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【完結】没落令嬢の爵位奪還計画  作者: 中条モンジ
第三章 真実のその先
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第六十六話 進むべき道

六十六話 進むべき道


 復活祭の日から二ヶ月が経過した。その間に、意図的に没落させられた貴族たちと王女クラリスを始めとした謀反人の裁判が行われた。事実確認と証拠集めの末、裁判の結果、クレヴィル家を始めとした、貴族四家の無罪が確定した。

 そのことによって、没落する前と同じ爵位が返還された。クレヴィル家においては、今回の王家内部と複数人の貴族の国家転覆計画を見破り、その計画が最終形態に至ることを防いだことを称して、公爵位が与えられた。

 そして、今度の裁判で第一王女クラリス、第二王子エリオット、ハワード、ノフォーク、ルーズ、クライン、シュバルツ貴族五家の神々の使徒の処刑が決定しそうだ。

 そして、その五家の家族たちは全財産没収された上でお家のおとりつぶしになるのではないかと予想されている。近いうちに左遷やら終身刑やら個別にそれぞれ処遇が決定される。

 また、奴隷を始めとした彼らの協力者も全て洗い出され、処罰すると明言された。この件によって、第一王子ルイスが王太子となり、正式に次期国王が内定となった。それにともなって、第二王子派が一掃される。以前まで第二王子を支持していた貴族家も第一王子を支持するようにとのお達しだ。

 次期国王である、第一王子を支持していない、王家の方針に反対していることが判明した場合、その貴族家はお家とりつぶしとなり、没落させられることが最近の帝国議会で決まった。いわゆる、王家独裁の恐怖政治の始まりである。

 第一王子ルイスはレティシア神との約束に従い、隠していた魔族の歴史を民衆に公表した。民衆の反応はというと、特に目立った行動を取る者はいないが、まあよくは思っていないのは間違えないだろう。なぜなら、都合の悪い事実を長い間隠蔽してきたからだ。王家の信頼が落ちたことには違いない。

 それと同時に、魔族狩りによって捕まっていた元魔族たちは秘密裏に解放された。よって、現在、彼らの魔力で補っていた電気のように継続的に光を放つものの供給も滞ってしまった。

 そのため、貴族も今は、照明器具は蝋燭を代用するという、文明の衰退が起こった。それでもアリエスはこれでよかったのだと心からそう思っていた。


                *     *     *


「エリモア王国新体制を祝いまして、乾杯~!」

 国王の乾杯の挨拶と、グラスとグラスが重なりあう音が甲高く響きわたった。

 会場はきらびやかな衣服に身を包んだ多くの貴族が入り乱れている。豪勢な造りの会場に吊るされている、シャンデリアの蝋燭の光は今までの光と比べると、弱々しく見えたことが少し物寂しい。

 今日は、エリモア王国新体制を祝って、王家主宰のパーティーが開かれている。新体制というのは、第二王子派の粛清と、今回の事件の関係者の検挙、帝国議会での第二王子派の貴族の発言権を弱め、第一王子絶対主義としたことである。

 帝国議会では今まで以上の明確な貴族内カーストが確立したといえる。


 貴族に戻ったアリエスもこのパーティーに招待された。今回は、カーティスのおまけとかではなく、クレヴィル家の人間として招待された。

 まだパーティーは始まっていないというのに、今までクレヴィル家をよく思っていなかった貴族家も手のひらを返したようにペコペコと頭を下げて、媚びを売りにやってくる。

 挨拶しにくる貴族の中にはアリエスをよく思っていない人間も多く含まれている。世界のリセットを阻止し、魔力をこの世から消したことによって損をしている人間が一定数いるからだ。

 例えば、隠れ魔族の貴族や第二王子派として力を持っていた貴族、魔道具屋を庇護下において儲けていた貴族とかだ。

(あの時はそんなこと考えてもいなかったけど、改めて思い返すと、恨みを買うたいそうなことしたわ。)

 だから、たかが挨拶だろうと気は抜けない。どんなことが、誰によって、いつ足元をすくわれるかなんてわからない。貴族が集まる場はいつだって、相手の腹の探り合いだ。

「あー、疲れた。」

 一通り挨拶が終わると、アリエスはどっと深い息をついて、軽く首を回した。

「姉さんは貴族向いてないね。なぜだか庶民の方がしっくりくるんだけど?」

 弟のジークはアリエスをガン見しながら、不思議そうに呟いた。ちなみに、アリエス自身が転生者だということは、家族には言っていない。正確に言うと、言えなかったのだ。

 もし、「私たちのアリエスを返して」なんて泣かれても困るからだ。

「まあ、確かにそうかも知れないけど、爵位奪還するために私が結構苦労したのわかってる?」

「そんなの、言われなくてもわかってるつもりだよ。」

 ジークは澄ました顔でそう言った。

「アリエス、これからどうするんだ? 爵位でも継ぐつもりなのか?」

 横から割って話に入ってきたのは、父のスタンリーだった。農夫の服装の方が頭に焼きついていて、正装した姿を見たのは、久しぶりだったせいもあるのか違和感を感じる。

「まさか。私はそういうのには向いてないよ。爵位はジークが継げばいいよ。私は私でこれからやりたいことがあるからね。」

 アリエスはスタンリーの質問に首を振り、ジークの方を見た。ジークは自然にアリエスから目を反らした。ジークに爵位継がせるのは継がせるので心配になる。

 しかし、だからといって、アリエス自身が継ぐ気もない。そういうことには向いていないことは自分が一番よくわかっていた。

「やりたいことって何だ? ハルフォード家の伯爵婦人か?」

 アリエスはスタンリーの言葉を聞いて笑った。

「伯爵婦人なんて・・・私が結婚する前提じゃん。話が早いよ。婚約者(仮)だから、結婚するかは未定だよ。」

「えぇっ! まだ(仮)だったの? あなたこの数ヶ月なにしてたのよ?」

 母のエルファは大きな声でアリエスの耳元付近で言ったので、アリエスは驚いて、エルファの顔を凝視した。

「何してたの? って、裁判とか引っ越しとかジュリーの家の店の件とか、その他もろもろしてたじゃん。

 だから、カーティスとはしばらく会ってないからそういう話もしていなかったってわけよ。」

 エルファは斜め上を見ながら、ああーそうかとここ数ヶ月の記憶を思い出しているようだった。

「姉さんみたいな規格外令嬢を嫁にしてくれるのなんて、カーティス様くらいなんじゃないの?   今までもお見合いしても全部断っちゃってさぁ・・・カーティス様に捨てられたら、姉さん教会か何かで孤独に働くしかないね。」

 ジークが憎まれ口を言うので、「やかましいわ」と言って、ジークの頬をつねった。ジークはへらへら笑っていて、反省する気は毛頭ない。

 アリエスは『アリエス』が今までお見合いを自ら破談にしていた理由はなんとなく想像がついていた。

 『アリエス』は、他人とは深く関わらないようにしているくせに、初対面の人にでも優しくするようなお人好し。目立つことが嫌いなくせに正義感が強い。それに、世界が大きく変わるようなわくわくするような展開が好き。

 少しの間しか話すことはできなかったが、それでも『アリエス』という人間がどういう人だったのか何となくわかった。

 きっと、そんな凄い『アリエス』に見合う人が今までにいないと思っていたのだろう。

(まあ、そういうことにしておこう。)

 アリエスは、『アリエス』のことを想像して、笑みをこぼした。

「急にどうしたの? 思い出し笑い?」

 ジークがアリエスの顔を見て不思議そうに言った。

「んー、まあ、そんなところかな。」

 アリエスはとりあえず、適当に話を流しておいた。

「というか、こんなところで油売ってないでさぁー、早くカーティス様と話つけてきなよ。

 まあ、結婚なしになったら、慰め会でもやるからさ!」

 ジークはアリエスの背中を押した。その勢いで一歩前へ出たアリエスは何事かと後ろを振り返った。ジークが面白そうに笑っているのが目に入った。失礼な弟である。

「全く・・・。そういうジークだって、そんな性格だと婚約者なんて見つからないよ~」

 我ながら子供っぽいとは思いつつも、ジークに挑発した。

「そんなことないよ。僕は猫かぶるのは得意だからねー。それに、僕は姉さんと違ってまだ15歳だから。」

 転生して、弟であるジークと過ごす時間が短かったので、この生意気さはよくわかっていなかったが、改めてこの数ヶ月間過ごしてみて、よくわかった。ためしに、『アリエス』の記憶も辿ってみたが、やはり昔からこの性格はあまり変わっていないようだ。

 アリエスは「はいはい」と適当に返事をして、ヒラヒラと家族に手を振りながら、カーティスを探しにその場を離れた。


 会場内はたくさんの貴族でごったがえっていた。この中から一人の人間を探すのは大変である。男性は皆似たか寄ったかの服を着ているので、余計にわからない。女性のドレスのきらびやかさに目がくらむ。

 アリエスは人と人の間をスルスルと抜けながら、右往左往していた。

「アリエス様!」

 誰かに名前を呼ばれ、アリエスは声のした方向に目を向けた。正装をした優しそうな面持ちの初老の男性か立っていた。

「先生!」

 先生ことライナス・ヘイマー氏、前世の名前は田安昭博。アリエスの前世の恩師である。ライナスと会ったのは、王立裁判所で話したとき以来だったので、アリエスは嬉しさでライナスのもとへ駆け寄る。

「お久しぶりですね。お元気でしたか?」

「西尾さん、先生と大声で言うのはよしてください。今世では、私は西尾さんの師ではありませんから。」

 ライナスは周りを見回しながら、アリエスに注意をした。アリエスは「すみません」と頭を下げた。二人は人混みを避けて、少し空いている場所に移動した。

「先生は、今何をしているのですか?」

「そうですね、私はこれから、田舎に学校を開くつもりで準備を進めています。領主様にも許可を取りました。」

 ライナスは男爵なので、議会の仕事のみで、領地は持たない。そのため、何かを始めるときには、領主の許可がいるのだ。

「先生らしいですね。」

「まあ、私にできることなんて限られていますからね。真実の目というチートが使えなくなったら、裁判長なんてやってもただの無能です。」

 ライナスは自分を自虐して苦笑した。

「それより、西尾さん、どうやら自分の運命を切り開けたようですね。まさか、神の力ごとこの世界から消してしまうとは思いませんでしたけどね。」

 アリエスの取った行動に驚いているのか、感心しているのかはよくわからなかったが、ライナスは小さく笑っていた。

「ここまで来れたのも先生のおかげだと私は思っています。辛い現実から目を背けて、全てを天運のせいにして、半ば色々諦めかけて逃げていたあのとき私を見捨てずに、先生が手を差しのべてくれたからです。」

 もし、ずっと、逃げたままだったら、きっと転生しても、全てを天運のせいにして、何も変えることはできなかっただろう。先生には感謝しても感謝しきれない。絶望の底から生きる希望を教えてくれた大事な恩師だ。

「本当にありがとうございました。」

 アリアスは深々と頭を下げる。ライナスは少し困ったような顔をして、目を伏せた。

「私は西尾さんに自分を変えるきっかけを与えただけに過ぎません。逃げたくない、運のせいにしたくないと思って、自分を変えたのは西尾さん自身です。

 成長しましたね、西尾さん。私はあなたの元教師として、あなたのことを誇りに思います。」

 ライナスは優しい口調でアリエスに語りかけるようにいった。今も昔もその優しさは変わらない。アリエスは心が熱くなった。心の奥底で、ずっと前世の自分を肯定してくれるような言葉を心の底で渇望していたのかもしれない。

 アリエスは自分の運命を自分で切り開くという目標がやっと実を結んだのだと実感した。そして、過去の自分も今の自分も知っている『先生』が誇りと言ってくれたことがアリエスにとって、何よりも嬉しかった。

 アリエスは目を拭った。目の周りが熱くなるのを感じた。

「西尾さん、こんなところで泣かないでください。私があなたを泣かせたと勘違いされてしまいますから。」

 ライナスはアリエスを見て、困った顔をしながら、あたふたしていた。

「すみません。私、何か先生と話すとなんか色々と思い出してしまって・・・」

 アリエスは目を拭って、鼻をすすると、ライナスの方に向き直った。アリエスの表情は先ほどと違って、晴々としていた。

「でも、過去に固執するのは今日で終わりにします。それから、西尾楓として、先生と会うのは今日で最後にします。」

 ライナスは黙って、アリエスの言葉に耳を傾けていた。アリエスはライナスに笑顔を向けた。

「今度会うときは、『アリエス・クレヴィル』として、私のこれからの人生の目標を達成したら、先生ではなく、『ライナス様』に会いにいってもいいですか?」

 ライナスは大きく目を見開いて、驚いたようや顔をしたが、コクりと静かに頷き、嬉しそうな顔をしていた。

「あなたのこれからの目標が何かはわかりませんが、あなたが私に再び会いに来るときはきっと、世界が大きく変わっているような気がしますよ。」

 アリエスは「はい」と大きく返事をした。ライナスのその言葉がアリエスの新たな目標に対する自信へとつながった。

「では、アリエス様。私は貴女のご健勝を心からお祈りしております。」

 ライナスは深々と頭を下げた。

「ありがとうございます、ライナス様。それでは、失礼いたします。」

 アリエスは足を一歩引き、礼をしてから、ライナスに背を向けた。アリエスは『先生』が背中を押してくれている、そんな感じがして、足取りが軽かった。

 創造神レティシアから授かった真実の子という転生者の役割はもう終わったのだ。前世に囚われるのはもうやめて、自分の意志のままに生きていこうとアリエスは心に決めた。

 アリエスは今までの自分とは自分の意志で決別した。ここが新たな人生を始めるためのスタートラインだ。

(私はきっと過去に囚われずに、後ろを振り返らないで前へと進んでいける。)


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