その63 小さい再会
俺と翔は、街を歩いていた。
「優樹?メリカハルトにはいつ帰るんだ?もう少しここに残るのか?」
翔はそう言って、俺の顔を覗き込んでくる。
メリカハルト。
俺たちが、初めて訪れた街。
もう、ここでの目的は達成した。
帰ってもいいんだけど…
「ちょっと、確かめたいことがある。」
「・・・なんだ?それ。」
俺は答えない。
まだ確証もなくて、理由が曖昧なことを翔に言うわけにはいかない。
俺はただ、やることだけを言った。
「アルトに、会いに行く。」
虚拳のアルト。
それは、決勝で戦った戦士。
彼と戦った時、ある違和感があった。
ステータスの割に強すぎる。
・・・だからどうした、そう思う?
なら、周りくどい言い方はよそう。
俺は、アルトが転生者ではないかと疑っているんだ。
突拍子もない?
たしかに、そうかもしれない。
でも、それなら辻褄が合う。
アルトだけが飛び抜けて強いのも。
あの弱いステータスで俺と戦えたのも、転生者特典か何かだと思えば…ね。
・・・ま、結局は勘だ。
だけど、アルトには何か裏がある。
だから、それを確かめる。
「優樹…アルトに会うのはいいけど…」
なんだ?
翔にしては珍しく歯切れ悪いじゃん。
なんか不都合でもある?
「当てはあるの?」
・・・あ。
「・・・ないです…」
「・・・。」
沈黙が、その場を支配した。
・・・えー、どうしよ。
当てずっぽで探す?
・・・ダメだ。
それにしては街が広すぎる。
その辺をアルトがうろついてるとも思えないし。
アルトを知ってそうな人に居場所を聞いていくか…?
なら、まずそういう人を探さないとな…
つまり、結局、聞いて回るしかない。
・・・よし!
「じゃあ、街の色んな場所で聞き込みをしよう!」
「・・・優樹が言うなら、そうしようか。」
俺と翔は、また歩き始めた。
当ては、ない。
だからこそ、最初に訪れたのは…
路地。
理由?
一番治安悪そうだから。
アルトみたいなやつが住むなら、たぶんここだ。
てことで、聞き込み開始!
と、行きたいところだけど。
・・・人がいない。
まあこんなところ好き好んでくるやつはいないか。
でも孤児すら一人もいない…って、んん?
俺は、目を凝らす。
すると、奥に一人、座り込んでいる子供のような人影が見える。
助かった。
あの子に聞いてみよう。
人影に近づいてみると、それは少年だった。
露骨に身構えていて、俺を警戒している。
当然だな。
襲いに来たとでも思ってるんだろ。
でも、ここは引き下がれない。
俺は少年の目の前にまで近づき、話しかけようとする。
すると、その少年が口を開く。
「・・・なんだよ…って…あ。」
なにかに気づいたかのように、少年は声を上げる。
どうしたんだろ。
別に知り合いでもないのに。
少年は、もう警戒心のある顔をしていなかった。
その代わり、その視線は、翔に向けられていた。
・・・ん?
もしかして…
「・・・あ!あの時の!」
翔が少年に向けて声を発する。
そう。
この少年は、あの肉串を盗んだ少年だった。
いやー、気づかなかった。
前にそんなじっくり顔見てた訳じゃなかったし、覚えてなかった。
言われたら、確かにそうか…ってなる、その程度の記憶。
それに比べて、翔はちゃんと覚えてたみたい。
さすがだ。
少年側も翔は覚えてたみたいだし…
・・・まあ、当然か。
翔に惚れてそうだったもんな。
「あ、あの!」
少年が、翔に話しかける。
「えっと…名前は、なんていう…んですか?」
名前??
なんで今???
翔は、少し驚いたような顔で答えた。
「・・・カケルだよ。君は?」
「カケル、さん…あっ、俺はレイ、で…」
・・・なんか話し方がぎこちないな…
緊張してるにしても、言い淀みすぎ。
たぶん、無理矢理敬語使ってるんだろ。
翔によく見られたいのかな?
健気だねぇ。
「カケルさん!あの時は、ありがとうございます!俺が盗んだのに、飯までもらって…」
おい。
盗んだのは俺からだろ。
俺への謝罪は?
・・・って、さすがに大人げないな。
「・・・別に、俺はいいんだよ。でも、もう他の人からなにか盗んでないよね?」
そう翔が言うと、少年…レイは俯く。
「盗っては、ないです。でも…」
ぐうぅぅぅぅぅ。
レイの腹の鳴る音が聞こえる。
「・・・またお腹すいてるの?」
そう、翔が問う。
だが、レイは黙ったままだ。
まあ、図星だろうね。
もう五日以上経ってる。
そろそろなにも食わずには生きていけないでしょ。
「働いてはないの?」
また、翔が問う。
今度は、レイが口を開いた。
「冒険者ギルドで、依頼やってる…けど、金なんかほとんど貰えない。」
ああ…そう言うやつね。
この年齢…四、五歳かな?
なら、稼げるわけがない。
そら、盗みしないと生きていけない訳だ。
「それは…その…」
翔が言葉を濁す。
翔の考えを当てて見せよう。
このままだとこの子の生活が危ない。
かといって、盗みを許可していいわけじゃない…っていう葛藤だろ。
翔だから、そういうことを考えるでしょ。
しばらくの間、沈黙が訪れる。
「・・・はぁ…ほんとならそろそろ、アルトさんが来るはずなんだけどな…」
・・・ん?
今なんて?
「レイくん…?今、誰って言った?」
翔も、俺と同じことを考えていたようだ。
「・・・?アルトさんのこと…?」
その名前を聞いた瞬間、俺は小さくガッツポーズをした。
まさか、こんな子供が!
アルトのことを知ってるなんて!!!
俺が、心の中で絶叫していると、翔が近づいて来た。
俺は、話を聞くために中腰になる。
翔は小さいからね。
「・・・優樹…!」
「ああ、居場所を聞き出そう!」
俺は、翔に全てを任せる。
レイ相手なら、絶対翔の方がいい。
「レイくん、その、アルトさんの家とかわかる?」
「?わかるけど…」
「俺たち、アルトさんに会いたいんだ。案内してくれたら嬉しいな。」
翔はしゃがみこみ、両手でレイの手を握る。
「ッ!わかった!着いてきて!」
そう言って先導を始めたレイの頬は、赤く染まっていた。
・・・うん!
翔、恐ろしい子!




