その33 親友(?)との会話
「うっ、うーん…」
俺は伸びをして、起き上がる。
意識を失ってたみたいだ。
何があったんだったか…
目を擦りながら周囲を見る。
すると。
「ッ!?」
そこには、龍がいた。
即座に剣を持ち、戦闘体勢に入る。
が、俺はすぐに思い出す。
その龍には見覚えがあることを。
「ん…?翔、か?」
一瞬、変な空気が流れる。
「えーっと、優樹?で、合ってるのかな?」
龍の口が開き、言葉を発する。
そうか、今の姿は前世と全然違うんだから、分からなくても無理はないか。
翔は鑑定も持ってないし。
「そう!合ってる!久しぶり!」
「マジか、久しぶり。」
「翔なんだよな!?」
「そうだね、岩田翔。なんでわかったんだ?」
「鑑定ってスキルがあって、それで前世の名前が見えたんだ。」
翔、前世の親友。
それが、本当に転生してきてるなんて!
聞きたいことが山ほどある。
でも…まずは───
「なんで翔は龍なんだ?」
「えーっと、うーん、わからない。生まれた時からこうだったんだ。」
「へぇー。まあ転生先が違うのは当然のことか。」
「そんなことより、優樹。」
?
なんだろう?
「おまえ、さっき魔物から助けてくれたよな…?」
「ん?うん。だって当然だろ?」
翔は驚いたような顔をする。
親友を助けるのは当然だろうに。
「・・・いや、そうか。でもこれだけは言いたい。」
「なんだよ、畏まって。」
「助けてくれて、ありがとう…!」
翔は、泣いていた。
俺に龍の表情なんてわからない。
わかるはずない。
でも、泣いていた。
俺は、それを止めることもなく、ただ黙って見続けていた。
翔が泣き止んで、口を開く。
「ごめんな、見苦しいところ見せて。」
「いや、全然。聞きたいのはそれだけ?」
「・・・じゃあ、あと一つ。なんでこんなところに?」
「それはちょっと説明が難しいな…長くなるけど、いいか?」
「全然大丈夫。」
「まず───」
翔に、今世のすべてを話した。
魔王の孫に転生したこと。
「魔王の孫?魔王なんてものがいるのか?」
「あー、うん。よくあるRPGの魔王とおんなじと考えていい、と思う。でも、俺もあんまりよくわかってないんだよな…あまり話を聞けなかったし、軟禁状態だったし。」
その後襲われて、強くなろうと決意したこと。
「襲われた、か。魔王の孫だからか?」
「考えたことなかったなー。たぶんそうなんじゃない?」
「・・・そうか。」
二年間自分を鍛えて、親に捨てられたこと。
「す、捨てられた!?」
「うん、そうだけど?」
「なんでそんなに軽く言うんだよ…相当なことだぞ?」
「いやー特に思い入れもなかったし、軟禁されてて暇すぎたからなぁ…捨てられてなくてもそのうち家出してただろうしね。」
「そうなのか…」
捨てられた先は洞窟で、魔物を殺しながら進んできたこと。
「洞窟…?二歳児を捨てる先が洞窟…?」
「お、おい大丈夫かー?」
「いや、ごめん自分の常識との乖離が、洞窟…?」
進んできた先が、ここ、龍迷宮だったこと。
「龍迷宮?ここって龍迷宮っていうのか?」
「知らなかったのか?ここは龍迷宮第二層だぞ。」
「なるほど…じゃあ、俺が目覚めた場所は───」
龍迷宮の探索を進める内に、ここに辿り着いたこと。
「なるほど。それでここまで来たのか。」
「そ。さ、俺は話したぞ?」
俺は催促をするように言った。
「・・・そうだね。俺の今までも話そうか。」
今度は、翔の一生を聞いた。
龍として転生して、めちゃくちゃ混乱したこと。
「龍、ねぇ…」
俺は翔の姿を見る。
「正直、言われないとデカいトカゲにしか見えないよな。」
「そうだね。俺も最初はトカゲに転生したのかと思った。」
「翼以外、ほぼただのトカゲだもんな…」
混乱しつつも周りの魔物を倒しながら、探索を進めて行ったこと。
「やっぱりそうなるよなぁ、魔物に負けたりしなかった?」
「負けっていう負けはないな、それこそさっきの蛇以外。」
「へぇー、それまたなんで?」
「負けてたら生きてない、っていうのと、大体相手の強さを見極めてから戦闘するからな。強そうだったら無理に戦闘しない!なし崩しに戦闘するとき以外はね。」
「・・・そうか…なるほど…」
俺は翔から目を逸らす。
「優樹?なんで目を逸らすんだ?」
「優樹ー?」
魔物を見つけて逃げる、っていうのは選択肢になかったな…
こんなこと言ったら引かれるだろうから言わないけど。
・・・だって戦闘した方が楽しいじゃん?
探索を続ける中、何人かの人に出会い、殺したこと。
「人間に会ったのか!?どんな人だった!?」
「ちょ、ちょっと待って。俺が、人を、その…殺したことについて聞かないの?」
「うん、別に?敵対してたんだったらしゃーないでしょ。」
翔も変なことを聞くことがあるんだな。
「そ、そうか…?そうなのか…」
なんかショック受けてるみたいだけど、無視して質問する。
「そんなのはどうでもよくて、どんな人だった?」
「なんか、色んな人がいたよ。蜂っぽい人とか…ネズミっぽい人とか。」
「あーそういう感じか、じゃあ俺と同じ魔族かな?獣族かもしれないけど。」
「マジで気にしないのか…?昔から優樹ってちょっとズレてるところあるよな…」
その人たちを追いかけると、大きな扉と、それを守るかの様に陣取る大きな龍を見つけたこと。
「扉?それってどれぐらいのサイズ?」
「かなり大きかったぞ。俺の十倍以上はあった。」
「ああ、なら俺が見た扉とは違うな…」
俺と同じ扉を翔も見たのかと思ったが、さすがに違うみたいだ。
「優樹も扉を見たのか?」
「うん。下層から第一層までの間にある扉なんだけど、そこまで大きいわけじゃなかったから、翔が見たのとは違うと思う。」
「そうなのか。あの扉は外に通じてそうだから行きたいんだけど…場所がわからないんだよなぁ。」
外に、通じてる!?
「え!?そうなの!?なんで!?」
「だって、あの人たちが逃げた方向に扉があるなら、その扉から外に出られる可能性は高くないか?」
「たしかに!じゃあ今すぐ行こうすぐ行こう!」
やっと外に出れる!
すぐに歩き出すが、翔に抑えられる。
「ちょっと待て待て!今は扉の位置が分かってないんだよ!」
「えぇ?なんで?」
「その話もするからもうちょっと話を聞いて…」
てことでおとなしく話を聞く。
扉の前に鎮座していた龍に、人々が一瞬でやられたこと。
「マジか、相当強そうだな。その龍。」
「そうだね…遭遇したときは勝つイメージも湧かなかった。」
「ま、なんとかなるよ!」
「楽観的だな…」
その後、必死で逃げて、場所がわからなくなったこと。
「んん?場所がわからなくなった?てことは、その先で探索してるとここについた、てことで合ってる?」
「そうそう。だから扉の位置はわからない。この、第二層?にあるのか、それとも違う層にあるのかすらわからない。」
翔の話を聞き、あることを閃く。
「・・・ちょっといいか、翔。扉のある辺り、翔が最初に探索してた辺りって、魔物は龍が多かった?それとも虫系?」
「虫系、だな。なんでそんなことを?」
「じゃ、第一層だ。あそこの層は全然龍がいなかったからな。魔物の種類で大体わかる。」
「なるほど…やっぱり優樹はすごいな!」
へへ、褒められた。
その後も翔と話し合いを続け、話をまとめた。
「じゃあ、とりあえず第一層に向かう、ってことで大丈夫か?」
「おう。優樹、これからよろしく!」
「こっちこそ、これから頼りにしてるぞ!」
翔と再会して、一緒に行動できる。
それだけで、正直めちゃくちゃ嬉しい。
・・・なんだかんだ言って、人と話すって大事なことなんだな。
前世の俺はそんなこと感じてなかった。
転生して、考え方も変わってきたんだろうか?
まあ、今が楽しいならなんでもいいや。




