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前世に飽きた魔王の孫、世界に首を突っ込む。  作者: 暇凡人T
二章 冒険者始動編

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その62 冒険者杯、終結!

 ぐあああああああ…

 俺は、うめき声を出そうとする。

 だが、声が…出ない。

 どうやら、しばらく気を失っていたらしい。

 どれぐらい経った?

 わからない。

 どうなったんだ?

 わからない。

 ただ一つ分かるのは、体がだるくて、動けないことだ。

 ・・・けど、不思議と痛みはなかった。

 言うことを聞かない体に鞭を打つ。

 終わらせるために。

 まだ、終わってないはずだ…!

 俺は、負けてない!

 決着をつけるんだ…!

 翔のためにも!

 俺は、重いまぶたを無理矢理開ける。

 そこに見えたのは───


 「優樹…!?」


 心配そうな、今にも泣き出しそうな…

 翔の、姿だった。




 「無事で…無事でよかった…!」


 翔が、俺の体に顔を埋める。

 嗚咽が聞こえてきて、翔が泣いていることがわかった。

 だがそんな状況でも、俺の頭は混乱に支配されていた。

 

 「翔…?」

 

 なんで、まだ決着はついて…

 俺は、ハッと息を呑む。

 思い出したんだ。

 万護の腕輪。

 あれがあれば、蘇生されるということを。

 まさか…

 最悪の想像が、俺の頭をよぎる。

 俺は…

 

 「負けたのか…?」


 翔が、バッと顔を上げる。

 その反応で、俺は理解した。

 ああ、本当に負けたんだと。

 俺は、自分で来たがった大会に負けて、必要な賞金も確保できなかったんだと。

 そして、なにより…!翔が、侮辱されて、なにもできなかった…!

 アルトを、見返せなかった…!

 俺は、役立たずだ…

 そう、俺が落ち込んでいると、翔が口を開いた。

 

 「違うんだ…優樹!おまえが、勝ったんだよ!」


 ・・・へ?

 勝った?

 俺が?


 「・・・ほ、ほんとに?」

 「ああ…!」


 なんで?

 アルトにトドメ刺せてないはずじゃ…

 ・・・待てよ。

 あの時、俺が使った技を思い出す。

 刃烈波。

 この技は、波動のように斬撃を「飛ばす」。

 もし、この斬撃がアルトに当たったとしたら…

 ・・・ありえる。

 あの時、俺と腕の直線上にアルトは居た。

 斬った勢いのままアルトに命中、両断しててもおかしくはない。

 ・・・ただ、それならなんで翔は泣いてるんだ?

 試合にも勝って、万護の腕があるから死なない。

 泣く理由なんて、なくないか?

 

 「翔、泣くなよ…」

 「グスッ…優樹…だって、三日間目覚めなかったんだぞ…!?」


 う…ん…?

 三日間、目覚めなかった…!?

 そんな時間経ってんの!?

 そら心配するわ…

 迷惑かけたなぁ…

 翔を慰めようと、右腕を上げる。

 すると、手首につけていた腕輪がサラサラと崩れていった。

 万護の腕輪が…壊れた?

 効果発動したのか?

 つまり…俺は今死んで、蘇生された?

 うわ怖。

 この腕輪なかったら、勝ったのに死んでたかもしれなかったのか。

 あってよかった万護の腕輪。



 少し時間がたち、ようやく体がまともに動かせるようになる。

 そして、体を起こす。

 ここは…見覚えがある。

 翔が負けたときに来たところだ。

 どうやら、医務室のベッドにいたようだ。


 「優樹、大丈夫なのか…?」

 「ああ、もう元気元気。」


 翔はまだ心配そうな顔をしてるけど…さすがにもう動かないとね。

 俺はベッドから降りる。

 よっこいせ。

 さて、どうしようか。

 ・・・そうだ、俺が勝ったってことは優勝したってことでしょ?

 賞金はどうなった?

 

 「翔ー?優勝賞金は?」

 「賞金は…たしか、本来は表彰式で渡されるらしい。けど、優樹が目を覚まさなかったから中止になって…今は保留中って聞いたな。受付に聞きに行ってみるか?」

 「行こう!俺たち、そのために来たんだから!」

 

 翔は頷き、歩き出す。

 俺はそれについて行く。

 しかし、実感湧かないなぁ…

 俺、勝ったのか。

 なーんか夢でも見てるみたいだなぁ。

 あんな強いやつに勝てるなんて。

 腕の攻撃が一発でも直撃してたら、俺は死んでただろう。

 運が良かった。

 

 「・・・優樹?」

 「んえ?なに?」

 

 急に翔に呼びかけられ、俺は腑抜けた声を上げる。


 「受付着いたぞ。賞金、もらうんだろ?」

 

 あ、もう着いたのね。

 そう思いながら顔を上げると、確かにこの大会で最初に見た受付の景色があった。

 

 「・・・ああ。」


 俺は、少し緊張しながら受付嬢に話しかける。

 

 「あのー…俺、優樹って言って、冒険者杯で優勝したんですけど…優勝賞金って…」


 ・・・しくじった。

 言葉を発した瞬間、そう思った。

 おいおい!コミュ障出てるって!

 こんな言い方で分かるわけないだろ!

 いい加減にしろ!

 ・・・俺は、助けを求めるように翔の方に振り返る。

 すると。


 「・・・ああ!ユウキ選手ですね!優勝おめでとうございます!」


 ・・・え?

 もう一度、前を見る。

 そこには、満面の笑みで俺を称賛する受付嬢がいた。

 やっとそれで、実感した。

 俺は、勝ったのだ、と。

 

 

 そこからは早かった。

 受付嬢に裏に連れて行かれ、主催者から直接の賛辞と、賞金を受け取ることができた。

 もう一度受付に戻ってくるが、まだ終わりではなかった。


 「次は…副賞の冒険者ランクの昇格ですね!」

 「・・・え?なんですか?それ。」


 聞いてないぞ、そんなのあるって。

 ・・・いや、どっかで聞いたか…?

 聞いたような…聞いてないような…

 

 「優勝者には、冒険者ランクを試験などなしで一ランク昇格できる権利があるのですが…必要ないですか?」

 

 それを聞いて、俺は即座に頷いた。


 「いやいや!お願いします。」

 「わかりました…では、こちらの書類にサインを…」


 俺は翔に、『これだけは覚えておいて!』と言われた言葉を書く。

 しっかりこっちの言葉で、『ユウキ』、と。


 「・・・はい!バッチリです!」

 

 受付嬢は書類をしまい、一つの木札を取り出す。

 ・・・なにこれ。

 

 「こちらの木札を、冒険者カードとともに冒険者ギルドに提出されれば、ランクアップとなります。忘れないよう、お願いします!」


 これで終わり、かな?

 やっと帰れる…

 疲れたー。


 「あ、それと…」


 まだなんかあるの?

 もう飽きたよー!


 「ちょっとお顔を寄せてください…」

 

 そう言われたので、俺は大人しく顔を寄せる。

 受付嬢は、俺の耳に顔を寄せる。

 なんだなんだ?

 重要情報ですか?

 

 「・・・ユウキさん、とってもカッコよかったですよっ!」

 

 受付嬢は、小さな声でそれだけ言って顔を離した。

 

 「またの出場を、お待ちしております!」


 俺はその声を受け取りつつ、闘技場を後にした。



 その時の俺の顔は、見れたもんじゃなかっただろう。

 自分でもわかっていた。

 頭が、とても熱かったから。

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