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第9話 謎 の ローブマン先生


 ついに上級学校 国軍科恒例の

 入学直後の長距離行軍。

 その日程、6泊7日の1日目が開始された。


 先頭を行くのは教導官であり、上級学校の先生である

 赤ローブの謎のローブマンA先生

 青ローブの謎のローブマンB先生

 黄ローブの謎のローブマンC先生だ。



「さて、予定通りにいくぞ?」

「解ってるよ」

「じゃあ、7日後にゴールで」

「「ああ」」


 開始して1分と経たずして、3人が3方向へと分かれてしまった。

 比較的細身の謎のローブマンA先生と謎のローブマンB先生より

 太目の謎のローブマンC先生の人気が高かった。


 ぱっと見た速度だけで言えば謎のローブマンA先生が一番早く

 少し遅れて謎のローブマンB先生、そして明らかに遅い

 身体の重そうな謎のローブマンC先生という布陣に

 多くの生徒が謎のローブマンC先生についていく事を選択した。




「さて、どうするよ。」

「当然。」

「選択肢なんてあってないようなものよ」


 アーガス達3人が選択したのは、一番早く

 ついていく生徒が少ない謎のローブマンA先生だった。

 割合で言えば謎のローブマンC先生についていく生徒が9割以上。

 そして謎のローブマンB先生についていく生徒が9分以上。

 謎のローブマンA先生に至っては20人と居なかった。


 そしてこの選択が、それぞれの生徒達の運命を変える事になった。

 謎のローブマンA先生は、素早く進んでいたが

 10分としないうちに、更に加速した。


 しかもとんでもなく速く、アーガス達が全力で追い掛けても

 徐々に距離を離されて行く状況だった。

 それだけなら良かった。


 進む先にあったのは断崖絶壁だった。

「もう道じゃねぇじゃねぇか!?」

「そんな事言ったって仕方ないでしょう!?」

「道じゃないなら飛ぶしかないでしょ!」

「おい、あそこ…。」


 断崖絶壁を前に、謎のローブマンA先生は

 一気にそのまま断崖絶壁を飛び上がっていった。

「ついてきゃいいんだろう!?【双手(ツーハンデッド)詠唱(キャスティング)】!

 【身体強化Ⅵ(エンハンスドボディ6)】!【(ウィンド)】!」


 3人が3人、同じ方法で断崖絶壁をそのまま登っていく。

 他の生徒達もそれについてくる者、そうでない者と分かれた。


「チッ、皆同じかよ…。」

「鉄板の走り方らしいからね…。」

「まぁ皆、大体同じになるよね……。」

「どこで習うんだか…。」

「お金のある人は冒険者に習うらしいよ…。」

「へぇ…。」



 しかし登り終わると謎のローブマンA先生は

 そこに立っていた。



「ここが1日目の野営地だ。」


「「「え?」」」


「君達は周りを良く見ているか?

 ここを登るだけで1日費やす者

 そもそも登れない者と分かれる場所だ。

 君達は元4軍かもしれないが、そうでない者にとっては

 このような断崖絶壁はこうして登るのだよ。」


 そういうと、謎のローブマンA先生は

 次々と用意されていたロープを下に降ろしていった。


「普通はこういうロープで、時間を掛けて登るものだ。

 当然、下には落下を防ぐ教員も居る。

 君達は、自分達が現時点で異質だと認識しなさい。」



 こうしてアーガス達の1日目がたった10分で終わってしまった。

 拍子抜けと言えば拍子抜けだが、たかだか12歳の子供が

 いくら魔法のある世界とはいえ、断崖絶壁をスルスルと

 登ってくる事自体が異常なのは

 4軍の教導がそれだけ厳しかった所以でもある。



「だが、勘違いしてはいけない。

 今の君達は卒業時の誰もが出来るどころか、もっと早く登ってくる。

 あくまで現時点で異質であるだけであり、将来においてはまだまだ力不足だ。

 その優位は今だけだと、努々忘れぬ事だ。」



「「「はい!」」」

「良い返事だ。そこの野営地を使って休むが良い。」





 だがアーガス達3人は、この先生こそ異質だと感じた。


「今、あの先生一足飛びだったよな…。」

「【(ウィンド)】かな…?

 前にリルネットがやったように…。」

「でも魔力も感じなかったし、魔力残渣も見当たらなかったわよ?」

「じゃあ…あれは身体能力だけで飛び上がったって事か…?」

「「まさかぁ……。」」


 実際、3人は謎のローブマンA先生が

 どうやってこの高い断崖絶壁を飛び上がったのかが

 全く解らなかった。





 そしてところ変わって、謎のローブマンB先生の集団も

 同じ様な場所で苦戦していた。

 それは川幅が200メートル以上あり、激流が流れる川だった。

 しかもその川を渡った所に、既に野営地が見えているが

 そこにあるのはたった10本の鋼線だった。


 細さ僅かに0.5ミリ、捻る様に編まれた鋼線だけが

 川の上を通してあるだけだった。


 謎のローブマンB先生は、この鋼線すら使わずに

 200メートルの川を飛び超えた所で止まっていた。


 このたった10本の細い鋼線に対し、ついてきた生徒は40人程。

 既に10人ほどが、鋼線を殆ど使わずに渡った為

 30人程で、10本の鋼線を渡っていくのだが……。


「あああああああ!?揺れる!落ちる!」

「うるせぇ!渡れないなら場所を開けろ!」

「戻れねぇよ!?」

「ならさっさと進みなさいよ!1本に3人は居るんだから!」



「はぁ…、くだらない言い合いだな……。

 おい、渡り切った奴は野営場へいって休め。

 ここが今日の終着駅だ。」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


「全く……、面倒くせぇったらありゃしねぇな………。」





 そしてところ変わって謎のローブマンC先生の集団。

 この集団だけで3000人は居ると思われる。


 謎のローブマンC先生がドタドタ走っている姿を見て

 ついていくのが楽だと思っている生徒が大半だった。

 しかも走るのは地面に草も生えてはいないし

 舗装されたかのように踏み固められたような道だった。


 謎のローブマンC先生がペースを上げるような事も無かった。

 しかし次々と脱落者が出る事に、生徒達が違和感を感じ始めた。



「何か少しづつ倒れてる奴が居るな…。」

「悪いものでも食ったか、この程度の速度でも

 付いてこられないボンボンでも混ざってたんじゃないか?」

「そうか…?」


 それこそ謎のローブマンC先生は、ランニング程度の

 かなりのスローペースで走っていた。

 しかしこの道にはほんの僅かに傾斜がつけてあった。

 しかも進むに連れて、徐々に角度がついていく道だった。


 流石に角度が0.6度を超えた辺りから、全員が理解した。

 スローペースではあるけど、この道自体が傾斜している事に。

 そして1度を超えてくると、身体の不調が出てくる。


 それは眩暈(めまい)だったり、頭痛や浮いている感覚だったりと…。

 吐気や疲労感すら感じる生徒も出始める。

 そして傾斜角が2度を越えた辺りから、ランニング程度の速度に

 付いていく事が厳しくなり、遅れる生徒が多発。

 中には、完全に倒れこんでいる生徒も珍しくなくなり始めた。


 このコースは平衡感覚を養えているか次第で変わるコースで

 そこが弱い生徒ほど、次々と脱落して行くコースだった。

 しかも謎のローブマンC先生は良く見ると

 まっすぐ走っている。


 これは土属性魔法を使い、足元だけ角度を水平にして

 足を離す際にはまた元の角度に戻していると言う走り方で

 謎のローブマンC先生自体はコースの角度の影響を受けていない。


 しかし真似しようとしても、それほど短期間に

 水平にして、戻すと言うのが非常に難しかった。

 さらには戻し切れずに後ろから来た生徒がそこに引っ掛かり転んで

 妨害行為、と取られる生徒まで出てきた事で

 皆、真似をしようにも失敗をした時にそのまま失格とされる事を恐れ

 地属性魔法で真似する者は、ほぼ居なかった。


 代替に風属性魔法や氷属性魔法などを使う生徒も現れたが

 やはりミスった時に妨害行為になってしまい

 その場で教師に失格が言い渡される生徒も出てきた。


 しかも速度がスローペースで密集しているだけに

 足元を水平にしようとすると、魔力操作が正確に素早く出来なければ

 行使する事も難しかった。


 かといって、そのまま走るとやはり2度と言う傾斜は

 意外ときつく、左側が高い為に走っていて右側にどんどんと

 ずれてしまう生徒も出始めて、今度は生徒同士がぶつかり

 喧嘩になったりと、中々思うように付いていけない生徒達が多かった。


 そして2度からさらに角度が上がっていく。

 大体競輪場の直線などが2度から4度程度の傾斜がついていて

 カーブについている角度が25度から35度程度とされている。

 3度、4度、5度とどんどん角度がつくに連れて

 どんどんと生徒の体調が悪くなるだけではなかった。


 ついには夕方頃になると、道の角度が25度を超えていた。

 最早ランニング程度の遅い速度では、踏ん張りが上手く効かなくなってきていた。


 速度を上げてくれれば、自信のある者は速度でその角度を

 乗り越える事も出来るかも知れない。

 しかし謎のローブマンC先生はマイペースにゆっくり走る。

 足元はしっかり水平を保っているから、なんら苦にならず

 その足元を追い掛けようとしても、足が離れた途端に元に戻っていく。

 移動速度がゆっくりなだけに、非常にじれったいコースだった。


 そして最後は26度を越え始めたとき。

 ついに道の半分が消え、半分は川に変わった。

 ここで足を滑らせれば、川へと転落する上にその川までの高さも

 5メートルくらいはあった。


 それでも食らいついて来られた生徒だけが日暮れ前に野営地に到着した。

「ここが1日目の野営地だ、ゆっくり休むとよい。」


 そう謎のローブマンC先生が言う頃には、ついて来られた生徒に

 まともに返事が出来るような生徒は居なかった。

 しかしこれで終わる訳では無い。

 どの先生についていってもそうだが、ここはあくまで1日目のチェックポイントであり

 7日目が終わるまでに、7日目のゴールに

 各日のチェックポイントを通過してゴールすれば良い事になっている。


 つまり遅れても、途中棄権となってさえ居なければ

 この長距離行軍は24時間続いている事になる。


 その為に、国軍科の先生達や軍部も出張って来ている。

 1人足りとも死ぬ事が無いように、だ。



 そしてどの野営地も、春だと言うのに

 極寒のような風が吹き荒ぶ場所だった。

 テントを持ってこられた者、そうでない者も居る。

 土属性魔法を使って、テントを作る者も居たりと様々だった。



 アーガス達もテントを1つ確保してきていた。

「当然、女子専用です!!」


 女性が2人、男性が1人……。

 つまりアーガスは寒空の中、外で寝る事になった………。



「うう……さ…寒い……。」

 アーガスはスコップで塹壕のような穴を掘り

 そこで風を凌ぎつつ、夜を過ごしていた。



「こ……こういう時はどどどどうするんだったっけ……。」

 ハイネ教導官の物見遊山(ピクニック)でも

 散々こういう事は行なってきたが

 流石に吹き荒ぶ風の寒さが尋常ではなかった。


 まぁ…この風の大元は軍が起こしている魔法による風であって

 わざとこのような風を吹かせているかでもあるのだが…。


「ああ、そそそうだった…。【境界(バウンド)】!

 ………風を遮っただけで暖けぇ…。」





 だが2日目からは10分で終わると言う事はなかった。

 朝7時、スタートとなってから1回3人の謎のローブマン先生達が

 同じ場所に現れた。


 つまり、ここでルートの変更が出来ると言う事だった。

 そしてまた3人の謎のローブマン先生達が散開していった。


 アーガス達はこのまま謎のローブマンA先生を追うつもりでいた。

 しかし昨日と違い、謎のローブマンC先生が一番不人気で

 謎のローブマンA先生と謎のローブマンB先生の所に

 生徒が集中しだしたのだ。



「どうするよ?」

「うーん……混雑は避けたいけど……。」


 しかし速度は昨日のままでやはり謎のローブマンA先生は早く

 次いで謎のローブマンB先生、大きく遅れて謎のローブマンC先生と言う

 速さだった。


 そして3人が選択したのは、ついていく生徒の少ない

 謎のローブマンC先生だった。


 恰幅のあるその姿とドタドタと走る姿を見て

 むしろ3人は警戒した。



「あの先生、あれわざとだよね…。」

「でも凄いお腹出てるよね…。」

「でも謎のローブマンA先生があれだったんだぞ?

 多分この先生も何かあると思うんだけどな…。」

「アーガスが頭使ってる…。」

「今日、雪だったかしら?」

「うるせぇ!」


 しかし警戒していると、やはり微妙にペースが上がっている事に

 3人は気がついた。


「これは……いやらしい………。」

「走る速度がそのまま、歩幅だけどんどん上がってるわね」


 謎のローブマンC先生の歩幅がどんどんと広がっていった。

 そしてとあるタイミングからその走り方が一気に変わった。



「まずい!」

「「え!?」」

 注視していたアーガスが声を掛けた瞬間だった。

 謎のローブマンC先生が一気に急加速した。



「【双手(ツーハンデッド)詠唱(キャスティング)】!

 【身体強化Ⅵ(エンハンスドボディ6)】!【駿足(スピードスター)】!」


 アーガスがそのまま引き離されないように

 一気に距離を詰めるが、マリーネとリーヴァが

 気を逸らしてしまっていた為に、一瞬にして100メートル近い

 距離が空き、そのままどんどんと謎のローブマンC先生が

 引き離しに掛かった。



「ぬおおおおおおおおお!ぜってぇ離されねぇぞ!!」

 アーガスだけが謎のローブマンC先生にピッタリとくっつき

 残りの生徒が全て置いて行かれる事態になった。


 しかし謎のローブマンC先生は

 突然、道から外れ道なき道を進み始めた。

「なんだって!?」


 アーガスは方向転換し、90度進路を変えついていく。

 そしてまた道のような場所に出ると

 謎のローブマンC先生は進路を変え

 かなり複雑な動きをし出した。


「どういう事だよ………。」

「ふふ……。」

「なっ、何がおかしい!?」

「いや、俺について来られたのはどうやら君だけのようだからね。

 1つ勝負をしないか?」

「勝負…?」

「鬼ごっこ、俺を君が捕まえられたら止まろう。

 だが、そうでなければ野営地に着くまで俺はこの速度のまま

 止まる事は無い。では開始だ!」



 謎のローブマンC先生はそう言って、次から次ヘと方向転換をしながら

 道なき道から道に出たりと、それこそ戻ったりもしたりと

 不思議な動き方へと変わっていった。



「いいだろう!捕まえてやるよ!!」

「ふふ、出来れば良いね。」


 そしてアーガスは謎のローブマンC先生を捕まえるべく

 追いかけて行くが、捕まりそうだと思うと

 前触れ1つ無く、方向を急に変えていった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?急に方向変えやがる!!」

「当然、鬼が捕まったら面白く無いだろう?」

「こうなったらぜってぇ捕まえてやる!!」





 そして夕暮れ時。

 結果としてアーガスは、謎のローブマンC先生を捕まえる事は出来ず

 野営地に到着してしまった。



「はぁっ……はぁっ………。なんで捕まえられねぇ………。」

「俺は先生だぞ?そう簡単に捕まる先生が

 物事を教えられると思うかな?」

「いや、そりゃそうだろうけどよ……。」


「馬鹿ね、アーガス。そんな事してたらただ疲れるだけでしょ?」

「ほんと馬鹿だわ…。」


「うるせぇ!っつかマリーネにリーヴァ!?

 どうして追いついてるんだよ…。」


「「やっぱ馬鹿だわ…。」」

 マリーネとリーヴァは謎のローブマンC先生が速度を上げた際に

 足跡が強く残っていった事に気がついた。

 謎のローブマンC先生は、足跡を強く残して

 道なき道を真っ直ぐ進み、道に出たら方向転換と言う

 方法で、後続となる生徒達に進路を残してきていた。


 マリーネやリーヴァはその足跡と

 アーガスの魔力残渣を追って、ここまでやってきただけだった。

 実際はアーガスの魔力残渣が無くとも

 足跡だけで、ここまで辿り着けるように

 謎のローブマンC先生は踏み込みを強くして

 生徒達に進路を残してきているので

 キチンとそれに気がつけば、野営地まで辿り着く事は出来た上に

 実はアーガスと鬼ごっこしている際に

 それなりに無駄な距離を走ってきていて

 足跡をキッチリ追ってきていた方が距離的には短くて済んだ為

 アーガスと謎のローブマンC先生の野営地の到着と

 マリーネ達の到着に思ったほど差がなかった。



「いやぁ、途中でアーガスの魔力残渣が2手になったりしてたから

 足跡見たら、どうも残渣を追うとその分遠回りだなぁって…。」

「だから馬鹿だって言ったのよ……。」

「そうかな?俺はそうは思わないな。

 アーガス君がもし、俺から離れてしまった場合。

 もし足跡を俺が付けなかったらどうなっていたんだろうね。

 それを考慮すれば、アーガス君のした事は

 決して無駄では無い、と考えるべきだと思うよ?」

「そうだそうだ!」



「でもアーガス、あんた私達の1.5倍くらいの距離走ってるわよ?」

「………マジデッ!?」



 そして2日目の夜。

「うう……ま…また外か……。」

 アーガスは今日もスコップで塹壕のような穴を掘り

 そこで風を凌ぎつつ、夜を過ごしていた。


 だが、そこで目にしたのは他の生徒が

 夜な夜な野営地に入ってきて、食事を作る元気も無く

 興亜パンと代用醤油スープで食事を取り

 背嚢(リュック)から毛布を取り出して、包まり寝る姿だった。


 それを見て、アーガスは今の自分がどれだけ

 恵まれているかと考えた。


 自分自身の力で、離されずに追いついた事は確かだが

 それも4軍での教導があっての事で

 それ以外に入ってくる人達は、王侯貴族に豪商や

 下級学校を成績優秀で卒業してきた子供達だ。


 そんな子供達が、どれだけの教導を受けてきているのか。

 その差を、アーガスは恵まれていると受け取った。

 決してそれを見て、あいつらは遅い

 俺の方が速いだなどと、優越感に浸る事はなかった。


 ただそれを見て、もし自分が1枚目の赤紙を貰っていなかったら。

 むしろそれを考えて、ゾッとしていた。

 4軍も確かに地獄だったとも考えているが

 今になってみれば、必要だった。

 それを耐えてきたから、今の状態があるのだと

 他の生徒達の姿を見て、一段と気を引き締めていたが

 それはマリーネ達には伝わらなかった。

 テントの中で寝ているし?



「さて、3日目頑張るかな…。」

「アーガス、あんた何か悪いものでも食べた?」

「お前らと同じ物しか食ってねぇよ!!」

「拾い食いでもした?」

「してねぇよ!」

「なら良いけど……、あんた今日おかしくない?」

「いつも通りだよ!」

「「?」」



 そして3日目。

 3人の謎のローブマン先生が再度合流した。

 そして散ったが、流石に生徒達も理解したのだろうか。

 誰についていっても、結果的にはそう変わらないと判断したのか。

 生徒達がほぼ同じくらいに分かれる形になった。



「さて、今日はやっぱりついていってない

 謎のローブマンB先生かね。」

「なんでアーガスが決めるのよ!?」

「いや、だってどこついていっても大体同じ人数じゃないか。

 ならついていってない謎のローブマンB先生についていかないと」

「「その理屈がおかしい!」」

「それなら謎のローブマンA先生でも謎のローブマンC先生でも

 良いって事じゃない!」

「ならマリーネとリーヴァは誰に付いて行きたいんだよ!」

「「謎のローブマンB先生?」」

「結局一緒じゃねぇか!!」



 しかしこの日は少々、事情が違った。

 謎のローブマンB先生は草原を走りぬけていた。

 当然アーガス達も、それを追っていった所ではあったが……。


「なんかこの草原、おかしくないか?」

「おかしい?アーガスの頭以外におかしい所あった?」

「俺はおかしくねぇよ!?つかこの草原、やけに変だろうが!

 なんか魔力を感じるんだけどよ…。」

「魔素溜まりとかじゃないの?魔物が湧く……。」

「それならある程度、決まった場所だけが魔力が強いだろう?

 だけどこの草原、全体的に魔力を感じるんだけどよ…。」

「気のせいじゃない?」

「いえ、リーヴァ。気のせいじゃないわ。

 草原全体の魔力がちょっと多すぎると思う……。」

「マリーネがそういうなら、そうなのかしら……。」

「てめぇ、俺に喧嘩売ってるのか!?」


 3人が揉めながらも、他の生徒達と

 謎のローブマンB先生を追い掛けていた時だった。


「わああああああああああ!?」

「きゃあああああああああ!!」


 突然、生徒の中から声が聞こえてきた。

 それも1箇所では無く、そこら中からだった。

 そして、それがアーガス達にも襲い掛かってきた。


「下だ!」

 アーガスの声に、マリーネとリーヴァも飛び上がると

 足元の草が、3人の足に向かって伸びてきた。

 3人共、ただの草とは思っては居ないが

 身体を捻って草を千切ろうとした。

 しかし草が千切れる事はなく、そのまま草が短くなり

 地面に押さえつけられてしまった。


「「「【(ヒート)】!」」」

 3人は自分達の身体に熱を帯び、再度身体を捻って千切ると

 草はボロボロになり、千切れていった。



 その間に謎のローブマンB先生との距離が開いてしまった事で

 再度追い掛けようとした時だった。

 今度は違う草が、足元に絡みついていた。



「【(ヒート)】じゃ駄目か!?」

「なら【(ファイア)】!?」

「それで火が広がったらまずいだろ!」

「でもこれ生草じゃないの!?」

「いや、【(ヒート)】で崩れるなら、魔法的な要素でしょ!」

「ならこれだろ!【乾燥(ドライ)】!」


 アーガスに絡まった草がみるみる乾燥して

 身体を捻るまでも無く、ボロボロに崩れ落ちた。


「でも【乾燥(ドライ)】って身体に纏う魔法じゃないでしょ!」

「制服のズボンに掛ければ纏えるだろ!」

「「そっか!【乾燥(ドライ)】!」」


 3人が制服に【乾燥(ドライ)】の魔法を掛け続けて

 絡んできた草が触れると、そのままボロボロになっていった。


 しかし他の生徒達から頭1つ抜け出すと

 今度は草では無く、蔦が襲い掛かってきた。


「「「【(ファイア)】!」」」

 今度は【(ファイア)】の火属性魔法を身体に纏って

 腕や足でぐ様に、蔦を払っていく。



「チッ、どこだ!?」

「わかんないよ!魔力も感じられないし…。」

「あの銀髪チビ(セッカ)!こんな所に罠かよ!?」

 そういうアーガスだけ、何故か2倍ほどの蔦が襲い掛かってきた。


「さ、アーガスが囮になっている間に行きましょ」

「そうね」

「待てよ!?なんで俺だけこんなに蔦が襲って来るんだよ!?

 糞銀髪チビ(セッカ)!!俺だけに襲い掛かるとか不公平だろうが!?」


 実際にはこの罠は確かにセッカの【魂の種(ソウル・シード)】に

 よるものではあったが、ただ種が置いてあるだけで

 種に振動を与えると、芽吹く条件設定がしてあっただけで

 一番近くに居る者を拘束するだけだった、と3人が知るのは

 アーガスが苦労して、3日目の野営地に付いた後。

 謎のローブマンB先生の口から語られた時だった。


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