おまけ① パッチワーク
話のテンポが悪くなりそうだったので、カットしていた部分です。
おまけ① パッチワーク
拝啓 お父様 お母様 ジークへ
風が冷たく吹くようになりましたが、元気でお過ごしですか。
しばらく手紙が書けなくてごめんなさい。
私はジュリーの店を手伝いながら、没落の真相を探るために奮闘中です。
先日、街の図書館に行って、没落した貴族について調べました。
詳しく分かり次第、また手紙を書きます。
敬具 アリエス
アリエスはこの手紙の内容を以前家族に渡した暗号表に従って、数字で書き直した。店の近くのポストに手紙を投函してから、アトリエで、一服していた。すると、廊下からバタバタと誰かが走る音がした。
「お嬢様―、大変です!」
ジュリーが慌てた様子で、アトリエに入ってきた。
「どうしたの?」
ジュリーは荒い息を整えてから話し始めた。
「大変です。先ほど売り上げを集計したら、以前に比べて売り上げが下がっているのですよ。最近、世の中全体の景気も良くないので当たり前といったら当たり前なんですけど。
ですが、何か手を打たないと、今度は借金して潰れちゃいます・・・」
ジュリーはわかりやすいほど、気持ちが顔にでる。アリエスは売り上げの伸ばし方を考え始めた。店が潰れたら、投資者に申し訳なくて、頭が上がらない。
(商品の値下げをするか、それとも材料を見直すか・・・)
景気が悪いときには、いつでも需要のある食料品とは違って、服のような贅沢品(?)は売れにくくなる。
アリエスは前世で自分が金欠のときの趣味でやっていたことを思い出した。ジュリーが希望に満ちたような顔で、こちらを見てくる。正直視線が痛い。
「使えなくなった服などを市民から買い取り、パッチワークで服を再構築するというのはどう?」
「パッチワーク? って何ですか?」
「簡単にいうと、パッチワークは色々な布をつなげて模様を作って、大きな布やバッグなどを作るの。服はやったことないけど、服も多分作れるよ。」
ジュリーはなるほどと納得したような顔をした。先ほどの暗い表情に少し光が差したようだった。
「名案ですね、お嬢様。お嬢様はパッチワークなるものをやったことがあったとは意外です。今までそのようなことをやっていたのは見たことがなかったので!」
アリエスは少し余計なことを話しすぎたと思ったが、ジュリーはそれに関してそれ以上気にしている様子はなかったので、特に弁解もしなかった。
「庶民から使えない布きれや痛んだ服を買い取って、それをパッチワークをしながら、アレンジして売り出したり、アレンジしながら、服の修理とかを承れば、店も庶民も得するはず!」
「おおー。確かにそれなら、庶民は服を買い取ってもらったお金で、うちのアレンジ商品を買ってくれるかもですね。アレンジして、服を直してくれるのも嬉しいですね。
それに、こっちは材料費が浮くし・・・」
ジュリーはパッチワークがうまくいったことによってもたらされる利益を指を折って数えていた。
「この件に関しては、シリルさんたちとも相談する必要がありそうだね。ジュリー、呼んできてくれる?」
「わかりました。すぐに呼んできますね!」
ジュリーはそう言って、アトリエを出て行った。
その後、ジュリーの両親達にパッチワークについて話した。シリルもセンリーもその案について納得して、その件は全て、アリエスに任せると言ってくれた。
(手間はかかるけど、この世界では目新しいものになるかな。)
* * *
数日後、ジュリーやデュランの働きかけのおかげで、古着を庶民から、そこそこ買い取ることができた。
アリエスはセンリーとジュリーを集めて、パッチワークのやり方とそれを使って作る服の作り方を教えた。
「布は細かく切るとつなぐのが大変だから、このくらいに・・・」
古着の悪くなっていない部分を一定の大きさで切り取る。
「縫い代を一センチ・・・いや、人差し指の爪の長さくらいにして、布と布を縫い合わせる。」
地道な作業を数時間繰り返した。時間が経てば経つほど二人の縫うスピードは早くなっていった。
「できた大きな布をこの型紙通りに縫っていって、裾の部分を内側に折って縫い合わせる。」
ジュリーとセンリーは、足踏みミシンで、パッチワークで作った布を縫っていった。そして、裾の部分を内側に折って、そこを縫い合わせた。
そして、パッチワークで作った布を使った、スカートが完成した。
「おおおー。これは、これは新しいです!」
ジュリーは興奮している。センリーもできあがったものをじっと見つめて、アリエスにいった。
「お嬢様、これは流行の最先端間違いなしですよ。」
正直言って、おしゃれとは言えないが、こういった、面白いファッションを好む人にとってはいいのかもしれない。
「他にも、こうやって、三角の布をいくつかつなぎ合わせると、プロペラのような柄にすることもできるよ。」
アリエスは、先ほど二人がミシンを使っている間に作ったプロペラ柄の布を広げた。プロペラ柄につなぎ合わせたものをジュリーとセンリーは感心しながら、見ていた。
「これを例えば、穴の空いたズボンとかに張りつければ、修理としては新しいよね。」
親が幼稚園児の服の穴をうめるときに使いそうな手法なので、大人にとっては、着るのは少し恥ずかしいかもしれない。
「子供の服をこうやって修理すれば、喜びそうですね!」
ジュリーの発言にセンリーはうんうんと頷く。
「まあ、この手法を使って、服を一から作ったら、地獄ですよ。」
アリエスは遠い目をしながら、嘆息する。
「確かにそうですね。売る服全部にこんなことやってると、増産できそうにありませんね。」
センリーは少し残念そうな顔をしていた。材料を安く仕入れても、生産コストがかかってしまうと、元も子もない。
その後、店番の仕事を終えたデュランやシリルもやってきて、アリエスは作り方などを軽く説明した。そして、シリルからゴーサインをもらった。ふたりとも、できた服をとても褒めてくれた。
それから何日かかけて、パッチワークで作った服を増産した。始めは、スカートのような簡単なものを作った。それでも、生産体制的には結構大変だった。
だから、途中からは修理事業に力を入れた。主にやったこととしては、破れた上着に他の布を継ぎ合わせて再び、その服が着られるように改良して売った。
要するに、破れた服を買い取り、それを修理して、売るのだ。ただ、布を継ぎ合わせるだけでは面白みに欠けるので、たまに、星のような形を作ってから、継ぎ合わせるという、アレンジもした。そういった手をかけたものは、他のものより、高めに売った。
興味津々で製造過程を見ていたジュリーの妹のマーサにも作り方を教えたら案外上手に作ってくれたので、戦力になってくれた。
数ヶ月ほどすると、客足も増えていき、お店の売り上げは以前ほどではないが、徐々に息を吹き返していった。アリエスの計画は一応成功したのだった。
(生産体制としては、結構きついし、儲けもそこまでないから、できれば、もうあんまりやりたくないかも。)