その57 敗北者…?取り消せよ…!今の言葉…!
・・・はっ。
ははは。
面白い冗談じゃないか。
翔が…俺の相棒が負けるなんて。
あー面白い面白い。
・・・そう思うだろ?
観客席の、息を飲む音。
翔の乗った担架が、運ばれていく光景。
そして俺の、心の荒れ具合。
その全てが、今起こったことが現実だと知らしめてくる。
・・・冗談だって、言ってくれよ…
翔…俺のそばに、居てくれよ…
「・・・はっ!?」
しばらくの間、俺は放心状態だったようだ。
翔が負けたのが、ショックすぎたみたい。
翔…そうだ翔!
様子を見に行かないと!
どこにいるんだ…!
ガチャ!
俺は控え室のドアを乱雑に開け、翔を探そうとする。
だが…
「ユウキ選手?どこに行くつもりですか?」
控え室の前に待機していたスタッフに引き止められる。
うるさいなぁ!
俺は翔のところに行かなきゃならないんだ!
「翔のところに!」
「カケル…カケル選手ですか?先程言ったはずですが、選手同士の接触は…」
話が通じないな…!
「・・・翔は、負けた!もう選手じゃない…だから、会っても問題ないはず!」
・・・できれば、俺の口からこれは言いたくなかった。
翔が負けたことを、認めたくなかった。
でも、そんなこと言ってられない。
翔が、心配なんだ。
「・・・なるほど、でしたら…問題ないでしょう。医務室に案内します。敗退者はそこです。」
え?
なんでそんな…
・・・いや、今はそれより、翔の元に!
「・・・ありがとうございます!お願いします!」
「では、こちらへ。」
俺はスタッフに連れられ、翔の元へと向かう。
心のざわめきを、押さえつけながら…
「ここが医務室です。控え室に戻る時は、私が先導します。くれぐれも一人で行動しないでください。違反となりますから。」
俺は、すぐに医務室に飛び込んだ。
部屋の中では、試合で敗北した者や、勝利したものの負傷した者が治療されている。
翔は…どこにいる?
人が寝かされているベッドを一つ一つ確認していく。
だが、翔はいない。
くそ、ダメだ、人が多すぎる…
これだと一生見つからないぞ。
ああもうめんどくさい!
全員鑑定してやらぁ!
おらおらおらぁ!
俺はベッドに寝ている人をすべて鑑定していく。
その鑑定結果を流し見しながら、翔の名前を探す。
すると…あった。
あそこだ。
「翔!」
ベッドの側に駆け寄り、翔に話しかける。
「ん…うん…?優樹か…?」
「そうだ、翔…大丈夫か?」
翔から返答があることに安堵しつつ、俺は質問をする。
「ああ、大丈夫。しっかり回復してる。あの腕輪のおかげだね。」
それにしては…
翔の顔色は悪くて、表情も決していいとは言えない。
具合悪いように見えるけど。
「ほんとか?気分悪かったりしない?」
「・・・そう、見えるか…」
翔が少しため息を吐く。
どうしたんだろう。
やっぱりなんか調子悪いんだろうか。
俺は、そんなことを考えていた。
「・・・ごめん!」
すると、俺の予想外の言葉が飛んできた。
「・・・え?ごめん??」
「うん、ごめん。俺は、勝てなかった。優樹と、戦えなかった…!」
ああ、なるほど。
あの時の、試合で会う、っていう約束を守れなかったからか。
気にしなくていいのに。
「翔、そんなのいいんだよ。おまえが無事でよかった。」
「いや!俺は自分が…不甲斐ない…!」
翔の頬を、一滴の水が滴り落ちる。
・・・そうか。
それ以上に、悔しいんだろう。
手も足も出なかったことが。
わかるよ。
俺にも、痛いほどね。
しばらくして、やっと翔が落ちついた。
「ごめん、取り乱して。」
「謝るなって。気にしないし。それより…」
俺は、気になっていたことを聞く。
「何があった?」
「・・・。」
翔が、俯いてしまう。
なんか俺、まずいこと聞いたか…?
俺が若干焦っていると。
「・・・反応、出来なかった。」
翔が話し出す。
「反応…つまり、見えたのか?何をされたのか。」
「そうだ。あれが…拳が見えた。」
は?
拳!?
あの状況で、接近して殴ったとでも!?
翔の魔法を喰らわず!?
不可能だろ!
「その拳、とんでもない大きさで、俺の体の数倍はあった。それに吹き飛ばされたんだ。」
「・・・ん?」
翔の、数倍?
どんな腕だよ!?
化け物かなにか???
・・・いや、原理はどうでもいい。
翔の話を聞こう。
「どうした?」
「・・・いや、ごめん。続けて。」
「わかった。俺はその時混乱して…何も出来なかった。俺の、弱いところだ…」
「それは…」
仕方ないよ。
その言葉を俺は飲み込んだ。
間違ってない。
翔は、予想外の行動に弱い。
予想内なら、綿密な作戦を立ててあるから行動出来る。
でも、予想外になった瞬間、フリーズする、
たぶん、状況の理解と、対策を同時に考えてるんだと思う。
だから行動が遅れる。
要約すると、考えすぎるんだよ。
翔は。
悪いとは言わない。
実際、予想内なら完璧な戦術で勝つ。
だけど、一瞬一瞬の判断が命取りとなる戦いじゃ、不向きだ。
つまり、相性が悪かっただけだ。
翔は弱くない。
そう、自分に言い聞かせる。
ただ…
感情は、別だよな。
やってくれたじゃねぇか…俺の親友を…
翔がここまで落ち込んでるのなんて久々だ。
絶対に許せない。
「・・・翔。」
「ん?なんだ?優樹。」
「仇、とるからな。」
「・・・ああ、任せた。」
俺は、決意を固めた。




