その64 無自覚って怖いね
俺は少年、レイの後ろをついて歩く。
まさかこんな、思わぬところにアルトの情報があるとは…
いや、元々聞くつもりではあったけど。
この、前に会った子が知ってるとは思わなかったよね。
ま、あれもこれも…
俺は、前を歩いている翔を見下ろす。
翔のおかげだ。
はたから見たら、父親と子供二人にしか見えないよな…
だって今の翔の見た目は十歳かそこらだからね。
ただ…そんな見た目の翔が、あんな誘惑をするとはね…
恐ろしい…
俺は翔に話しかける。
「・・・やっぱり翔はモテるね…あんな小さい子にまで好かれるなんて。ま、それを利用するのは、なかなか悪どいけどな!」
・・・返答がない。
翔の顔を見てみると、驚いたような、意表をつかれたような顔をしていた。
「モテる…?なんでそう思ったかよくわからないけど、俺は理想の年上を演じただけだぞ?」
え…?
まさか…無自覚…?
いやいやいや、それであのムーブは無理がある。
冗談だよ、な?
俺は縋るように、もう一度翔の顔を見る。
だが、翔の顔に、冗談を言っているような雰囲気はなかった。
マジか…
まさか翔が、無自覚人たらしだったなんて…
たしかに誰にでも優しいし、強い。
それでいて恩を傘に着るでもなく…って、あれ?
翔、もしかしてずっと人たらし?
なんで気づかなかったんだ…
それに、今の姿はほぼ美少女だし…
・・・俺はとんでもない親友を持ってしまったのかもしれない。
そんなことを考えていると。
「着いた…翔さん、ここだよ!」
レイが声を上げた。
ここが…
アルトの家。
路地から少しだけ大通りに近い、でも活気なんてない場所に、俺たちはいた。
その家は一見すると、ありふれた一軒家だった。
一階建てで、玄関のすぐそばに窓がある。
こんな一軒家を、俺はコルバンでも、メリカハルトでも見てきた。
ただ、漂って来る雰囲気が普通ではない。
何か、力の波動のようなものを感じる。
・・・いや、気のせいかも。
「・・・優樹。」
翔が俺に呼びかける。
そうだな…
目的を果たそう。
俺は、アルトに話を聞きに来たんだ。
「ふぅー…」
深呼吸をし、覚悟を決める。
コンコン。
扉をノックする音が、ただただ響く。
しばらくの間、俺たちに静寂が広がる。
そろそろ気まずくなって来た頃、扉が、ガチャリと開いた。
「誰だ…って、おまえは…!」
出てきたのは、もちろんアルトだ。
驚いた表情をしていて、俺への敵意が感じられる。
「・・・なにしに来た。俺を笑いにでも来たか?」
アルトは俺の顔を見つめる。
すぐに俺は否定しようと口を開けた、その瞬間。
「・・・いや、違うな。勝ったやつの顔じゃねぇ。」
アルトがまた話し始めた。
「気に食わねぇ。けど、面白い。ひとまず入れよ。」
アルトは勝手に一人で納得し、俺たちを家に招き入れた。
・・・いや、なんで?
中へ入る。
そこには、黒い魔法陣が描かれていた…
・・・なんてことはなく、普通の一般的な家だった。
まず玄関、そこから部屋に入ると、生活感のある部屋が広がっていた。
テーブルに、椅子が一組。
大きめのソファも一つあり、良くも悪くも余裕のある一般家庭って感じ。
前世のイメージで語ってるけど。
俺が部屋の中を物色していると、アルトが口を開く。
「まあ、座れよ。」
俺は指示に従い、大人しくソファに腰を下ろす。
翔もだ。
「で、何しに来た…って、またおまえか?」
アルトは立ったままのレイを指差す。
「何回言ったら分かる?俺は、路地に飯を持って行ってなんかないってな。てめぇの面も拝んだことねぇって。」
うん?
どういうこと?
たしか、レイは、『そろそろアルトさんが来てくれる。』みたいなこと言ってたよな?
で、アルトはレイなんて見たことないって言ってる。
わけわからん。
「そんなはずない!アルトさん、あんたは俺たち孤児に、飯を配ってくれたじゃないか!それも、何回も!」
「だから見間違いっつってんだろ!もういい!おまえはもう帰れ!」
レイとアルトがぶつかり合う。
そして、レイは玄関の方に歩き出す。
「ちょっと、レイくん…?」
翔がレイに声をかけるが、少し反応しただけで、姿が見えなくなる。
そして…
バタン。
と、ドアが閉まる音がして、なにも聞こえなくなった。
・・・アルトは、孤児に飯を配っていた…?
レイの話だと、そうなる。
でも、アルトは頑なに否定してる。
どういうことなんだ…?
「悪いな。アイツが、会うたびにお礼がしたいだのなんだの言ってくるもんでな…ついキレちまった。」
アルトが頭を掻きながら、俺たちの顔を見る。
「なにがしたい?」
俺は、正直に答える。
「話が聞きたい。」
「話だぁ?俺のか?なんだってそんな…」
アルトに話を聞くためにここまで来たんだ。
なにがなんでも聞かせてもらうぞ。
「・・・まあ、いいか。なら、なにが聞きたい?」
あ、いいんだ。
交渉も覚悟してただけに、なんかあっけなく感じる。
都合がいい分には結構だけどね。
「じゃ、まず。孤児に、飯を配ってるのはほんと?」
本来聞きたかったことじゃないけど、今一番気になることだ。
アルトは、渋い顔をする。
言いたくないんだろうか。
「・・・なんだ、そのー…まあ…本当だ。」
言い淀んで、引っ張って、認めた。
どんだけ隠したかったんだよ。
そんなに隠したいことかね?
「理由聞いてもいいか?」
「・・・別に、理由なんかない。気分だよ。」
嘘…とも言い切れないな。
こいつならやりうる。
もし嘘だとしても言う気はないだろうな。
「悪い、話題変えないか?他に知りたいことは?」
あ、話題逸らした。
まあもう聞きたかった場所終わったからいいけど。
なら、本題。
やっと行ける。
「アルト…おまえの過去、それを、覚えている限り前から説明してくれないか?」
これだ。
これで、前世の話を聞き出す。
「ユウキ…おまえ、変なやつだな。俺の過去なんか知りたがるなんて。」
なんかディスられた。
「・・・話したくはないが…まあいいだろう。面白くもないし、どうせすぐ忘れるだろうからな。ただ、長くなる、覚悟しておけよ。」
こうして、アルトの、過去の話が始まった。




