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【完結】没落令嬢の爵位奪還計画  作者: 中条モンジ
第一章 庶民の服屋
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第三話 遠島

第三話 遠島


 アリエスたちは裁判が終わった後、荷物をまとめるために屋敷に戻ってきた。そこで、アリエスは、この状況について、少し整理してみた。

 元のこの体の持ち主『アリエス』の記憶を辿ることができるし、『アリエス』の今までの生活や知識を使うことができるので、生活方法に困ることはない。

 また、この国の言語は英語っぽいが、『アリエス』の記憶があるので、普通に会話することが可能である。

 そして、やっぱりこの国は、エリモア王国という名前で、前世でやっていた推理ゲームの舞台である国名と一致、登場人物の一人である、『クレヴィル』という姓も一致。容疑の内容も一致。もうこれは、推理ゲームの世界と認める他なさそうだ。

(奨学金の借金消えたけど、この『アリエス』の人生も絶対楽じゃない。)

 明日、クレヴィル家はエルモア王国の本島から東に離れた島へ左遷される。そのためにアリエス達は準備を始めた。至る所に王宮からの監視員が配置されている。

「アリエス、金目になる物や、今まで使っていた服などは持ち込み禁止だ。」

 と父は言った。まだ父は青い顔をしていた。

 アリエスは前世では貧しい暮らしをしていたので、庶民となって、農業をやることには抵抗はなかった。しかし、アリエスの貴族時代の記憶をたどると、不自由のない、生活が思い浮かべられる。

(この世界に来るタイミングが悪すぎる。もっと早ければ、没落回避できたのかなあ。)

 アリエスは自分の境遇を呪った。つくづく自分は運に見放されていると感じた。


 アリエスは所持品として、左遷された先でも役に立ちそうな実用書数冊を持参することにした。家族達も自分たちの荷造りが終わった頃に、父は大広間に使用人達を集めた。使用人は全員で二十人ほどいる。

「皆集まってくれてありがとう。」

父は使用人達に向けて話し始めた。

「私は、四代前から続く、この侯爵家を守り抜くことができなかった。没落してしまった我が家では今後、使用人を雇うことができない。本当に申し訳なく思う。」

 父は頭を深く下げ、涙を流していた。母は父の背中をさすりながら、深く頭を下げた。アリエスと弟のジークも深く頭を下げた。

 使用人達は没落したクレヴィル家や自分の未来を思って泣いていた。使用人達はみな、貧しい実家の出身や幼少期に親に売られた貴族などであった。集団解雇によって、今後、行き場を失う物も多くいるだろう。

 一族を繁栄させることは大変だが、没落するのなんてあっという間だ。その事実はアリエスをむなしくさせた。

「私たちは旦那様の無実を信じております。旦那様は、旦那様はそんなことするはずありまっ・・・」

 使用人の一人が嗚咽しつつそう言った。他の使用人達も彼女につられて

「今までクレヴィル家にお仕えできたこと光栄に思っております。」

 などと使用人達は口々にそのようなことを言った。使用人達もつらいはずなのに、主を思いやった言葉を言える使用人達を見て、アリエスはクレヴィル家と使用人の信頼関係が強いものであることを悟った。

 それから、どれくらいの時間が経っただろうか、使用人達の涙も乾ききっていた頃、一人の料理人がみんなに向けて言った。

「さあ、夕飯にしましょう。」

普段は使用人と一緒に食事を取ることはないのだが、今日は主、使用人関係無く、一緒に食事をした。それが、アリエスたちクレヴィル家と使用人達で一緒に食べる最後の晩餐となった。


              *    *     *


 次の日の出発は早かった。憲兵達に荷物の中身を細かくチェックされた。出発する直前にアリエスの二つ年上の専属侍女ジュリーはアリエスに耳打ちした。

「これから定期的にお嬢様に手紙を送ってもよろしいですか。」

 アリエスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにうなずいた。ジュリーは泣くのをこらえたような顔で再び耳打ちした。

「いつか、クレヴィル家の冤罪を晴らしましょう。そのとき、私は貴女に協力するので、いつでも言ってください。これ、私の家の住所です。」

 ジュリーはアリエスの手のひらに住所を書いた紙を握らせた。アリエスはジュリーを見て、今までの中で一番の笑顔で「ありがとう」と言った。

「そこの娘、早くしろー」

 憲兵の一人が叫んだ。アリエスは使用人達の顔を一通り見てから一礼をした。そして、ぼろい馬車に乗った。使用人達は屋敷の前で深く礼をして、馬車を見送った。使用人達は後に来る馬車に乗って、故郷に帰される。アリエスは小さくなっていく屋敷を見ていた。

 この地は今後、最近爵位が上がった新興貴族クライン伯爵家が治めることになるらしい。よって、クレヴィル家の屋敷も自動的に引き渡される。

(あの屋敷にはこの侯爵領を新たに治める貴族が住まうのか・・・)

 そう思うと腹立たしかった。クレヴィル家をえん罪の罪で陥れた何者かがこの世界のどこかにいることが許せなかった。

「私は王族の財産を盗もうと考えたことは一度もない。誰かにはめられたんだ。このことは、家族にだけは信じてもらいたい。」

 父は拳に力をこめながら、悔しそうにしていた。家族達はこくんと頷いた。

「僕は信じているよ、お父様のこと。お父様はそんなことするはずないから。」

「私もです。あなた。」

 弟と母は言った。父は誠実な人だ。普通貴族の家の旦那は第二、三夫人をもうけるのに、父は母のエルファだけを愛していた。

(そんな人が、家族を裏切るようなことをするはずがない。)


 一週間ほどかけて、馬車は港に着いた。小さな船にアリエス達は乗り込み、東の島、エドモンド子爵が治める領地へ向かった。到着する頃には夕方になっていた。

(ずいぶん遠くまできたんだなあ)

 アリエスは日が沈みかけた西の空を見ながら、そう思った。


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