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【完結】没落令嬢の爵位奪還計画  作者: 中条モンジ
第一章 庶民の服屋
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第十話 染色品改良

十話 染織品改良


 リニューアル開店をしてから、数日が経過した。店は繁盛しているとまでは言えないが、利益が出るくらいまで、徐々に売れ行きは回復しつつあった。

 アリエスは店の奥の工房で、せっせと服を作っていた。ジュリーもアリエスの服作りを手伝っていた。

「この店の服を作ってくれる業者と契約したいところではあるけど、資金がなぁー」

 アリエスは頭を抱えた。店の商品はすべて自社制作で基本二人から三人という生産体制である。客足が落ち着いているときはジュリーの母センリーも服作りを手伝っている。

「そうですよねー、業者に依頼したいところではありますが・・・」

 ジュリーも言葉を詰まらせている。アリエスは完成した服を交互に見ながら、うーんとうなってから独り言のようにつぶやいた。

「生地の色をさぁ、もっとバリエーション豊かにしたいなぁー。後一工夫ほしいところだよね。」

 アリエスは背もたれに深く腰をかけ、何かいいアイディアが浮かぶのではないかと天井を見上げた。

「ですが、お嬢様、貴族が着ているような色落ちしにくいカラフルの布は高価なので、庶民がとても手が出せるものではありません。」

 ジュリーがアリエスに忠告した。

 安く大量生産できる化学的な染色品がこの電気もろくに普及していないような世界にあるわけがない。かといって、作り出すのも無理そうだ。アリエスにそれを開発するほどの知恵はないし、器用でもない。

「ちなみに、庶民達が着ている服って、何で染めてるの?」

 アリエスはふと気になったことをジュリーに聞いた。ジュリーはうーんと喉を鳴らした。

「そうですね・・・。布は外部から買っているので、染色材料まではよく知りませんが、植物とかじゃないですかね」

「それだよ、それ。やっぱり植物かー。これはもしかしたら・・・うん!」

 アリエスは一人で納得して、自分の世界に入り込もうとしていた。ジュリーは現実に引き戻そうと、アリエスの服を引っ張り、顔をのぞきこむ。

「自分の世界に入らないでくださいよー。それで、何か思いついたのですか?」

「うん。植物染色改良版を作ろうと思ってさ。従来版よりパワーアップさせてね。工夫のしようはいくらでもありそうだし!」

 色落ちしにくくなる工夫や色鮮やかに染色するための材料や色止めの工夫や模様をつける工夫など、工夫どころを考えるだけで心が躍る。

「ちなみに、ジュリー! 従来版の染色方法は・・・」

 アリエスはチラリとジュリーの方へ視線を送る。ジュリーはその視線に気づいて、アリエスが言葉の続きを発する前に答えた。

「さすがに知らないですよー。向こうも商売ですから、手の内はそう簡単に明かさないですよ。」

 予想通りの回答であったが、やっぱり、少し残念だった。

「んじゃ、染色品をどこかの染色屋と一から共同開発でもするしかないかなあ。」

「それ本気ですか!?」

 ジュリーは驚いた顔でアリエスの方を見た。作業する手も止まった。

「安くて色落ちしない布の開発に成功したら、染色屋にもメリットがあるし、この店にもメリットがある・・・。どう?」

 アリエスはドヤ顔でジュリーの方を見た。その開発に成功したら、デザインは同じでも色違いの服を作ることができるようになるだろう。

「どう? と言われましてもうまくいきますかねー?」

 ジュリーは心配そうな顔でアリエスを見る。

「それはわからないけど、やってみなくては何も始まらないと思うんだよね。安価な花とか植物を染色品にしたいのだけど、そういうのをたくさん生産している領地って、どこかある?」

 ジュリーは席を立ち、資料用の本がたくさんおいてある本棚から、一冊の本を取り出した。そして、ペラペラとページをめくった。

「パウエル伯爵領ですね。民衆はたくさんの植物を栽培して、それを売ることで、生計を立てています。通称『花園の箱庭』と呼ばれています。」

 アリエスはにやっと笑った。もしかしたら、染色の材料になりそうなものがその領地にはあるかもしれないと淡い期待を寄せた。

「ありがとう、ジュリー。まずは、染色屋に行って、それから、出張の準備をしないとだね。」

 ジュリーはアリエスのテンションの高さに苦笑いしながら、「仰せのままに」と言って、準備を手伝ってくれた。

 染色屋に共同開発の申請をしにいって、ジュリーの店から少し離れたところにある染色屋と事業契約を結んだ。


              *    *     *


「お嬢様―、申し訳ありません。」

 開店前の店の前で半泣きするのはジュリー。なぜこのようになっているかというと、ジュリーが出張する気満々で準備していたが、センリーに服の生産体制が間に合わないから、出張には付き添いするなと言われたからだ。付き添いにはデュランがついて行くことになった。

「私の仕事のペースが遅いばっかりに、付き添いできず・・・」

 表情豊かなジュリーは暗い顔をしてうつむきながら、アリエスの手を取っている。

「出張は今回だけではないから。それに、デュランがついて行ってくれるし・・・」

「お嬢様は私なんかいなくても全然大丈夫そうですね。昔のお嬢様は私をもっと頼ってくださったのに・・・。今はデュランの方が頼りがいが・・・。」

 ジュリーが最後まで独り言をつぶやききる前に母のセンリーから、ジュリーの頭に拳が落ちてきた。

「あんたもしつこいねー。そんなこと言ってると、本当に愛想つかれるよ。さっさと仕事しなさい!」

 センリーはジュリーの襟を引っ張って、奥の工房に無理矢理連れて行った。店内が一気に静かになった。

「さて、アリエス様、そろそろ行きましょうか。」

 デュランは荷物を持ってから、アリエスに言った。アリエスは顔を隠すため、黒髪のかつらをかぶり、顔の半分を髪で隠した。

「さあ行きましょう。」


 パウエル伯爵領へは乗合馬車を使って行った。ジュリーの家の店から西に、領地を一つまたいだ先にある。

 乗合馬車に乗って、しばらくすると、伯爵領の検問所に到着した。どうしてもこっちのルートを通ると、検問所を通過せねばならないのだ。別のルートを通るとかなり遠回りかつ、乗合馬車の料金も上がる。

 アリエスとデュランは身体検査を受け、署名をして、領地内に入った。

 特に、身ばれすることもなく、無事通過できたので、アリエスは胸を撫で下ろした。

 噂通り、花がたくさん咲いているきれいな領地だった。あらゆる所に咲いている多種多様の花がアリエス達をを出迎えるかのように大きく花を開かせていた。アリエスはその光景にしばらく見とれていた。

「まるで、桃源郷・・・。この世界にこんなきれいな場所があるなんて・・・。」

 この地は森も近くにあり、土壌が豊かで、緯度の割には暖かい。そうした環境がこうした花々を大きく成長させるのだ。

「アリエ・・・じゃなくて、アメリア様。大丈夫ですか? 早く行かないと日が暮れますよ。」

 アリエスはデュランの言葉で我に返り、花の直売上へと歩き始めた。まだムシムシするが、秋に差し掛かったこの時期にしては風が妙に心地よかった。


「いらっしゃい!」

 直売上につくと威勢のいい声が響き渡った。多種多様な花が大きく花開いていた。アリエスは髪を耳にかけて、目を輝かせながら、あちこち見て回った。

「おおー、すごくきれいに咲いている!」

「おっ、興味あるかい? こっちの花ははじめてここで、繁殖に成功した花だよ。どうだい、買っていくかい?」

 アリエスは子どものようにはしゃいで、売られている花を見ていた。

「ちなみに、どんな花を探しているんですか?」

 アリエスが動き回るので、足早でついてきたデュランがアリエスに尋ねた。

「そうだねー。とりあえず、いい色が出せそうな花かな。私が考えている中で、一番安価でできそうな方法は草木染めかなって思うんだけど・・・」

「草木染め?」

「草木染めっていうのは、まあ、名前の通りなんだけど、植物を使って染色する方法なの。木や花はもちろんのこと、タマネギの皮とかそういったものでもできるんだよ。

 多分、庶民が着る服は今も草木染めと似たやり方で染めていると思うけど、工夫次第では今よりもいいものになるかもしれないと私は思ってる。」

 デュランはそれを聞いて、へーと感心していた。アリエスは前世で草木染めという染色方法はタマネギの皮くらいでしか試したことはないので、染色に適している植物がどれかは正直わかっていないが、やり方は知っていた。

 草木染めは昔、日本で行われていた染色方法である。よって、そんなにたいそれた道具などは必要としないので、文明があまり発達していないこの世界でもできると考えたのだ。


 アリエスは巷では手に入れにくくかつ、染色材料として使えそうな花をいくつか注文した。後日配送してもらう予定である。

「ずいぶん買いましたねー。こんなに使い切れるのですか?」

「これでも厳選したんだよ。本当はもっと買いたいような気もするけど、予算もあまりないからね。」

 観光をしていきたいところだったが、あいにく二人にはそんな余裕はなかった。二人は帰路をたどり始めた。

「ちょっと、聞いたぁ? 高価買い取りの植物の話?」

「ああ、知ってる。領主様が量産を推奨していとか言う話だろう。なんかそれ、毒があるとかいう噂じゃん。なんか、誤って口にしたやつが倒れたとか聞くし・・・」

 農夫二人が道ばたで会話をしていた。アリエスは足を止めた。

(毒草・・・?)

「どうしましたか?」

 デュランはアリエスの顔をのぞいてくる。アリエスはシーと言って、会話に耳を澄ませた。

「知ってる、知ってる。結構危ない植物らしいじゃん。」

「こわー。領主様、誰か殺す気なんじゃないか。」

「変な冗談やめてくれよ。他の用途だってあるだろ。」

 農夫の二人は苦笑しながら、歩いて行った。アリエスは大きく息をついた。何かよくないことが起こるような悪い予感がした。

 この植物は貴族関連の何かに使われるのではないかという考えが頭をよぎった。もしかしたら、植物に毒があったのはたまたまであり、特に意味もないのかもしれない。

 先ほどまで見えていた青空を徐々に厚い雲が覆い始めた。太陽は隠れ、辺りは薄暗くなった。

「天気が悪くなりそうですね。早い内に帰りましょう。」

 デュランはさっきの話しのことは特に気にとめていないようだった。それよりも、天気の心配をしていた。アリエス達は帰り路をたどり始めた。


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