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第23話 大剣と感謝

 先輩冒険者たちが一斉にユニスとプリシラを取り囲んで、口々に祝福した。


「やりやがったな、ユニス。」

「イレギュラーボスを倒した奴なんて聞いたことねえぞ。」

「どうやって倒したんだ?教えてくれるんだろ。」


 もみくちゃにされ、背中をバシバシ叩かれたりしながらユニスは一通り騒ぎが収まるのを待った。

 皆がやや落ち着いたところで、受付嬢のミネベアがユニスに問いかけた。


「ユニスさん、どのようにしてサイクロプスを倒したんですか?皆さんも聞きたいようですし。」


 ミネベアの声にほかの冒険者たちも「そうだそうだ」と相槌を打ったり頷いたりした。

 ユニスは仕方ないとばかりに周囲を見回した。どうやら話をしなければ収まらない雰囲気だ。


「今から話すよ。その前にまず最初に言っておく事がある。俺のレベルのことだ。」


 ユニスは一息入れて、そして言った。


「今の俺のレベルは1じゃない。さすがにレベル1ではイレギュラーボスは倒せない。れのレベルはボス戦の時にレベルが30に上がった。だからサイクロプスを倒せたんだ。」


 わずかな静まりがあり、ようやく1人の冒険者の声が聞こえた。


「・・・レベル30だと!」


 その声を皮切りに再び周囲が喧騒に包まれた。


「うそだろ、信じられねえよ。」

「1から一気に30に上がるなんてあるわけねえ。」


 そんな怒号のような声をよそに、ユニスは平然としていた。


「嘘そじゃないさ。その証拠にギルドカードを職員に確認してもらう。」


 ユニスとしてはレベル以外のほかの情報はおおっぴらにしたくない。ギルド職員なら知った情報をむやみに他人には言いふらせないのでカードを見せるのに都合がいい。

 ユニスはミネベアに自分のギルドカードを渡した。渡されたミネベアはカードのレベルの情報を見てハッと息をのみ、そしてまじまじと見つめ直した後で顔を上げた。


「間違いありません。ユニスさんは現在レベル30です。」


 またも冒険者たちが騒ぎ・・・は、しなかった。信じられない話なのだろう、あまり声を荒げずに周囲の者たちと話しているようであたりがざわついていた。


「・・・本当なのか。」

「ミネベアちゃんが証言してんだ、間違いねえだろう。だが・・・」

「信じられん。どうやって1から30まですっ飛ばしたんだよ。どんなからくりだ。」


 その声を背景にユニスは後ろをふり向き、それに気付いた冒険者たちの視線が一斉に集る。何か説明が欲しいとその目が物語っている。しかしユニスは正直に言う気はなかった。


「俺がレベルを30に上げられた理由は、残念だが詳しくは教えられない。


 ユニスの言葉に若干の失望のけはいがあたりを覆う。


「けれどこれだけは教えておく。」


 ユニスはさらに続けて言うと、そばでずっと縮こまっていたプリシラの手をグイっと引っ張った。


「あっ。」


 プリシラは小さな叫び声をあげて、ユニスのそばに移動させられた。プリシラはユニスの顔を戸惑いの表情で見ていた。ユニスはわずかの間だけ優しい笑顔でプリシラを見つめ、そして顔をもとに向けた。その横顔を見つめたプリシラは、心が次第に落ち着いていくのを感じた。


「俺のレベルが上がったのは このプリシラのおかげだ。プリシラが俺のレベルを上げる解決策を見つけてくれた。プリシラがいなければ、俺がレベルを上げることも、ボスを倒すこともできず、生きて帰ってはこれなかっただろう。プリシラは俺の命の恩人だ。」


 おお、という歓声とざわめきがユニスとプリシラを取り囲んだ。プリシラは注目されることに慣れていないのか、驚いて周りを小さく見回した後、慌ててうつむいてしまった。


「それから、もう一つ。」


 ユニスは視線を床のほうに落とした。その視線の先には、すでに縛られているバーゼルがいた。数人で押さえつけておくより縛ったほうが良かったのだろう、完全に拘束され身動きが出来ない状態だ。

 ユニスはゆっくりとバーゼルに近づいていった。途中で背中に背負ったバーゼルの大剣を外して手に持ち替えた。


「!!ムグゥ」


 猿轡をしているバーゼルが呻く。顔には脂汗とともに恐怖の色が浮かんでいた。

 ユニスは手に持った剣を体の前に水平にして、左手で柄を、右手で剣先を支えるように持ち、バーゼルの前に立った。

 冒険者たちは緊張の面持ちで見ている。

 ユニスは剣を水平に持ったままゆっくりと屈んで片膝をつき、そして大剣をバーゼルの目の前に静かに置いた。

 ユニスはバーゼルの目を見て言った。


「サイクロプスと戦って倒したのはこの剣のおかげだ。これがなきゃサイクロプスを倒すのに苦労していただろう。お前が剣を置いていった事、それだけは感謝する。」


 そう言って彼は立ち上がって踵を返し、プリシラの元へ戻っていった。彼はもうバーゼルを振り返らなかった。

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