Y-その8 生徒会
半年ほど経った。
ようやく学園での生活にも慣れてきたこの頃、俺は一つのことについて悩んでいた。
「・・・生徒会、か。」
俺は、生徒会からの勧誘に、かなり悩まされていた。
それは、数日前。
晴天の日のことだった。
「ユーリオン。」
俺の後ろから声がかかった。
俺は振り返る。
俺を呼び捨てにするなんて、同じクラスのやつでも少ない。
だから、どうせ知ってるやつだと思ったんだ。
だが、俺の目に映ったのは、全く知らない男だった。
豪華な服だ…俺の着てる制服とは全然違う。
だけど、神聖学園の生徒だとはわかる服装だ。
年齢は、十八ぐらいだろうか…どこか険しい表情をしている。
髪は青く、だが俺の青い髪色とは全く違う色。
顔は整っていて、どこか俺の母上…ウェルネス王国女王の面影を感じた。
「あなたは…?」
俺は男に問いかけた。
男は、少し不快そうな顔をしてから、俺に返答をした。
「・・・まあ、知らないのも無理はない。私はウェルネス王国第一王子、レグナス・ダルコ・ウェルネス…貴様の兄だ。」
俺は、少し冷や汗をかいた。
母上から、兄の話は聞いていた。
熱心な聖戦教信仰者で、冷徹で優秀…そしてなにより、立場を重視する人だと、聞かされていたから。
無礼な言い方だったか…?
そう思い、俺はもう一度兄に話しかける。」
「兄上、でしたか…!お初にお目にかかります。ウェルネス王国第三王子、ユーリオン・ダルコ・ウェルネスです。」
だが、兄上の不快そうな表情は消えない。
「・・・実は、貴様の鑑定儀式に出席していたのだが…私のことなど眼中になかったか。」
兄上はハッと笑い、俺の肩に手を置く。
俺は、咄嗟に反論しようとして口を開く。
「そんなことは───」
「いい。からかっただけだ…」
俺の言葉は、兄上に遮られる。
なら、よかったけど…
結局なにをしに来たんだろうか。
わざわざ俺を引き留めたんだから、なにか用事があるんだろうけど。
「本題を言おう。私は今、この学園の生徒会長という席に座っている。」
そうだったのか。
でも、それと俺になんの関係が?
「ユーリオン。貴様も生徒会に所属する気はないか?」
俺はその時、ぽかんとしていたと思う。
予想外の提案があったんだから仕方ないと思うけど。
「貴様は勇者の息子…そして、貴様自身も勇者を目標としているのだろう?」
そう言った兄上の眼光が、少し鋭くなったような気がした。
だけど、そんなことを考えている余裕はなかった。
勇者…たしかに、そうだ。
受動的なものではあるけど、俺は勇者にならなきゃいけない。
「生徒会に所属することは、多くの意味がある。勇者になる上での選考も、圧倒的に優位になるはずだが…」
それなら…
・・・いや、でもこの人が俺を勧誘する意味はなんだ?
俺はこの世界で生きてくる中で、価値というものを学んだ。
価値がなきゃ、こんな面倒くさい勧誘なんてしないはず。
それを見極めないことには…
「・・・申し訳ないですが、少し考えさせて下さい。」
「ふむ…そうか。心を決めたなら、生徒会室に来い。すぐに加入処理をしよう。」
そう言って、兄上は去って行った…
こんな流れだな。
しかし、どうしようか…
まさか、俺の兄がここで生徒会長をやってるなんて…
母上はそんなこと言ってなかったぞ。
神聖学園にいるとは言ってたけど。
俺は、ため息を吐く。
生徒会…ねぇ。
この数日間、色々調べてみたけど…
一言で言うなら…「支配者」、かな。
まず、学園の行事や改修工事などを、生徒会の独断ですることができる。
その構成員たちの権力が、普通の生徒たちより上なのは当然。
生徒会長や副会長に至っては、並みの教師より発言力が強いらしい。
恐ろしいな…
そして卒業後は、聖戦教の司祭や大司教など…高位の聖職者となることが大半。
これはかなりメリットとなる。
聖戦教に深く入り込むってことだからな。
・・・だからこそ、その選定は慎重に行われる。
生徒会に加入するためには、必要なことがある。
まず、成績が優秀であること。
それこそ、学年で五本の指に入るくらいに。
今の生徒会には、若くして貴重な空間魔法を操る天才や、信じられないほどの聖の力を宿した「聖女候補」がいるとか…
まあ、それほどじゃなくてもいいだろうけど。
そして、聖戦教を信仰していること。
これは当然だろう。
生徒会に入るってことは、聖戦教の駒になることなんだから。
だってそうじゃないか?
将来、聖職者になることが確定してるんだろ?
なら、駒も同然だ。
最後に、生徒会長や副会長、もしくは教頭以上の教師から推薦があること。
これが必要だ。
俺はというと…全部満たしてる。
成績は結構頑張ってるのもあって、前のテストでは…総合四位だったか?
聖戦教も…表向きは信仰してる。
宗介からの勧誘に折れたってのもあるけど…
そうしないと、どうなるかわかったもんじゃないしな。
まあ、入信の儀式とかしたわけじゃないから、正式には違うのかもしれないけど。
それに、生徒会長からの推薦もある。
だから、入れる。
だけど…
「うーん…」
俺は悩み続ける。
たしかに生徒会に入れば、勇者には近づくだろう。
勇者は聖戦教の管理下で、生徒会に入るのは聖戦教に深く入り込むのと同義だから。
それでも、俺は聖戦教の駒となっていいのか?
あんな、人を人と思わない最悪の宗教の駒に。
そう、俺が葛藤していると。
「・・・あ、あれ、ユーリオン様じゃない…?」
「ほんとだ…!ユーリオン様だ…!」
二つの声が聞こえてきた。
「勇者の息子って…素敵よね…!」
「それだけじゃないわよ…王子様でもあるんだから…!」
「ユーリオン様もきっと、お父様と同じように勇者になられるんだろうなぁ…」
・・・小声で話してるつもりなんだろうか。
全部聞こえてるんだけど。
俺は、その二人の女子をなるべく見ないように、この場から立ち去る。
そして、決めた。
生徒会への加入を。
思い出したんだ。
俺への期待を。
駒になるのは、怖い。
でも、期待を裏切る方が、もっと怖かった。
俺が、勇者にならなきゃいけないんだ。
どんな手を使ってでも。
しばらく歩き、俺は生徒会室に辿りつく。
扉の前に立ち、俺は一度止まる。
「すぅ…はぁ…」
深呼吸をして、緊張を落ち着かせる。
この学園の、トップたちがここにいる。
そう考えると、緊張せざるを得なかった。
コンコンコン。
「失礼します。」
そう言って、俺は扉を開けた。
「はーい…って、あなたは…」
そこには、見覚えのある顔があった。
あの教室。
前世の、何度も思い出した教室の中にいた存在。
顔は違えど、今世も同じ教室で生活していたから、覚えていた。
松山愛香。
前世の、そして今世のクラスメイトが、俺の目の前に立っていた。




