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第三話 ある夏の怪談(1)

真冬ですが、書きたくなったので…

今は真夏真っ盛り。

昼も夜も暑いこの季節は、少しでも涼しくしようとするのは必然なのかもしれない。

打ち水やら氷水やら。まぁ一般庶民である僕には氷水など程遠い話なんだけれども。

そんな中でも百物語や肝試しなんかは(精神的な涼しさを求める人にとっては)人気のある部類。

さて、なんで僕がこんな話をしているのか。

理由はいたって単純で、夏の暑さに耐えきれないから少しでも気を紛らわせたい、ただそれだけ。

それでも、みんな参加してくれるらしい。さて、どんな話を持っていこうか。



ある日の夜、真っ暗な部屋の中央にある円卓の椅子に座る。

この国で怪談をするときには、蝋燭を使う。

話が終わるごとに蝋燭に火をともしていき、全て灯し終わったら何かが起こる、というものだ。

桜綾さんによれば、遠い国では怪談をするたびに蝋燭を消していくらしいが…


「じゃあ話始めますね。」



これは私が体験した、怖い話。

それは夏の夜のことです。

その日はとても暑くて、私は家で本を読んでいました。

「暑い…」

私の部屋は屋敷の中の中央に位置するため、風がやってくるわけでもなく、更に扉さえきっちりと閉められていました。

なので、夏になると暑くて仕方ありません。

だからといって外に出れば、怒られてしまいます。仕方なく、暑さを我慢し中に閉じこもっていました。

しかし、流石に暑かったので怒られるのを承知で窓だけは開けておきました。

そしてしばらくすると、ある音が聞こえてきました。


トン……トトン……


最初は何かわかりませんでしたが、すぐに気づきました。

誰かが家の前にある階段を登っている音です。


(こんな時間に誰だろう?)


そう思いながらじっと待っていると、やがて足音が止まりました。


(終わったかな)


と思いきや、また歩き出す音がします。

どうやらまだ止まらないようです。


(変な人だなぁ……)


と思いつつ、気にせずに読書を続けようとしました。

…………でも、いつまで経ってもその人の足音が止まることはありません。

私の家の階段はそこまで長くありません。

不思議に思った私は、とうとう耐えきれず扉を少しだけ開きました。

するとそこには―――


階段の上に立っている、見知らぬ女の人が居たのです。

私は驚いて急いで扉を閉めました。

その後、しばらく震えていましたが、ようやく落ち着きを取り戻してからもう一度確認しようと扉を開きました。

……しかし、そこには何もいません。

ただ暗闇が広がっているだけでした。私は怖くなって布団の中に潜り込み、目を瞑りました。

きっとあれは見間違いだったんだ! と思いながら……。

……それから数時間後、ふと目が覚めて窓を見てみると、月はもうすでに私の部屋の窓から見えなくなっていました。

再び眠ろうとしたその時、またあの音が響き渡りました。


……トン……トン……トン……


今度は先程よりも近い位置から聞こえてきました。

もう私にはそれが何なのかわかっています。

恐らく……いや、確実に例の女の人は未だこの家の前に居るでしょう。


(このままじゃ眠れない……)


ならばいっそ寝るのをやめよう、と。

そして布団から出て扉を開けると、案の定そこには何もいませんでした。

私は安心して自分の部屋へと戻りました。

これでやっと眠ることができる、と思ったのですが……


また暫く経つと、トン……トトン……という足音が響いてきました。

今度こそ、その正体を突き止めるために扉を開け放ちました。

するとそこにいたのは――

やはり、先程の女でした。

しかも、今回は距離も近くなっているような気がします。

私は慌てて扉を閉めようとした時、向こう側から扉を強く押されてしまいました。

当然、力の差では勝てるはずもなくそのまま倒れ込んでしまいます。

それでも諦めずに何とか立ち上がろうとするものの、その前に相手によって腕を掴まれてしまいました。

必死に抵抗するも、全く意味をなしません。

結局、女の力には敵わず引き摺られて階段の方へ連れていかれてしまいます。


(助けて!!)


心の中で叫びながらも抵抗を続けると、不意に相手の力が弱まりました。

それに気づいた瞬間、私は一目散に逃げ出だしました。


(怖いよぉ……)


泣きながら走り続け、なんとか自室に戻ることに成功しました。


(明日になったらお父様に言おう)


そう心に決め、私は眠りにつきました。



次の日の朝になり、早速私は昨日のことについて話しに行きました。

しかし、返ってきた言葉は意外なものでした。

なんでも、私が見た女の人は幽霊なんかではなく、使用人だったらしいです。

確かによく考えてみると、彼女はいつも決まった時間に起きては階段を掃除している人でした。

なので、彼女があそこで何をしていたのかはすぐに分かりました。

おそらく、階段を掃除するために階段を登っていただけだったのでしょう。

それを勝手に勘違いしてしまった自分が恥ずかしくなりました。

そんなことがあったせいか、その日以来夜中になると決まって部屋の外に出るようになっていました。

すると必ずと言っていいほど、階段を登る足音が聞こえるんです。

時には2人分だったり、3人分の足音も聞こえてきました。

でも、私は決して怖くはありませんでした。

何故なら、それは全て私の見間違いだからです。



少しの静寂の後、1つ目の蝋燭が灯った。

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