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Y-その4 模擬戦

 

 カァン!カァン!

 

 木剣同士がぶつかり合う音が、訓練場に響く。

 どうやら、二人の少年が模擬戦をしているようだ。


 「はぁー、ふっ!」


 片方の、空色の髪の少年が刀剣術の一つ、一閃を使用。

 もう一方の、黒色の髪の少年に接近する。


 「ふっ、はっ!」


 だが、黒髪の少年はそれを読んでいたようだ。

 瞬身剣を使い、回避しカウンターを入れようとする。

 それらの動きは型に合ったものだが、その速度と威力は完全に非凡。

 そこらの訓練された兵士なんかよりも強いだろう。

 俗に言う、天才だ。

 そんな少年たちが、なぜこんなことをしているのか。

 その理由は、こうだ。



 本日は快晴。

 昨日、スアンから訓練を次のステップに進めるということを聞いた。

 一体何をするんだろう?

 それはスアンは教えてくれなかった。

 まあ今日やる訓練なんだ、すぐ教えてくれるでしょ。

 

 「ユーリオン様!」

 

 そう呼ばれ、俺は後ろを振り向く。

 そこには、クルド…つまり、颯太がいた。

 

 「そ…クルド!」


 俺も、颯太の今の名前を呼ぶ。


 「お久しぶりです。」

 「久しぶり。クルドはなんでここに?訓練の件?」

 「その通りです。」


 やっと一緒に訓練できるみたいだ。

 かなり時間がかかったけど、こんなに嬉しいことはない!

 

 「あの後、父上に相談し、しばらく保留にされていたのですが、本日より訓練に参加する許可が出たようです。」

 「それはよかった。なら、一緒に訓練場まで行こう!」

 「ぜひご一緒させてください。」

 

 しばらく歩き、訓練場に到着する。

 

 「トランはもう帰っても大丈夫ですよ。」

 

 颯太が執事の人に指示をする。

 てか、いたの?

 よく見ないと気づかないレベルに気配を消してた?みたい。

 なんでそんなことをするのやら…

 

 「・・・承知しました。」


 なにか言いたげな顔をしていたけど、諦めたみたい。

 颯太は結構自分勝手にやっているんだろうか?

 そんなことを考えながら、颯太と一緒に訓練場に入る。

 

 「ユーリオン様、それにクルド様、おはようございます。」

 「おはよう、スアン。」

 「おはようございます、スアンさん。」


 そこには、いつも通りスアンがいた。


 「早速、訓練に入りましょう。」

 「ユーリオン様は、いつものトレーニングメニューをクルド様にお教えしながら済ませてきてください。」

 「その後、本日より始める訓練の説明をいたします。」


 いつもの基礎トレーニングか…

 めんどくさいな…

 まあ、やるか。

 颯太もいることだし。

 

 「わかった。やってくる。クルド、行こう!」

 「はい!」

 



 色々なトレーニングをこなし、残りメニューは一つとなる。

 ラストは、訓練場を十周、ランニングするというもの。

 十周と言ったけど、この訓練場は城に備え付けられてるだけあって、かなり広い。

 そう、前世でいうと…一周一キロはあるかな?

 つまり十キロくらいあるわけだ。

 だから最初のほうは、これだけでめっちゃバテてた。

 最近はステータスも上がってきたし、持久力もついてきたから会話する余裕まであるけど。

 

 「さぁ、走ろう!」

 

 颯太に呼びかける。


 「ううん、ちょっと待ってください。」

 

 ん?

 どうしたんだ?


 「なにかあったのか?」

 「いや、ちょっとこちらに…」


 手招きをされ、颯太に近づく。

 

 「訓練の間は、前世の距離感でいないか?」

 「え?でも人目が…」


 そこまで言って俺は気づく。

 この周りに俺たちの会話を聞くような人は存在しないことに。

 

 「・・・いや、わかったぞ。」

 「ここでは身分の差で言動を変える必要はない。なぜなら、この会話を聞いている人間がいないから。そうだな?」

 「そうそう。だから訓練中ぐらいはまた、前世と同じようにしよう。」

 「そうだな。・・・とりあえず走ろうか。颯太。」

 「おう。・・・名前はさすがに今世の方がいいと思うぞ?」

 

 訓練中はこの口調でいいことになった。

 だから、駄弁りながら走ってる。

 なんだか前世を思い出すな。

 体育の授業、あれは、持久走だったか?

 あのときも話しながら走ってた記憶がある。

 ・・・前世か。

 この世界に馴染むこと。

 それが悪いことなのか、それとも良いことなのかは、まだわからない。

 でも、少なくとも今はこの世界で生きている。

 だから、ここで生きていけるようにはしないと。

 

 

 ランニングが終わり、スアンのところへ向かう。

 

 「スアン。トレーニング終わったよ。」

 「そうですか、では、本日より始める訓練ですが…」

 「簡潔に述べますと、模擬戦闘です。」

 「模擬戦闘?」

 

 なんだ、結局は今までと一緒か。

 スアンか颯太と、決められたルールで実践、訓練するだけ、ってことだろう。

 

 「それは今までと違うの?」

 「はい。今までの訓練、私との訓練は、互いに手加減、ルールを決めて行なっていました。」


 ん?

 その言い方だと…


 「ということは、模擬戦闘はルールを決めないの?」

 「仰る通りです。もちろん殺傷はなしですが。それ以外ならなんでもあり、です。訓練場に居る祈祷魔法使いのおかげで治せますから。」

 

 ほう。

 つまり実際の戦闘にかなり近いってことか。

 というか、スアンとは実力差がありすぎない?

 ・・・ああ、だから颯太が呼ばれたのか。

 

 「質問、いいですか?」


 颯太がスアンに言う。

 

 「ユーリオン様と私が戦う、ということでいいんですか?」

 「はい、それで結構です。」

 

 やっぱりそうか。

 でも、俺も転生してから鍛えて来たんだ、負けないぞ?


 「では、模擬戦闘を始めましょう。木剣を持ってください。」

 

 スアンの指示に従い、武器を取る。

 颯太と距離を取り、向かい合う。

 そして、静寂。

 自身の体の脇を風が通り抜けていく音さえ聞こえる。

 

 「勝敗は「戦闘不能」または「降参」で決定します。では、始め!」

 

 スアンの声が響き、俺は一気に突っ込んでいく。

 颯太のすぐそばに到着。

 木剣を振るう。

 

 カァン!


 颯太に受けられるが、まだ終わらない。


 カァン!カァン!



 

 しばらく攻防が続いた。

 お互いに刀剣術も使い始めたが、決着はつかない。

 少し、颯太と距離を取る。

 そして、俺は木剣を腰に収める。

 刀剣術のLv2。

 抜刀を使うために。

 さらに魔闘法、技闘法も使う!

 ここで木剣を抜き放ち、思いきり、叩きつける!


 「はぁ!」

 

 ガァン!


 よし、いい手応え。

 たぶん入って、ない!?

 マジか、完全に防がれた!


 「それは読んでた!」

 

 そう、颯太が言う。

 颯太は、俺の攻撃を防御した状態から、俺の木剣を弾いた。

 さっきの一撃に体重を乗せていた俺は、体勢を崩す。

 颯太は、さっきの俺と同じ体勢を取る。

 抜刀を使う気だ。

 だが、発動速度が、俺より「速い」。


 「ふっ!」


 ドゴォン!


 俺はロクに防御も取れないまま抜刀を受け、吹き飛ばされた。

 

 

 

 「すぅー、ふぅー。」


 クルドは、深呼吸をした。

 戦闘が終わったことを確認するように。

 だが彼は、ある違和感に気付く。

 彼は審判…スアンに話しかける。


 「あれ?スアンさん?ユーリオン様の様子、確認に行かないんですか?もう勝負はつきましたよね?」

 「・・・はぁー。」

 

 スアンはため息を吐いた。

 

 「クルド様、一つ、アドバイスがございます。」

 「なんですか?」

 「最後まで、気を抜かれることのないよう。」

 「え?それはどう言う───」


 クルドは振り返る。

 そこには、一閃を使用して自身の目前にまで迫るユーリオンがいた。

 

 「ッッ!?」

 

 クルドは瞬時に剣戟球を発動する。

 が、遅い。

 ・・・いや、発動自体はとても速い。

 だが、ユーリオンの接近速度には勝てなかった。

 ユーリオンの木剣は、既にクルドの首にまで迫っており───

 クルドは、呆気なく意識を失った。

 

 

 

 「勝負あり!勝者、ユーリオン様!」

 「よっし!」

 

 危なかった!

 あの抜刀に直撃した時は負けたかと思った。

 けどギリギリ耐えて反撃、それが刺さったみたいだな。

 颯太は大丈夫だろうか?

 本気でやっちゃったけど…

 

 「ユーリオン…」

 「ん?クルド!大丈夫か?」

 「ああ、魔法のおかげで、なんとか。」

 「俺の勝ち、だな。」

 「そうだな。いやぁ油断したぁー。」

 「反撃、上手かっただろ?」

 「いや、それもあるけど、普通あの攻撃喰らって起き上がってくる、なんて思わないじゃーん。やっぱ勇者の子供ってのはバケモンだな。」

 「そう…かな?」

 「いやーそうだろ、だって───」

 

 颯太の言葉を聞きながら、俺は笑ってうなずいた。

 でも、心のどこかでひっかかっていた。

 俺じゃなくて、血筋を見ている気がして。

 「勇者の子供」。

 また、その言葉だ。

 でも、今は考えないことにした。

 友達と笑い合える時間を、否定したくはなかったから。

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