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エフェメラル=ホープ  作者: 司原れもね
第1話分割版
12/13

足音

 どのくらい経っただろう。助けはまだ来ない。車が燃える炎だけが私のことを照らしている。

「……」

 私は一人俯いていた。もう心も体もボロボロだった。このまま消えてしまいたいとさえ思う。

 コロンッ

 そのとき、足音のようなものがした。限界に達した私の脳みそはそれを助けが来たものと認識し、体を動かす。

 足音が聞こえてきた方へふらつく足で歩いていった。

「待て! エフェメラル‼︎」

 背後からペチュニアの声が聞こえる。でも、私はそれに構わず歩いた。

「……」

 私は無言のまま歩き続ける。やがて、目の前に影が現れた。

「えっ」

 しかし、それは人のものではなかった。

「キィィィィィアァー」

 醜い鳴き声と共に現れたのは、怪物だ。

 体はドロドロとしていて、頭は巨大な球体になっている。そこから無数の触手が生えており、その先端は人間の手のような形をしていた。体は赤く染まっており、まるで血の海の中から生まれたかのような姿だ。

「あ……あぁ……」

 私は声にならない声を上げる。

 怖い……恐いコワイこわい……いやだ嫌だ……死にたく無い……死にたくない

「ギィイイ」

 その化け物は奇怪な鳴き声を上げた。

「あ……ああ……」

 私は腰が抜けてその場に倒れこむ。

「ギィィイ」

 化け物がこちらに向けて触手を伸ばしてくる。

「い、いや……いゃ……」

 私は泣きながら必死に後ずさりする。しかし、後ろは壁だ。逃げられない。

「い、いや……」

 触手はどんどん迫ってくる。

「いやぁぁあ!」

 私は叫び声を上げると、目を瞑った。

 バンッ……

 何かが弾けるような音がする。

「相手はこっちだ……この化け物!」

 薬莢が地面に落ちる音と共にペチュニアが叫んだ。彼女の手には再び銀色の弾丸が出現していた。弾丸は凄まじいスピードで飛ぶと、ミスティックの頭部を貫いた。だがコイツはドアとは違う。ミスティックはその攻撃に耐え、反撃すべく触手を荒ぶらせる。

「くっ……」

 ペチュニアは咄嵯に回避する。

「逃げろエフェメラル! コイツは私がなんとかする!」

 彼女はそう叫ぶと、ミスティックに向き直る。

「うっ……」

 私はよろめきながらも立ち上がると、その場から逃げ出す。本当は『置いていけない』みたいなことを言いたかったが、もはやそんな余裕は無かった。

「早く行け! ここは私に任せておけ!」

 ペチュニアさんは振り返らずに言う。

 私は何度も振り向こうとしたが、思い留まった。今は逃げるしかない。

「はぁ……はぁ……」

 私は息を切らせながら走る。どこに向かっているかなんてわからない。ただ、ひたすら走った。

「はぁ……はぁ……うぅ……」

 背中からは銃声が響いている。ペチュニアさんが戦ってくれているんだ……。そう考えると、ますます苦しくなった。

「はぁ……はぁ……」

 私は立ち止まると、壁に寄りかかって呼吸を整える。もう体力の限界だった。

「どうしよう……」

 ペチュニアさんを置いてきてしまった。もう銃声も聞こえない。果たして彼女は勝てたのだろうか。私は不安に駆られる。でも、もう私にできることなんてない。彼女の無事を祈るしかなかった。

「大丈夫かな……」

 そう呟いた瞬間だった。

 ドスッ

 足音が聞こえる。明らかに人間のものではない。私は恐怖で身震いをする。

「まさか……」

 私はゆっくりと音のした方を向いた。そこには先程とは別の四足歩行のミスティック。

「嘘……」

 私は絶望的な気分になる。

「キィイアァー」

 化け物は奇妙な声を上げながら、こちらに近づいてくる。

「い、いや……」

 私はパニックになりながら自分の体を探って、武器を探す。

 カチャッ

 手に何か硬いものを感じる。ショットガンだ。体から離れず、まだ背負っていたのだ。痛みで気づかなかった。

「これなら……」

 私は震える右手でショットガンを構える。

「はぁ……はぁ……」

 息を整えようとするが上手くいかない。手が震えて狙いが定まらない。化け物の体がだんだん大きくなっていく。これなら外さないかもしれない……。

「死ねぇぇぇ!」

 私は震える指で引き金を引いた。

 ドンッ……

 破裂音が鳴り響く…………………………

「キィィィィィアァアァア」

 外した。ミスティックの私を嘲笑うような鳴き声でそう理解した。

「あぁ……」

 射撃場なら絶対に外さない距離なのに……。

「あ、あ、あ……」

 左手が死んでいるため、弾を装填することもできない。私は右手で装填しようと試みるが、うまく掴めない。その間にも化け物は迫ってくる。

「やめて……」

 私は涙を流して懇願するが、化け物は止まらない。

「お願い……」

 私は諦めて全身の力を抜き、目を閉じる……。もう苦しまなくて済むと思うと、少し気が楽になった。

「あぁ……結局何もできなかったな……」

 私は小さく呟いた…………


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