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前世に飽きた魔王の孫、世界に首を突っ込む。  作者: 暇凡人T
二章 冒険者始動編

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その65 アルトという男

 俺が生まれたのは…いつだったんだろうな?

 まったく覚えてないな。

 気づいたら、親父と一緒に暮らしてた。

 こじんまりとした、ほとんど倉庫のような家で、俺たち二人は暮らしていた。

 母親なんていなかった。

 別れたのか、はたまた別の理由か…

 そもそも、親父とも血が繋がってなかったのかもな。

 そんな親父は…普通のやつだった。

 どこにでもいる、ランクの上がらないDランク冒険者だった。

 俺たちは、貧しかった。

 当然だ。

 親父は、自分が生きていくだけで精一杯の金しか稼げてなかった。

 俺を育てる余裕なんてなかった。

 それでも、俺を見捨てはしなかった。

 優しかった。

 俺にたらふく食わせて、育て続けてくれた。

 ・・・馬鹿だ。

 そんなんで、ずっと生きていけるはずがないのに。

 そんな親父との生活は、もちろん苦しかった。

 けど、悪くなかった。

 小さい家の中で、親父の帰りを待つ。

 そして、帰って来たら飯を食って、親父と色んなことをした。

 よく、親父の冒険の話を聞かせてもらっていた。

 親父の体の何倍もある大蛇を叩き斬った話だったり、ゴブリンキングを一人で打ち倒した話だったりな。

 その魔物たちの恐ろしさも、たくさん聞いていた。

 そうだ、戦い方を教わったりもしたな。

 この生活が、ずっと続くんだと、その頃は思い込んでいた。

 そんな生活が変わったのは…たしか、俺が五つぐらいの時だったか…?

 ある日、借金取りが、うちに押しかけてきた。

 当たり前だ。

 あの稼ぎで、俺を満足に育てられるはずがない。

 親父は、大量の借金を抱えてた。

 借金のカタに、うちにあった物は全部持っていかれた。

 最後には、家まで差し押さえられた。

 それでも親父は、『まだ方法がある』と言っていた。

 それこそが、冒険者杯への出場だった。

 冒険者杯に出場を決めた親父は、俺に説明してくれた。


 「ここで優勝すれば、数えきれないほどの金が手に入る。そうしたら、こんな生活とはもうおさらばだ!」

 

 そう、親父は言っていた。

 俺はよくわからなかったな。

 ただ、もっと楽しい生活ができるなら、俺としては大歓迎だった。

 だからこそ、冒険者杯への出場に賛成した。

 その後になにが待っているかなんて、知らなかったんだ。


 

 親父が、冒険者杯に出場する日。

 俺は、どうしても親父の戦いを見たかった。

 今まで一度も、本気の親父を見たことがなかったから。

 ・・・冒険者杯を観戦するために、入場料がいるのは知っているな?

 そんな金が俺にあるはずない。

 でも、親父の戦いは見たい。

 なら、どうしたか?

 俺は、闘技場に忍びこんだ。

 警備員の視線がこっちに向いてない間に、息を潜めて潜入した。

 ただ、少し手間取ってしまったんだ。

 警備が、案外厳しくてな…

 話が逸れたな。

 それで、結局親父の試合には間に合わなかった。

 俺が観客席についた時には、もう終わっていたんだ。

 一人が立っていて、もう一人が地面に倒れている。

 そんな、いつでも見られる光景が広がっていた。

 ・・・ああ、そういえば。

 おまえらは知らないだろうが、万護の腕輪なんていう便利なもんが冒険者杯に導入されたのは最近からだからな?

 導入前は、お互いを殺し合っていたんだ。

 降参させるか、殺すかだ。

 当然、大半が相手を殺して勝利していた。

 負けたら、死ぬんだよ。

 ・・・まあ、その頃の俺もそんなこと知らなかったがな。

 知っていたとしても、親父のことは止めなかっただろうけど。

 俺は、当然親父が勝つものだと信じ込んでいたからな。

 ・・・話を戻そう。

 闘技場内にいた親父は…地面に転がっていて、虚な目をしていた。

 そして。

 ・・・下半身がなかった。

 それを見た瞬間、耳が壊れるほどの歓声が俺の頭を貫いた。

 

 

 ・・・?

 アルトが、黙った…?

 無表情で、どこも見ていないような目をしている。

 もう終わりか…?

 それにしてはちょっと早くない?

 まだまだ五歳とかの話でしょ?

 続きがあるはず。

 ・・・というか、アルト…

 感情が、読めない。

 自分の親が死んだ話をしているのに、なにも感じていないかのような顔をしている。

 そんな薄情なやつだったのか…?

 なにを考えてるんだ?

 ・・・まあ、一旦催促してみるか。

 

 「続きは?まさか終わりじゃないでしょ?」


 俺が続きを求めると、アルトがゆっくり顔を動かし、俺を見る。

 

 「・・・悪い。ちょっと考えてた。」


 アルトは、それだけ言った。

 そして、また語り始めた。



 どこまで話したか…

 そうだ、親父の試合までだ。

 試合が終わった後、俺は闘技場を出ようとしていた。

 だが、周りの会話が、俺の耳を引き裂いた。


 『つまらない試合だったな。』

 『そうだな。雑魚のくせに出しゃばって出場しやがって…』

 『やっぱり負けたやつはゴミだな。』

 『たしかにな。でも一方的に勝つやつは、接戦で負けたやつよりゴミじゃないか?』


 そんな会話が、山のように聞こえて来たな。

 まあそんな中、俺は闘技場を後にした。


 俺は、孤児となった。


 孤児としての生活は…皮肉な物で、そこまで変わらなかったな。

 冒険者となって、低ランクの依頼で金を稼ぎ、飯を食う。

 足りなかったら、盗む。

 それだけのこと。

 簡単なことだったさ。

 それでも、限界は来る。

 冬が来ると、凍えながら毎日を過ごした。

 餓死しかけたこともあった。

 そんなことがあったから、たしか、十歳を迎えたぐらいか…

 一向にマシにならない貧しさに、うんざりしてきていた。

 冒険者ランクも上がらない、金も全く手に入らない…

 だから食べ物を盗み、すぐ食う。

 行き当たりばったりの生き方。

 虚しさって言うのか?

 そういうのを感じてた。

 そんな時、ふと思った。

 今を変えたい。

 そのための方法を、俺は知っていた。

 冒険者杯。

 その賞金は、金貨五十枚。

 俺は、迷わず出場を決めた。

 


 俺の動きは早かった。

 まず、出場するために足りない物を考えた。

 すると、すぐに一つ見つけた。

 武器がない。

 素手で戦うことも考えたけど、やめた。

 さすがに素手で勝ち上がっていける自信はなかったからだ。

 その頃の俺、ただのDランク冒険者だからな。

 かといって、武器を買う金なんかなかった。

 金がない時、どうしたらいいか。

 ・・・そう、盗めばいい。

 俺は盗みには少し自信があった。

 それで生き延びて来たんだから、当然だろ?

 狙い目は、露店商。

 キッチリ店を構えてるところより、対策が甘々だからだ。

 ・・・ただ、用心棒に追いかけ回されることもあるがな。

 俺は武器を売っている露店商に目をつけた。

 物を売り捌いてる表から行くのは避けて、裏からこっそり入り込んだ。

 そして、積み上げてあった武器の中から一つ、引き抜いて持って来てやった。

 ま、直前で店主のおっさんにバレて、選んでる暇なんかなかったけどな。

 それで、俺は武器を手に入れた。

 見た感じ、腕につける武器ってのはわかった。

 どう見ても腕の形をしていたから。

 ただ、その時の俺は心配だった。

 こんな武器で大丈夫か?ってな。

 そんな心配は、武器を装着した時に無くなった。

 その武器の使い方、全てが頭の中になだれこんできた。

 俺は悶絶した。

 無理もないだろ。

 大量の情報が無理矢理頭に詰め込まれてるんだぞ?

 少し経った頃には、もう全部わかっていたけどな。

 どうやって戦うのか。

 どんなことができるのか。

 とにかくこの武器に関することは、全て俺の頭に入っていた。

 その武器が…このガントレットだ。

 大体察してただろうがな。

 そして、俺は闘技場へと向かった。

 今度こそ…

 ・・・いや、なんでもない。

 

 

 初戦の相手は、Sランク冒険者だった。

 なんでも、どっかの迷宮をソロで踏破して来たらしい。

 俺にはわからないけど、たぶんすごいことなんだろう。

 観客は盛り上がっていたな。

 戦いが始まると、すぐにヤツは話しかけてきた。


 『無闇に子供を殺す趣味はない。降参してくれたら、もう終わりにしよう。』


 そんなことを言ってきた。

 けど、俺は止まらなかった。

 止まるわけにはいかなかった。

 俺は、巨大な『拳』を正面に顕現させて、すぐに叩きつけた。

 一瞬だった。

 人を押し潰す、嫌な感触が手に残った。

 俺は、勝った。

 だが、観客の歓声はなかった。

 それが、どうしてもわからなかった。

 歓声が起こるはずなのに、敗者はゴミのはずなの…

 ・・・。

 なんでもない。

 ある観客席の一席に、泣きながら走り去っていくガキが見えた。

 だが、俺はすぐに目を逸らした。



 ・・・それから俺は、冒険者杯の覇者となった。

 大金を手に入れて、貧しさとは無縁になっていった。

 毎年冒険者杯に出て、金を稼ぐ。

 人気もかなり出ていった。

 俺が、人気が出るように動いていたからな。

 そんな生活が、長く続いていたある日。

 おまえが現れたんだ。

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