第二話 猫の態度〜朱蕾の場合〜
〜朱蕾さん(従者)の場合〜
まず最初に言うと、二人は何の関係もない。敢えて言えば、主が同じということだけか。
それに、尋梅は猫だし、朱蕾は人間である。
だが、ある意味…主である泊詠を巡って壮絶な戦いをしていると言っても過言だろう。
まずは尋梅の方から話そう。
尋梅は元々、泊詠の猫ではない。泊詠の兄である夏雲に飼われていた。
その時の尋梅は大層可愛がられていた。
そんな尋梅はある日、泊詠に渡されることになった。
理由は単純で、尋梅が成長して大きくなってきたからである。
夏雲の部屋は大きいものの、書類が山積みになっており、大事な本や、巻物もあるので、そこらへんに猫を放置し、紙が破られたりでもすれば大惨事である。
そこで、夏雲が飼っていた尋梅を泊詠が貰い受けることになったのだ。
最初は渋っていた尋梅だったが、夏雲の懇願もあり、ついに泊詠も猫となった。
ただ、泊詠に構ってもらえないのも事実。
泊詠だって忙しいので、構っている時間はあまりないし、そもそも部屋で仕事をしている方が少なく、どこかへ出張することが多い。
そうなると、尋梅はゴネるという技を覚えた。
結局、相手が諦めるまでゴネれば遊んでもらえると思っているし、それもあながち嘘ではない。
一方朱蕾はというと、とある貴族の家の生まれだった。
貴族といってもそこまで高い地位ではなく、どちらかと言えば庶民に近い位置にいるような家だ。
そんな家に生まれても、朱蕾は特に不満はなかった。
両親には大事にしてもらったし、特に不自由なく暮らしていたからだ。
そんな朱蕾はある日、両親が他界した。突然のことだった。
そして、その家は朱蕾ただ一人となった。
幸いにも親戚が引き取ってくれることになり、朱蕾は新しい生活を始めることになったのだが…それは別の話。
兎も角、彼は親戚の紹介により齢十歳のときから泊詠に仕えるようになったのだが…
その当時の泊詠はそれはもうひどいものだった。
面倒くさければ直ぐにどっかへたびに出るし、すぐに飽きる。
子供とはいえ、仕事には手を抜けないので、泊詠の代わりに奇妙な飼い猫である尋梅の世話をした。
その結果、尋梅はとても懐いた。
しかし、同時に朱蕾は尋梅の畏怖の対象にもなった。
というのも、彼が来るまでは誰も尋梅を止めれるものはいなかったし、さらに飼い主の泊詠は尋梅に興味すら持っていなかったのだが、朱蕾が来てからというもの、ゴネれば外に放り出される。
しかも、食事抜きにされるので空腹で倒れかけることもあった。
だから、尋梅は朱蕾に対して畏怖の念を抱いていた。
一方朱蕾の方はというと、正直なところ、尋梅に対しては興味がなかった。
確かに、自分よりも小さく弱い存在ではあった。だが、それ以上に面倒くさい奴という認識が強かった。
「尋梅さん、そろそろお退きになってください」
「……」
「尋梅さん?」
「……」
「いい加減に退いていただけますでしょうか?」
流石に怖くなってきたのか慌てて飛び退く尋梅を見てため息をつく朱蕾。
尋梅は猫の中でもかなり大きな部類に入る。
体の大きさで言うなら三歳の子供くらいはあるだろう。
だがいくら尋梅が大きく、勢いよく突進したとしても何故か朱蕾は丈夫で、下手したら尋梅が怪我をする。
それ故に、尋梅は朱蕾のことを苦手としていた。
一方、朱蕾の方も尋梅のことを嫌ってはいないものの、好き好んで近づきたい相手でもない。
なので、お互いに距離感を掴みかねている状況が続いている。