表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/57

第4話 初めての夜

 ――プリムが「······私の事も、国の事も、何も知らないあなたが、勝手な事を言わないでください」と言ってしまった時から、無言の時間が長く続いていた。

 お互いのことを話すこともできずに、宿屋の店員が夕食を運んでくる。


「お待たせしました、本日の夕食は『ボアットハンマー』のステーキと『メスト』のサラダです」


 店員が、テーブルに料理を並べていく。

 異世界『グリードベリル』特有の生物だろうか、美味しそうなお肉が皿の上で存在感を示していた。

 それと『メスト』は、赤いトマトに似ているサラダだ。


「い、いただきます」


 翼が椅子に座り、出された料理を戸惑いながらも観察する、気まずい雰囲気の中で、料理を楽しむ余裕はなかったが、初めての異世界飯に興味は深々であった。


 そんな中、プリムは未だに立ち尽くしている、部屋へと入ってから2時間、同じ場所から動いていないのだ。


「あ、あの、食べないんですか?」


「『奴隷』は、ご主人様の指示なしで勝手な行動はできませんので······だから、ずっと同じ場所に立っているんですよ」


 プリムは、『青い果樹園』で教育されたとおりに、従順な『奴隷』を演じているつもりなのだが、怒った口調が全てを台無しにしている。そのことに気付けるほど大人ではなかった······


「そ、そうだったんですね、ごめんなさい。じ、自由にして大丈夫なんで、ご飯も食べてください」


「それでは、ちょ、ちょっとお手洗いに行って来ます······」


 男性の前で、しかも食事の最中に言ったことが思ったよりも恥ずかしく、プリムは顔を赤くして部屋から出ていく。


(はぁ〜、何か酷い言い方しちゃったよね。怒ってるかな、私だって初めてなんだもん、どうしたら良いか解らないよ······)


 プラントに居た頃より凄く疲れる、それに立ちっぱなしで足が痛い、そんな事を感じながら、お手洗いから戻って来る。


(あれ? まだ食べてないんですね······も、もしかして、食べ方が解らないのでしょうか?)


「も、戻りました。あの、食事は食べないのですか?」


「あっ、あの、一緒に食べようと思って······」


 2人で「「いただきます」」と言ってから、食事を始める。

 『食事は皆んなが揃ってから』子供の頃は、これが白崎家のルールだった。

 それを思い出して、翼はプリムが戻って来るのを待って居たのだが、誰かと共に食事をするのは、本当に久しぶりであった。


「このお肉、柔らかくて凄く美味しいですね。ぼ、僕が居た世界で出たら凄く高級なお肉ですよ」


 プリムを待っている間に、言われたことを考えた翼は、自分のことばかりで、相手を気遣うことができていなかったと反省していた。

 『勇気』を出して、自分から話し掛ける事にしたのだ。

 さっきの発言は、自分でも何でいきなり言ってしまったのかと、後悔する程恥ずかしい。『奴隷』から失礼なことを言われ怒るなんてことは、翼は微塵も思ってはいなかった。


「そうなんですね、この世界でも良いお肉だと思います。こんな美味しいお肉、私も初めて食べましたので」


「そうですか。こ、この『メスト』ってサラダは、凄くすっぱいですね」


「『メスト』はこの世界ではポピュラーな野菜なんです、栄養価が高いので私が居たプラントでも良く出ましたよ」


 翼は心の中で、(良かった)そう強く思う。

 少女を怒らせてしまったかと、気にしていたこともあるが、人と普通に会話が成立できていること事態、凄く久しぶりに感じるのだ。


「「ご馳走様でした」」


 翼は食事を終えると、次はお風呂に入って寝るのが流れかと考えていた。

 この世界の常識がどうなのか、少女に聞いてみないと判らないのだが、それよりも最初にしないといけなかったことが、ようやく頭に過ぎるのだった。


「聞きたい事があるんですけど、あの、その前に、自己紹介をしてなかったですよね。僕は、白崎翼です。歳は21です。翼とでも、よ、呼んでください」


「え〜と、わかりました。翼様と呼ばせて頂きます······」


「············」


 翼は、当たり前に自己紹介が返って来るのを待っていた、世界が違うから、自己紹介とゆう文化はないのかと考えるのだが、それは間違いだ。


「あの、名前を聞いても良いですか?」


「えっ? 私の名前ですか、プリムですけど、外で自己紹介したの覚えてないんですか?」


 プリムは気が付いていなかったが、翼は誰の自己紹介も聞いてなかったのだ、それどころか『奴隷』の説明も聞いてなかったので、部屋へと入って最初の1時間は、どうしたら良いのか分からなかった。


「あっ、そうだったんですか。ごめんなさい、皆さんが何か話してるのは覚えてるんですけど、あの時は衝撃的過ぎて、話が入ってこなかったんです······」


「えっ、そうだったんですか。それでは、もう一度自己紹介しますね。私はプリムです、16歳です。宜しいお願いします」


 プリムは少しだけ気が楽になった、緊張していたのが自分だけじゃないと気付けたのと、翼が悪い人じゃないと思えたからだ。

 この後プリムは、自分からこの世界のことを教えてあげることができた。お風呂へ入るにも、石鹸であったり、シャワーの使い方であったり。

 何を知っていて、何を知らないのか判らない、何も判らないと思って言葉にしたっていいのかと。

 判る事は増えるし、判ってることは言ってくれればいいだけなんだから。


「色々教えて貰って、ありがとう。あれだね、そろそろ寝ようか、ベットは2つだから、そっちのベットでいいかな?」


「あ、はい······あっ、電気は入口の所にあるボタンを押せば消せますから」


 電気を消して、部屋の中が暗くなる。少しすると、翼がベットから出た。

 窓から外を眺めて、考え事をしているのだ、プリムが寝たかと思うと、翼はやっと落ち着いて考えることができた。


(窓から外だけ見る分には、そんなに元の世界と変わらないんだな。これからどうなるのか、本当にわからないけど、今度はちゃんと頑張りたいな)


 元の世界で過ごした日々を思い返して、今度こそは、人生を頑張りたいと願う。

 それと、子供の頃に言われたことを思い出した。


(目標を持ってか······今思うのは、プリムさんと出会えて良かったってことかな。軽率なことを言っちゃったけど『奴隷』からはやっぱり解放してあげたいよな、心の中で目標にするならいいよね······)


 翼が自分と向き合っている間、プリムも眠れずに胸がざわついていた。

 翼がベットから出る時も、ビクリと身体が反応する程、怯えていたのだ。


(確か男の人は、夜は野獣になるんですよね。野獣ならまだマシで、悪魔になる人も居るって聞いてます······この人は、どうなんでしょう)


 プラントで過ごした日々、その中で先輩達から聞いた話が、プリムを不安にさせていた。

 中々眠りにつくことができない、怯えることはなく、平和な夜だったと気付いたのは、目が覚めた朝になるであった。


(夜が恐いって、初めて知りました······)


〜プリムのひとり言〜


プリム「あの、反省してます。見た目で判断してたこととか、ちょっと怒っちゃったこととか。まだわかりませんけど、翼様は悪い人じゃないと信じたいです」


プリム「でも、戻って来た先輩達や、ビクレイ姉様から聞いたこと、それを考えたら恐くて仕方ないんですよ······」


プリム「これからも精一杯頑張りますので、皆様応援してください。『ボアットハンマーのお肉を食べたい』って思ってくださった方、ブックマークと高評価(☆にチェック)をお願いします」


プリム「次のお話は『恐怖する理由』です。また次のお話で会いましょう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ