その58 虚拳
数日後。
俺は今、選手控え室にいる。
ここ数日間、ずっとこの部屋にいた気がする。
そりゃ試合の時は出たけどさ…
一瞬だし。
まさか宿にすら帰れないとはね…
予想外だった。
まあ飯も一日三食出たし?
ベッドもふかふかだし?
不便だったかと言えば…
・・・もう少しここにいてもいいかもな。
いや!
もう今日でこんな生活は終わりだ!
外出られないのは辛い!
今日は、ついに決勝なんだ。
気合い入れていこう。
相手は、絶対王者。
アルト。
翔の仇だ。
絶対に、勝つ。
俺は、部屋から足を踏み出した。
闘技場の中心で、二人が向かいあう。
「とうとうこの日がやってきたぁぁ!今年の冒険者杯は、波乱の幕開けから始まり、どう終わるのか!?では…両選手の紹介だ!」
いつも通り、司会の言葉がうるさいくらい響く。
「まずはこの男!開幕時、誰がこの男が決勝にまで上がってくると予想した!?初戦で我々に衝撃を与え!それ以降すべての試合を一撃で終わらせて来た男!ユウキ選手だぁぁ!」
ワァァァァァ!!
かなり大きな歓声が上がる。
俺にもファンがついたのかしら。
でもなぁ。
「対するは、絶対王者!息をするように相手を下し、当然のように勝ち上がってきた!その能力と無慈悲さに、ついた異名は『虚拳』!アルト選手だぁぁ!!」
ワァッッ───
反射で耳を塞ぐが、それでも耳を劈くような爆音が俺を襲う。
・・・あー、うるさい。
耳が痛いよぉ。
いくら俺にファンがついても、これがあるからね。
相手、アルトが人気すぎる。
俺も活躍してるんだけどなぁ…
まあ、俺には実績がないし仕方ないか。
それでも悔しいものは悔しい。
だからこれに勝って、人気逆転させてやるぜ!
「さぁ!勝つのは、すべてを一瞬で終わらせてきたスーパールーキーか!それとも、王者が玉座を守り通すのか!」
俺は剣を構え、不意打ちに備える。
「では!決勝戦!開始ィ!」
審判の合図を見て、俺は即座に動き出す。
魔人化を発動!
最初から手加減はしない。
あわよくば、これで終わらせられるように。
アルトはまだ動かない。
なら!
今までやってきたように、全速力で背後に回る。
そして、思い切り剣を突き刺す!
ガギィン!
硬い、弾かれた感触。
・・・まあ、これじゃ無理だよね。
これは想定内。
そう考えながら、俺は剣が弾かれた場所を見る。
そこには、何か壁のようなものが出来ていた。
なんだ、これ…?
翔との戦いじゃ使ってなかったはず。
これに防がれたのか。
一旦下がるぞ!
他に何されるかわかったもんじゃない。
少し、後ろに下がる。
すると、壁の全体像が明らかになる。
あれ?
これ…もしかして…
「腕…?」
俺の眼には、ガントレットが付けられた巨大な腕が写っていた。
なるほど、理解した。
これが、翔が見た腕…拳か。
アルトの能力は、巨大な腕を出すことか?
今はわからない。
なら、全部明らかにしてやる!
俺は、アルトを鑑定する。
種族:魔族 コルシル族
進化ツリー
名前:アルト
神名:体術家
年齢:17歳
レベル:13
経験値:243/330
満腹度:71/100
ステータス
HP:4381/4381 MP:1065/1078 SP:4882/4904
攻撃能力:4565 防御能力:5312
魔法能力:947 速度能力:3670
スキル
{HP回復自動化Lv3}{SP回復高速化Lv9}{空腹緩和Lv10}{満腹持続Lv10}{神の声Lv10}{分析Lv1}{言語理解Lv10}{魔力知覚Lv4}{物体感知Lv2}{隠密Lv9}{並列思考Lv3}{衝撃攻撃Lv3}{計算Lv6}{念操Lv7}{体感時間延長Lv6}{波動Lv1}{痛覚軽減Lv2}{視力増強Lv7}{聴力増強Lv6}{嗅覚強化Lv2}{触覚強化Lv8}{打撃大耐性Lv1}{斬撃耐性Lv2}{生命力増強Lv7}{技力増強Lv8}{攻撃能力大増強Lv1}{防御能力増強Lv9}{速度能力大増強Lv8}
魔法
なし
闘法
{技闘法Lv5}{体術Lv5}
修練結晶:2
スキル一覧表
魔法一覧表
闘法一覧表
得意属性・苦手属性
え?
なにこれ…
俺の目がおかしいのか?
そう思い、俺は目を擦る。
だが、何も変わることはなかった。
魔人化なしの俺よりステータス低いぞ!?
どうなってる!?
こんなのに、翔は負けたのか!?
・・・待て…
落ち着け、焦るな…
「ふぅー…」
俺は深呼吸をする。
実際、俺の攻撃は止められた。
何かカラクリがあるはずだ。
例えば、神名の効果とかな。
見極めてやる。
もう一度、アルトに攻撃をするんだ。
そうだ!
これなら…
重力磁場、発動!
最近使ってなかった、ノーマルな重力磁場だ。
重力磁場を使えば、あの腕に防御されないはず!
アルトを指定、重力を横に!
・・・?
アルトが、全く動かない。
重力抵抗持ちか?
神名効果に重力抵抗持ってると動かしにくいんだよな。
でも、全く動かないって妙だな。
神名鑑定してみるか。
体術家: 条件-体術のみで一定期間戦うこと。効果-スキル{体術}のレベル+1
これだけ!?
重力抵抗もないし、なんならあの巨大な腕の記述もない…
じゃああれはなんなんだよ!?
スキルにもなかったぞ!?
どうなってるんだ…
俺は、考えすぎていた。
いくら動かないとは言え、目の前に敵がいるのに。
予想外の情報が多すぎた。
翔が、そうやって負けたのに。
「もういい。」
そう、聞こえた瞬間、目の前に巨大な拳が迫ってきていた。
それでも、俺は…




