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(4-6)

 と、その時だった。


 グラッと壁が揺れた。


 ――ん、なんだ?


「え、何?」


 クローレが飛び跳ねてキージェの顎を突き上げる。


「痛ってえ」


 ミュリアもベッドの上で顔を上げていた。


 壁だけでなく床も天井も、部屋の家具も、宿全体が揺れていた。


「な、なんだよ、これ」


 天井を支える梁と木組みの柱がミシミシと音を立てるが、暗くて何が起きているのかまったく分からない。


「とにかく、逃げろ」


 二人は背嚢を背負って駆けだした。


 だが、ドアを開けて廊下に出ようとした時、そこに床はなかった。


「危ないっ!」


 キージェは腕を広げてクローレとミュリアを制した。


「後ろっ!」と、クローレが叫ぶ。


 さっきまでいた寝室の壁がガラガラと音を立てて崩れ、天井が落ちてベッドに瓦礫が降りつもる。


 かろうじて足の幅だけ残った石材の上でつま先立ちになって、キージェはクローレを壁際に押しつけて支えた。


 ミュリアは崩れ落ちた瓦礫の上に飛び降りて周囲を警戒している。


 ――なんだよ、何が起きたんだ?


 あまりの衝撃に村人が駆けつける。


 たいまつの明かりが灯され、崩壊した宿屋の様子が目に入ってきた。


 狭い路地に挟まれていたトロールが瓦礫の下敷きになって横たわっていた。


 どうやら挟まっていた巨体が宿を巻き込んで倒れたらしい。


「ねえ、キージェ、あれ!」


 クローレが指したのはトロールの体内から出てきた結晶だった。


 豚の体ぐらいある肝臓からできた結晶は村人のたいまつに照らされて鈍く光っている。


 だが、今はそんなものを喜んで見ている場合ではない。


「ああ、なんてことだ」


 村人をかき分けて村長のムイシュケルが前に出ると、壁の石材から這い下りたキージェたちをにらみつけた。


「とんでもないことをしてくれたな。弁償してもらうぞ」


「なんで俺たちが?」


 キージェにクローレも加勢する。


「そうよ、トロールのせいでしょ」


「路地に誘い込んだのはあんたらだろ」


「じゃあ、トロールを放置すれば良かったのか」


「それは……」と、村長が口ごもる。


「まあまあ、村長さん」と、村人が間に入る。「ギルドのクエストで生じた損害はギルドが保証してくれる規則じゃないか」


「まあ、それならいいか」


 だが、キージェは頭を抱えていた。


 正式なギルドの仕事であればクエストで生じた損害賠償を肩代わりしてもらえるが、今回はそれには該当しないため保険金は出ないだろう。


「いや、それがですね。俺たちはギルドから依頼された冒険者じゃないんですよ」


 一転して丁寧な口調になったキージェを村人が取り囲む。


「なんだって、どういうことだ!」


「俺たちはFランク冒険者だからトロール討伐を引き受ける資格はないんです」


「おかしいじゃないか!」と村人たちが詰め寄る。「我々はギルドに依頼したんだぞ。その仕事を勝手に引き受けたのはあんたらだろ。ちゃんと責任取れよ」


「そんなのずるいよ」と、クローレがムイシュケルを指さす。「あんたがあたしたちに頼んだんじゃないのよ」


 村長は視線をそらして肩をすくめた。


「まさかニセモノだとは思わなかったからな。Aランクどころか、Fランクとはねえ。ずいぶんといいかげんなことをしてくれたもんだよ」


 たしかに、Fランクであることを隠したのはクローレ自身だ。


 ギルドに訴えられたら最悪の場合、資格剥奪もあり得る。



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