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第14話 3人の関係

 しかしそれ以降も、ユニスのレベルは全く上がらなかった。


 何日も何日も魔物を倒してもレベルは1のまま。他の冒険者に聞けば、普通にやっていれば遅くとも1ヶ月以内にはレベルが2に上がるとのことだ。しかしユニスのレベルは1ヶ月経っても上がらなかった。

 マルクやエリザもレベルが2のまま上がっていないので、最初はさほど心配をしていなかったのだが、ひと月が過ぎるとユニスの不安は心の大きな部分を占めるようになり、ふた月が過ぎるとさすがに3人とも「おかしい」と感じ始めていた。

 3人はギルドに、レベルの上がり方に差があるのかを確認したのだが、回答は「職業、初期値によるレベルの上がり方の差は無い」ということだった。

 そうなると、もう可能性のあるのは、ユニスの持つこの特殊能力の『箱』だけだ。


(まさか箱の経験値は貯めるだけで、自分の経験値になっていないからレベルが上がらないんじゃ・・・)


 本来ユニスに蓄積されるはずの経験値がすべて箱に入っていき、ユニス自身には一切経験値が入っていないからレベルが上がらないのではないか。そんな最悪の想定が日に日に実証されていくように真実味を帯びて行った。


 もちろんユニスは箱の経験値に対して何もしなかったわけではない。ユニスは何とか箱から経験値を取り出そうと試みた。

 箱から経験値を取り出すには、単純に頭で念じて取り出すか、箱の登録を変更することにより経験値登録が解除されて経験値が取り出せる。

 しかし今のユニスにはどちらも出来なかった。

 箱をタップして出てくる説明書きでは、


 登録変更:所有者LV2で開放

 取り出し:取り出す物と数量を思い浮かべることで取り出せる。必要魔力1


 と書いてあった。

 登録変更できるのはレベル2からで、そもそもレベルが上がらないユニスは箱の登録変更も出来ない。

 そして魔力が「0」であるユニスには、単純に取り出すことも不可能だった。

 これはまるで、オートロックの宝箱に鍵を入れたまま蓋をしてしまい、中の者が取り出せないかのような状況だった。


 箱が開かなければ、ユニスのレベルアップは不可能ということになる。

 永久にレベルアップ不可能、永遠のレベル1・・・


 ユニスは自分に降りかかってきた悪夢のような現実をとても受け入れることが出来なかった。しかし、事実彼のレベルは全く上がらない。どうあがいてもギルドカードのレベル表示は変わらないのだ。


(そんなはずはない。何かの間違いだ。ただ単に俺がレベルが上がりにくい体質でレベルアップが遅いだけなんだ。)


 ユニスは自分でも信じられないような仮説を無理やり信じようとした。だがそれも事実の前では何の効力も持たないのだ。




 決定的になったのは、ギルド登録をして3ヶ月を前にしたころだった。

 その日、エリザとマルクのレベルが3に上がった。

 しかしユニスのレベルは1のまま・・・


 それがわかったとき、ユニスはその場に座り込んでしまい、立ち上がることが出来なかった。

 もう自分を偽ることは無理だった。経験値は箱に入ったまま取り出せない。自分は永遠にレベル1のままだ、と望まずとも確信してしまったのだ。


「ユニス!大丈夫か?しっかりしろ。」


 うつむいたまま座るユニスをマルクが励ます。


「マルク・・・。もう俺はダメだ。レベル1のまま上がらない。冒険者を続けてもどうにもならないんだ。」


 ユニスはマルクとエリザを見上げて、悲しそうな笑みを浮かべながら言った。


「エリザ、マルク・・・お前たちはもう俺とパーティを組まない方がいい。このままやっても俺は足手まといだ。他の冒険者とパーティを組んだ方がいいぜ。」


 それを聞いてマルクは怒った。


「バカ野郎!俺たちは友達じゃないか。お前以外に別のやつを仲間にするなんて考えられるかよ。」


 マルクの怒りの言葉を聞いて、ユニスは驚いたように顔から笑みを消してマルクを見た。


「そうよ。レベルが上がらなくてもユニスは強いわ。私たち3人はまだまだやれるのよ。」

「レベルが上がらない?そんなの気にすんなよ。今は無理でも、そのうちいい方法が見つかるさ。」

「そうよ。きっと『ステータスポイントが上がる木の実』なんてのがどこかにあるはずよ。他にもそんな魔法や能力があるかもしれない。そしたら経験値を取り出せる。ユニスはレベルを上げることが出来るわ。」

「マルク、エリザ・・・」


 マルクの目にわずかに希望の光が灯った。2人の話は全く現実味が無かったが、ユニスを元気づける力だけはあった。この2人と一緒ならそのうちひょっとして打開策が見つかるかもしれない。ユニスにはそう思えてきた。


「ありがとう、マルク、エリス。なんだか勇気づけられたよ。これから、もしかしたらいろいろ迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼むよ。」

「おう!」

「わかったわ。」


 3人の気持ちは一つになり、3人で共に歩んで行こう、そう誓った。


◇◇


 しかし、人の心というのはこの時の3人が思うほど簡単なものではなかった。この時の彼らは世間に出たばかりの12歳の子供だ。『自分たちは大丈夫だ』と、裏付けも無しに確信しているだけで、理想と現実の違いを理解していなかった。

 そしてそれを理解したのは、3人が村を出てから1年が過ぎたころのことだった。



 そのころ、エリザとマルクはともにレベル5まで上がっていた。残念ながらユニスのレベルは1のままだ。

 しかしユニスは、最初のステータスポイントの多さと、レア職による強化、さらに元々の剣の素質に加えてたゆまぬ努力をすることで、彼らの狩りにも何とかついていけていた。

 ただ、このまま続けても自分は頭打ちで、彼らとの差は広がっていくであろうことは感覚的にも分かっていた。


 そんなある日の夜の事。


 ユニスが宿のマルクの部屋の前を通りかかったとき、


「バカなことを言うな!」


 と、マルクの声が聞こえてきた。

 何事かと思い、マルクの部屋の扉に手を掛けようとしたユニスは、続けて聞こえてきた言葉に体が動かなくなった。


「ユニスをパーティーから追い出すなんて、できるわけないだろう!」

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