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(3-2)

 多勢に無勢。


 しかも、相手はみなAランクの勇者揃いだ。


 怪我で済むとも思えない。


 土下座して勘弁してもらうしかないか。


 今の俺には名誉も誇りも、肉体以外に傷つくものなど何もない。


 キージェが覚悟を決めて地面に手をつこうとかがんだ時だった。


 エクバルの横にいた雪狼がブルルッと体を震わせ、ガリマルの腰に頭をこすりつけた。


「うるせえ!」と、大男が振り払おうとすると、その手に向かって雪狼が顔を突き出す。


 すると、当たった手に封印帯が引っかかってほどけたかと思うと、鋭い牙をむき出しにして猛獣が一気に飛びかかった。


「うおっ」


 不意を突かれたガリマルはとっさに顔をよけたものの、背中にのしかかられて地面に倒れ、肩に噛みつかれてしまう。


「おい、なんとかしてくれよ!」


 鋭いかぎ爪と牙に押さえつけられたガリマルがもがきながら助けを求めるも、せっかく生け捕りにしたのを殺してしまえば鑑定額は激減するし、パーティーの名声にも傷がつくだろう。


 怪我をしている仲間たちは腰が引けて助けようともせず、リーダーのエクバルも手を出しかねている。


 しかし、さすがに血まみれの仲間を放置するわけにもいかず、エクバルが剣を抜こうとしていた。


「おい、やめろ」


 雪狼をかばって覆い被さるキージェをエクバルが蹴飛ばす。


「邪魔するな! どけっ」


 と、その瞬間、キージェの頭の中に言葉が浮かんだ。


(まかせて)


 ――ん?


 それは音声ではなく、直接脳内に文字を書き込まれたような感覚だった。


 キージェの腕をするりと抜けた雪狼はギルドのひさしに飛び上がり、くるりと反転したかと思うとエクバルにまっすぐ飛びかかった。


「くそっ」


 だがやはりエクバルはAランクだ。


 太った体に似合わぬ俊敏さで雪狼に向かって剣を突き出し、間一髪でかわすと、逆手に握り直した剣を背後に向かって振りぬき、わずかながらも雪狼に傷をつけた。


 切られた毛が粉雪となって舞う。


 ――今だ!


「逃げろ!」


 エクバルたちが宝石のようなきらめきに目を奪われている隙に、キージェはクローレの手を引いて雪狼を追いかけた。


「ちょ、なによ。やっつけるんでしょ、あんなやつら」


「無理に決まってんだろ」


「あんたも相当情けないね」と、陽気な笑い声が追い越していく。「でも、いい気味だよね。楽しーい!」


 ――勘弁してくれよ。


 体面を気にする連中をあんな目に遭わせてこれで済むとは思えないキージェは、後ろを振り返りながら先を行く雪狼とクローレの背中を追いかけていた。



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