その66 さあ、帰ろう
その66 さあ、帰ろう
「・・・この後は…言わなくてもわかるだろ。これが俺の過去だ。満足か?」
アルトは話を終わらせて、俺の反応を待つ。
俺はといえば…なにを言うべきか悩んでいた。
だってそうでしょ!
軽い気持ちで、「こいつ転生者かもしれないし、過去の話聞いてみよー。」ってな感じで聞き始めた話がさ…
子供の時に親が死んだり…人を殺したりした話を聞かされたらもう、ね。
なんて言ったらいいかわからなくなるよ!
いや、色々思ったよ?
かわいそうだな、とか。
同情できるな、とか。
この生き方が仕方なかったのも、わかる!
でも、それをそのまま言っていいわけないだろ!
アルトにそんなこと言ったら絶対キレる。
そういうタイプだ、アイツは。
かといってなにも言わないのもなぁ。
俺から求めたんだからさ。
うーん…
俺が悩んでいる間も、アルトは俺を見つめている。
・・・ああもうめんどくさい!
思ったことを言ってやる!
俺は、アルトに向き直る。
そして、一言を放った。
「わかるよ。」
「・・・はぁ?」
アルトが疑問の顔を浮かべる。
俺は続ける。
「生き方を選べなかったのも。辛さも。」
「なにを言って───」
俺は、アルトを遮って言い切る。
「でも、俺はおまえに同情しない。」
静寂が広がる。
それを破ったのは、アルトだった。
「同情しないって…普通、こういうときは嘘でも、『仕方なかった』とか言うもんじゃないのか?おまえ、常識ないのか?」
「・・・ほんと、いやな言い方しやがる。」
アルトは俺を罵倒しながら、それでも、どこか穏やかな表情をしていた。
まるで、なにか憑き物が取れたかのようだった。
俺は椅子から立ち上がり、翔に声をかける。
「翔、行くぞ。」
「・・・えっ?もういいのか?」
「ああ。もう終わりだ。」
翔も立ち上がり、俺たちは玄関へと向かう。
そして、俺は玄関のドアに手を掛け、後ろを振り向く。
アルトは、まだ椅子に座ったままだった。
「アルト…助かった。ありがとう。」
「・・・なんだったんだよ、結局。まあ帰るならいい。気を付けろよ。じゃあな。」
簡潔に挨拶は済ませた。
俺はドアを開け、外に出る。
思い切り息を吸い込み、空を見上げる。
空は、雲一つない快晴だった。
彼は来訪者がいなくなったのを確認し、俯いて息を吐いた。
どっと疲れが押し寄せてくる。
なにを言って…なにを言わないのか。
それを考え、実行に移していたからだ。
ただ、一つ予想外のこともあったからというのもある。
「まさか、あの泣いてたガキが俺のとこに来るなんてな。」
そう呟き、彼は立ち上がる。
そして窓の側に立ち、空を見上げる。
「わかる…か。」
彼は来訪者に言われたことを反芻する。
「言いたいことだけ…いや、あいつになら、全部言ってみても───」
そう言いかけ、彼は止まる。
もう、来訪者はいない。
「後の祭りか…」
彼は、また椅子に座り込んだ。
さあ、やることは終わった。
アルトは転生者ではなかった。
俺が違和感に感じたあの強さは、武器由来と考えるのが自然だろう。
こうなってくると、転生者の条件…というか、転生者にはステータスに前世の名前があるのと、神名に「転生」がついてるのかな?
・・・いや、そもそも俺ら以外に転生者がいるのかわかんないけどね?
でも俺一人だけじゃなかった以上、クラス全員、なんならあの教室近くにいた人全員が転生していてもおかしくない。
少なくとも俺と翔だけじゃないでしょ。
だから、転生者を探すに越したことはない。
数少ない、同郷なんだから。
・・・ま、アルトは違ったわけだ。
ここにこれ以上滞在する理由もなし。
てことで、帰ろー!
「よし、翔。街を出よう。メリカハルトに帰るんだ。」
俺は翔に伝える。
そして歩き始める。
だが、後ろから声がかかる。
「待って優樹!」
俺は後ろを振り返る。
そこには、俺を見つめている翔がいた。
なんだろ。
なにか忘れ物とかあるのかな?
まあ俺は先に行っててもいいでしょ。
もうここ飽きたし。
「なんかやりたいことあるのか?なら街の外で待っとくからなるべく早く来てなー。」
「そんなんじゃ───」
そう言って、俺はまた歩き出す。
帰ったらどうしようかなー。
まずオヤジに金払いに行ってー…
そうだ、冒険者ギルドにも行かなきゃな。
やることがいっぱいだぁ。
・・・まあ、また何日も歩き続けてからなんですけどね、街に着くのは。
そんなことを考えていると、体に妙な浮遊感が生じる。
なんだ?
俺は顔を上げる。
そこには、見覚えのある門が建っていた。




