第五話 決意
五話 決意
夕飯を食べ終わった頃、家族は居間のテーブルに座っていた。テーブルの上の蝋燭が弱い光を放っている。部屋は薄暗かった。アリエスは大きく息を吸って、はいてから話し始めた。
「私、冤罪を晴らして、この家を再構させようと思う。爵位を奪還しようと思うの。」
部屋がざわついた。
「冤罪を晴らすって、農民の立場からか? 没落した貴族が再び貴族になるなんて聞いたことがないぞ。」
とスタンリーは鼻息を荒くしていった。
「お父様は冤罪のまま、一生農民生活をしていていいの? 領主に不当な税金とられて悔しいとか思わないの? 私は悔しいよ、すっごく悔しい。」
「僕もこのままなんて絶対に嫌だね。」
表情に怒りを表れているいるジークは歯をギシギシと鳴らしている。
「でも、冤罪を晴らすってそんなに簡単なことじゃないぞ。それに、証拠だって集めなければならない。裁判はもう終わったんだ。実際は無罪だったとしても、有罪判決という事実は変わらない。命があるだけましだと思うしか・・・」
スタンリーはうつむいた。弱気な父親だ。何十年も過酷な貴族社会を生き抜けたのが不思議なくらいだ。
先ほどスタンリーの言うように、過去に断罪された貴族が再び貴族として返り咲いた例は存在しない。
「アリエス、いつになく強気だけど、何か策があるってこと?」
エルファはいつになく厳しい口調でアリエスに言った。まあ、無罪を証明できる証拠ない今、冤罪だと立証するのは、かなり無謀だということはアリエスもわかっていた。
(私だって無策でこんなこと言っているんじゃない)
アリエスは家族に向けて、策を話し始めた。気のせいかもしれないが、蝋燭の光は先ほどより、強くなったような気がした。
「まず、この国の貴族についてだけど、貴族の仕事は、領地経営と議会などの出席。爵位の種類はご存じの通り、公・候・伯・子・男。領地を経営できるのは、子爵以上の貴族で、男爵は議会出席などの国の仕事のみ。
次に貴族になるための条件について復習するね。条件は主に三つ。
一つ目は財力。財力の強さで、爵位が分けられると言っても過言ではない。
二つ目は社会貢献。一般的には、様々なところに寄付をすることだね。例えば、孤児院や教会、商会、農業開発投資などだね。爵位をもらうことが多いね。
三つ目は能力。領地を治めない貴族もいるけど、領地を治める貴族などは、二年に一度、能力試験がある。この能力試験で、一定の成績が取れないと、爵位が落とされることもある。まあ、落とされた例はどうやらないみたいだから、きっとこれは表向き上やってることだと思う。
まあ、要は財力が物を言うって感じだよね。
これらが、貴族になるための条件。ここからどうやって冤罪を晴らし、爵位を奪還するか。
私の作戦はこう。まず、私がこの島を離れて、ジュリーの実家が経営する服屋に夜の貨物船に乗ってむかう。左遷先の領地を無断で出ることは重罪だってことについてもしっかり考えてあるよ。
家族で心中して、私だけが死んだことにすればいいんだよ。死体を偽装できるような動物の骨などを集めて、庭で、火葬すればいい。
貴族には火葬する習慣がないけど、お金がない農民はどうやら、庭や教会で火葬する習慣があるらしいの。だから、私達が火葬をするのは不自然なことではない。念のため、みんなも心中しようとした証拠が残るように、首をつった痕をつけておいたほうがいいかも。
話しを戻すね。まず何をするにしても必要となってくるのはお金。お金を作るためにジュリーの家の服屋を繁盛させて、財を蓄える。許可はもう取ってあるよ。
次に貴族に売れるような服を作り、信頼できる貴族の後ろ盾を手に入れる。そして、事件の証拠を探し、真犯人を断罪する。恐らく、私達の無実を証明できれば、貴族に戻ることができる。どう?」
アリエスは計画の概要について一通り話した。この国の仕組みなどは持参した実用書や『アリエス』の記憶を使って、勉強した。
「そんなうまくいくのかしら。傾いた服屋を繁盛させるなんて簡単な話じゃないと思うけど?」
とエルファは言った。
(前世での服に関する勉強はそこそこやってきたけど、経営の知識はほとんどないから、素人がこんなこと言っていたら、起業家に経営なめるなとか言われそうだけどね。)
「確かに、絶対に繁盛させられる保証はどこにもない。でも、何かやらなければ何も始まらない。そうでしょ?」
「僕は姉さんを応援するよ。今はそれしか手立てがなさそうだし。」
ジークの顔が少し明るくなった。
「最近のアリエスは変わったな。以前のアリエスだったら、こんな大胆なことはしなかっただろうけど。でも、私はアリエスの計画にかけてみたい。」
(まあ、ここにいるアリエスはみんなの知っている『アリエス』とは違うからね。変わったと言われるのも無理はないけど。)
「みんなが応援するなら私も協力するわ。協力することがあったら何でも言って。」
皆、アリエスの計画に賛成してくれた。やるからには最後までやり抜くそれが西尾楓だったときのモットーだ。運命は自分で切り開くそう心に誓った。
「ありがとう。みんな。私頑張るよ。明日から、色々と準備を手伝ってくれる?」
家族は大きくうなずいた。
「頑張れ! 応援しているよ。」
「アリエスの活躍楽しみにしているわ。」
「根拠はないけど姉さんなら、きっとできる気がする。」
アリエスは家族の激励の言葉が心にしみた。家族がこんなに温かい存在だったということは、とうに昔のことで、すっかり忘れていた。
アリエスの心に大きな灯火がついた。
(私達を没落に陥れた犯人を見つけ、断罪し、地獄にたたき落とす!)