Y-その7 本当の魔法
また、一か月ほどが過ぎた。
今は教室で朝のホームルームを待っている。
セリオ…宗介との関係は良好だ。
前世のような関係に戻りつつある。
セリオは、あまり変わっていないみたいだ。
ただ、なぁ…
「ようユーリオン!そろそろ、聖戦教に入信する準備はできたか?」
これだ。
宗介は話しているとき、大体俺や、他のやつらを聖戦教に誘っている。
「いやー…俺は親の言うことが絶対だから…」
「そうか…考え直したら言えよ!いつでも準備出来てるから。」
これで百パー善意なんだからタチが悪い。
思えば、前世から宗介は正義感が強くて、自分の正義を貫くやつだった。
それが聖戦教教皇の孫なんて立場に転生したわけだ。
宗教教育を受けすぎて、狂信者のようになってしまったんだろう。
別に悪いこととは言わないけど…
どうも俺は、聖戦教を好きになれない。
聖戦教。
いつか、俺たち人族と、魔族の間で「聖戦」が起きる、と信じている宗教。
「聖戦」のために戦争を歓迎していて、宗教自体が強大な軍事力を持っている。
人族を至上の生き物として、魔族を人族社会から排斥、支配しろという教えが主だ。
そして、それはほとんどの人族の根幹に染み付いている。
その影響力は絶大で、多くの国家の王族までもが軒並み信仰しているほどだ。
もちろん、俺の生まれた国、ウェルネス王国もそうだ。
さすがに信仰強制はされなかったけどな。
話を戻そう。
聖戦教は…魔族を奴隷化している。
初めてそれを聞いた時、俺は耳を疑った。
俺の価値観にはないものだったから。
この国に来てから一度、奴隷化された魔族を見たことがある。
あれは、ひどかった。
幼い子供から、老人まで、平等に人として扱われていなかった。
重労働をさせられて、反抗したら殺されていた。
まさに、地獄の光景だった。
だけど、それをこの社会は受け入れている。
奴隷商人なんてものが合法で活動できるんだ。
正直、狂ってるとしか思えない。
ウェルネス王国はまだ、比較的聖戦教の影響が少ない国だからよかった。
それ以外…ここ、レーベル聖戦神国とチュレイド帝国は特にひどい。
聖戦神国は、そもそもが聖戦教の国で、聖戦教が国家を運営してる。
だから当然っちゃ当然。
帝国は、聖戦教との結びつきが強くて、影響力やらも大きいらしい。
帝国出身のクラスメイトが言ってた。
で、その二つの国は二つとも大国で、国としても影響力を持ってる。
これが、この世界の情勢だ。
宗教に支配されてるなんて、違和感しかない。
これは、転生者だから馴染めないのか?
そんなはず、ない。
人種で人を差別するなんて、間違ってるはず。
・・・だけど、この世界は聖戦教の価値観が「普通」だ。
俺は、勇者にならなきゃいけない。
その時、俺の勇者としての振る舞いが、みんなが求めるものじゃなかったら…?
そんなことを考え、ゾッとする。
・・・いや、今そんなこと考えても仕方ない。
ここに来て、たくさんの転生者仲間と会えたんだ。
前世では途中で終わってしまった学園生活、満喫しよう。
今日もまた、授業が始まる。
「皆さん、席に着いてください。始めますよ。」
これから始まる授業は、魔法学。
魔法の原理とか、魔法をどうやって使うかとか、まあ魔法全般を習う。
「本日は…魔法の適正と、属性操作についてです。」
適正は…どれだけその魔法に向いてるか、だったか。
それは知ってる。
スアンとやってた。
・・・だけど、属性操作ってなんだ?
教師が、黒板に板書を始める。
「魔法の適正というのは、文字通り魔法にどれほどの適正があるか、というものを表しています。」
俺は板書を写し始める。
「適正は魔法ごとに決まっていて、種族、神名、血筋など様々な要因で定まります。生きていく中で適正が変わることもよくあります。」
なるほど…
適正って変わることもあるのか。
これは初耳だ。
「適正については、まあこのあたりでやめておきましょう。これ以降は少し話が逸れます。次は、属性操作についてですね。」
きた。
俺が知らないやつだ。
「属性操作というのは神名の効果で、各種魔法に拡張性を持たせることができます。」
拡張性…?
どういう意味だ…?
「例えば、水属性操作は、水魔法を拡張できます。水球を使うとしましょう。この時、水属性操作を持っていない場合、魔法陣を起動し、魔力を注ぐ以外に操作はできません。」
それはまあ、当然だな。
今まではそう教えられてきた。
「ですが、水属性操作がある場合、練度にはよりますが、色々な操作が可能になります。」
どんな風に?
操作って言っても、魔法の起動を動かすだけとかじゃ?
「まず、水弾の形成段階から、硬度、大きさ、形など様々な操作が可能です。」
そこから!?
それだとかなり話が変わる気が…
「発射にも速度、軌道、回転数など多くの要素を加えられ、さらに発射後の操作もできます。この働きにより、複数の魔法を混ぜ、使用することもあります。ただ、これは複数の属性操作が必要なため、使用者がとても少ないです。」
えぇ…
マジかよ。
今までの魔法と、根本的に違う。
これが、本当の魔法の使い方。
これだと、対応する属性操作がないと、まともに魔法使えないようなもんじゃないか。
「つまり、属性操作の存在によって、魔法の適正だけではその魔法をどれほど使いこなせるのか、ということは判断できません。」
なるほど。
俺は草と水、それに光の適正が高かったはずだけど、それぞれの属性操作を持ってるんだろうか。
また調べてみるか。
「まあ、ある程度魔法の適正に属性操作の入手も依存するので、今なんの属性操作を持っていない方も案ずることはありません。今後じっくりやっていけばいいでしょう。」
それなら安心か。
俺は剣術を重視して鍛えてるとはいえ、魔法もまったく苦手じゃない。
むしろ得意なぐらいだ。
だからこれからも上手く扱えそうでよかった。
属性操作ねぇ…
聞く限り二つ持っている人も珍しいみたいだけど…
俺は二つ、欲張るなら三つ欲しいな。
それがあれば魔法もフルで扱える。
あーあ。
もし、俺に全属性操作とかあったらなぁ。
さらに高みへ行けるのに。
それなら、ちゃんと俺を見てくれる人も…
・・・いや、全属性操作なんてありえないか。
それに、俺はこのままでも、きっと見てもらえるはずだ。




