プロローグ 魂の記憶
プロローグ 魂の記憶
そこは何もない空間だった。上を見ると、雲一つない青空が広がっており、地面は雲のようなもので覆われている。地上とはまるで違う。天国という名の黄泉の世界なのか、あるいはまた別の空間なのか。
歩いているつもりでも地面を踏んでいるという感覚も感じない。それはもちろんそのはずだった。今の姿は人間ではなく、人間の体という器をなくした光球のような魂に過ぎなかった。
その魂はまるで何かに導かれるように、前へゆらゆらと光を発しながら進む。しばらく進むと、何もなかった無の空間に突如人影が現れた。黄金色の美しい長い髪をたらした、女の人の後ろ姿だった。その魂はその女の人に近づき、声が出ないので、言霊を発した。
「あなたは誰ですか?」
その女の人は髪の毛をゆるりと揺らし、少しだけ後ろを振り返ると、魂の質問に答えた。だが、その女の人の顔はよく見えない。
「私は、創造神と呼ばれる者、あるいは世界の総覧者であり、全ての真実を知る者。」
魂はその神なる女が言っていることが理解できなかった。
「そなたは一度死に、こちらに導かれた真実の子だ。」
「真実の子?」
「そう。真実の子は真実を知ることができる真実の目を持った選ばれし者のこと。その目で世の真実を見よ、そして、この世界に新しい風を入れ、正しい道へ導くのがそなたの転生先での役割だ。」
女神は魂に手を伸ばした。魂は自分がどうして、真実の子として神に選ばれたのか、そんな荷が重そうな役割を自分が引き受けられるのか不安で、女神の手を取ることはためらわれた。
「大丈夫。心配することなど何もない。胸の前で手を握り、『汝、真実を知る女神よ。我に目の前の真実を見せたまえ。』と言うのだ。私は、そのとき、そなたに力を貸そう。」
その言葉には不思議な力があるように感じた。魂は不思議なことにその言葉を聞いて、さっきまでのためらいが消え、心が落ち着いた。そして、導かれるようにして、女神の手の上に乗った。
「エリモア王国へ転送します。」
女神は詠唱すると、魂はキラキラと光りながら、女神の手の中から消えた。