オヤジは俺から刀を受け取り、じっくりと刀身を確認する。
「刃こぼれやらは…無さそうだな。使い心地は、どうだった?」
「すごい出来だった。なんでも切れるような切れ味と、破壊力を両立していて使い易かったな。」
それを聞いて、オヤジは満足そうに頷く。
「元が良かったんだ。それくらいは当然だろ。失敗じゃなくてよかった。」
オヤジはそう言って、少しの間俺たちの視界から消える。
しばらくすると、魔鱗刀に丁度いいサイズの鞘を持って戻ってきた。
その鞘に刀を入れたオヤジは、俺に渡してから言った。
「この鞘は、サービスだ。また、いつでも来いよ!」
そんな声が聞こえて、俺たちはそこを後にした。




