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第10話 立ち上がる者


 上級学校 国軍科恒例の入学直後の長距離行軍。

 その4日目が開始された。

 この位になってくると、食料が尽きている生徒が続々と

 興亜パンと代用醤油スープに群がっているくらいだった。


 それも、途中で移動が厳しくなり

 食料を廃棄した生徒などが出てきている為だった。

 しかしスコップやテントなどは廃棄禁止である為に

 その分が、移動の際に重く圧し掛かってきていて

 既に身体はボロボロだった。


 それに対してアーガス達は流石に

 野営も毎週末、ハイネ教導官とマリアンヌ教導官に

 鍛えられてきた事もある上

 比較的早い時間帯で毎日行軍を終了している事から

 かなりの余裕があった。


 ただ川を渡ったり、トリッキーに足跡を追ったり

 断崖絶壁を登ったりとはしても、結局は長距離の行軍なのだ。

 それをアーガス達が多少の苦戦はしても踏破出来ない訳が無い。


 それがこれまで4軍の教導を受けて来た者として

 むしろ当然の事だ。

 それにアーガスは妙に悩んでいた。

「危ない!アーガス!!」

「え!?」


 考え事をしていたアーガスは行軍中についていっていた

 謎のローブマンA先生が避けた枝に顔からぶつかっていた。

 流石にすぐに立ち上がり、追いかけ直すが

 その姿を見て、マリーネもリーヴァも少しおかしいと思い始めていた。


 アーガス自体の考える姿をあまり見る事が無いからだ。

「あんた頭打っておかしくなった?」

「マリーネ、打つ前からアーガスはおかしいから。」

「うるせぇ、お前ら!馬鹿にし過ぎだろうが!!」

「「馬鹿だから仕方無い!」」

「うう…、いや、なんていうかさぁ……。」



 アーガスが悩んでいたのはこの行軍についてだった。

 4軍を卒業して来ている以上、自分達は出来て当たり前。

 しかし、他の生徒達はそういう生徒では無い。

 自分達が地獄のような教導を潜り抜けてきたと言うのはあるとしても

 他の生徒達は、必ずしも王侯貴族や豪商とは限らず

 普通の平民として下級学校に入り、優秀な成績を収め

 ここにやってきている。


 しかし下級学校は運動科目はあるものの

 4軍の教導程の物は無い。

 自分達は下級学校で、優秀な成績は収められなかったが

 4軍の教導と言う差がどうしてもある。


 そしてここ4日目が終わるまで、苦労と言う苦労があったかと言うと

 それ程のものはなかった。


 そして見られる光景は、食事も満足に作る時間も得られず

 ここに辿り着いて、毛布などに包まって寝る

 他の生徒達の姿だ。


 それを見て、自分達はこれで良いのかと

 アーガスなりに悩んでいた事が

 今日、枝に顔をぶつける結果になった事を

 マリーネとリーヴァに打ち明けていた。



「リーヴァ、アーガスがおかしくなった!?」

「おかしいわね…、アーガスってこういう人じゃ無かった筈よ!

 貴方何者!?アーガスの偽物ね!!」


「お前ら、揃いも揃って失礼だな!!」

「「なんだ、いつものアーガスだ。」」

「やっぱり失礼だな!?」



「まぁ、言いたい事が解らない訳では無いわ。」

「でも、野営地でも協力は禁止されているわよ?」

「でも4人までなら協力して良いんだろ?

 3人で協力するだけであれば何も問題は無いだろう?」

「「??」」


 アーガスが言いたいのはこういう事だった。

 別にこの行軍は妨害は禁止されている上

 道中は短時間の協力まで、野営地では協力が禁止されている。


 だがこれが一方的なものならば

 協力では無いのでは無いかという事だった。


「つまり一方的にやるって事?」

「そうだ。それなら問題にはならないんじゃないか?」

「そもそもそれをする必要性はあるの?」


「だってこれは受験でも何でも無いんだろう?

 なら問題は無いんじゃないか?

 それに道中はむしろ個人の問題だけど

 ここについたら別問題じゃねぇか?

 っていうか先生が居るんだから、聞けば良いんじゃねぇの?

 俺達でグダグダ話しているより

 正解を知ってる人に聞きゃ早いだろう?」









「なんだお前ら、遅いじゃないか。」

「なっ…なんでお前(セッカ)が居るんだよ!?」


 教員用の天幕を訪ねると、謎のローブマンA先生と共に

 フーカ校長とセッカが居た。


「チッ、こいつらの事だからもう少し早いと思ったのだが

 私の読み違いか…。」


「だから4日目終了時くらいだって言ったじゃない」

「ご馳走様です。」


 そういうと謎のローブマンA先生とフーカ校長は

 セッカから酒を受け取っていた。


「私は2日目終了時くらいにはせめて気がついて欲しかったのだがな…。」

「何の話だ?」


「アーガス、マリーネ、リーヴァ。4軍教導を潜り抜けてきた

 お前達にとって、国軍科の長距離行軍など出来て当然だ。

 それ以上の地獄を見て来たのだからな。

 だが、他の者達がこれから上級学校で学んで卒業する時に

 最も重要な事に気が付くのに対して

 お前らはとっくに気がついていて良い筈だ。

 アーガス、何故ここに来たのか簡潔に答えろ。」


「そ、そりゃなんて言うか………。

 なんかみんなボロボロだし、碌に飯も食えていないし……。」


「それがどうした?

 これは長距離行軍なんだぞ?

 軍に入れば、その程度の事珍しい話ではないぞ?」


「そりゃ軍に入った場合の話だよな?」

「そりゃそうだ。」

「ここはまだ軍じゃないよな…。」

「それをなんて言うか知っているか?」

「さぁ」

「悪く言えばお節介、良く言えば命より優先する物など何もないと言うのだ。」

「国家理念…。」


「まぁお前達が心配する必要性は無い。

 少なくとも野営地では疲れている者には

 解らない様、寝ている間に癒しの魔法を掛けている。

 食事については流石に長距離行軍の間は我慢させろ。

 何しろ新生シード王国は、世界でも有数の飽食の国とされている。

 興亜パンと代用醤油スープは4軍でも一度出したな?

 味はどうだった?」


「まぁ、食べられなくは無いけど旨いものじゃない…。」

「スープはちょっと…。海水飲んでるみたいで……。」

「お前達は知っているから、あれをもう一度食べたいとは思わないだろう。

 だが人は、食べる物が無ければそういったものでも食べるのだ。

 興亜パンと代用醤油スープと言うのは私の故郷の

 戦時中などの食べ物だ。

 もし戦争などが起これば、場合によっては興亜パンと代用醤油スープを

 食べざるを得ない、そういう事にならないように

 軍人は戦争をする為では無く、戦争を起こさせない為に居ると言う

 教導の1つなのだ。

 だがお前らはそういう事も勘案出来るだけの教導は

 既に受けている。

 その上でボロボロで帰ってきて、あの興亜パンと代用醤油スープで

 腹を満たし、体力の回復の為に早く寝る姿を見て

 お節介を焼きたくなった訳だ。」


「いや、なんていうかさ…。可哀想だとは思わなかった。

 ここまで走ってくるってのはそれぞれの能力の問題だし…。

 ちょっと断崖絶壁を登らせるのは無茶な気がしたけど

 野営地についたら、俺達だけこれで良いのかなってさ……。」


「それで良い。」


「は?」


「お前達は他の子供達と違って、4軍たる軍人候補生の中でも

 軍に即した教導を既に受けているのだ。

 余裕があって当たり前。

 そしてここに居る生徒は敵では無い。

 そもそも友軍なのだ、そう考えるのが当然だ。

 むしろそんな気も起きないようなら私自ら

 お前らをシバキ倒していたところだ。」


「はぁ…。」

「どうであれ、お前達は既に上級学校の一部の教導を

 既に終わらせているのだぞ?

 優位なのは当然だ。なら友軍に対して、気を揉むなど当然であろう。

 だが、その心配はこちらで対処する。

 とりあえず癒しの魔法を掛けるだけだ。

 【診断(ダイアグノウシス)】などで1人1人確認もしているし

 今現在走っている真っ最中の生徒にも最低1人は

 教師が隠れて付き添っている。

 だから今からは心配する必要性は無い。

 だが、心配をしない者は軍人足り得ないのだ。

 まぁ少々気付きが遅いが、及第点だな。

 お前らはここで離脱しろ、7日間やる意味は無い。」


「「「はぁ!?」」」

「4軍の教導を受けた者など、こんな長距離行軍など

 した所で結果は解り切っている。

 むしろお前達がこうしてここに来なければ

 ここでお前達の上級学校の生活は終わりだ。

 そして最後まで気がつかないものは

 このまま4軍に戻されるのだ。

 3年頑張って、国軍普通試験からやるのだよ。」


「面倒臭ぇやり方………。」

「そう言ってくれるな、別に私が考えた訳では無い。

 そもそも未成年だから安全の確保には全力を努めている。

 だが食事なり、疲れ果て寝る姿などを見て

 何も感じない、自分さえ良ければ良いと思うのは軍人失格だ。

 まぁ、お前らが一切そういう光景を見なかったのであれば

 考えるところだが、少なくともずっと外に居た

 アーガスがそう思わなかったら、お前ら全員4軍戻りだった所だ。

 何しろお前らはチームなのだからな。

 連帯責任くらいは簡単にくれてやるぞ?

 っと、長居は無用だな。

 まぁ気がついた褒美だ、今日は良いものに乗せてやる。」





 そしてセッカとアーガス、マリーネ、リーヴァの4人は

 夜空の下、国軍科の校舎まで向かっていたが……。


「あの…総合教導官…?」

「今は上級学校の名誉校長だ。どうした?」

「この乗り物は何でしょうか?」

「三輪魔導車、セッカチーネだ。」


「あの…魔導車なのに、空を飛ぶんですか?」

「何を言っている。これは陸も空も海も走れるんだぞ?

 量産型のセッカチーネは王都などでも売っているが

 これは私のフルカスタム(完全特注品)だ。

 非売品で、空をマッハ0.9で飛行可能だ」


「マッハ0.9ってなんだ?」

「時速1102キロよ…。」

「あのー、セッカ名誉校長?」

「なんだ?」

「何故これは三輪魔導車なのに、ペダルを漕ぐのでしょうか…。」

「雰囲気だ」

「はぁ…。」


 三輪自転車というよりは、三輪車に近いセッカチーネだが

 その速度は早く、夜中のうちに国軍科の校舎には辿り着いた。





 そして5日目の朝。

 3人が用意されていた個室で寝ていた時だった。

 朝6時。

 大部屋に行進曲「軍艦」が流れ出す。


 即座に3人が飛び起き、そのまま耳を塞いだ。

 そしてそのまま時間の経過を待った。

 最早、4軍で恒例となったこの行進曲と共に

 稀にセッカの歌声が流れる事から、全員がビビッていた。



 そして多分終わったであろうタイミングで耳を塞いでいた

 手をどかして起きるのが身に染み付いていた。


「今日も助かったか……。」

  『ま~もるもせむるもく~ろがねの~!う~かべるし~ろぞた~のみ~なる~』

「ぎゃあああああああああああああああ!?」

 流石に慣れてきたのか、気絶はしないが

 精神に多大なるダメージだけは負うのだった。


  『馬鹿者!油断大敵火が亡々(ぼうぼう)だ!』

  『名誉校長!?何をなさっているのですか!!』

  『快適な朝の目覚めに必要なモーニングソングだ!』

  『そんな訳無いでしょう!ブツン―』



「…………………最悪の寝覚めだ…。」

 だが最悪だったのは寝覚めだけではなかった。

 王都と同じ作りだった食堂では

 まだ学校が始まっていなくも稼動はしていた。

 そして朝食が終わると、元4軍で既に上級学校に付いている者は

 全員呼び出された。





「おはよう諸君!素晴らしい朝だな!」

お前(セッカ)の歌が無ければな!!」

「ははは、褒めても何も出ないぞ?」

「褒めてねぇよ!?」


「まぁその辺はどうでも良い。これより暇な君達には

 3日間の特別教導が与えられる!

 強くなるチャンスだ!

 ここにくじ引き用の箱を用意した!

 ここから好きなくじを1つだけ引きたまえ!

 そこには3日間だけお前達に1対1で教導してくれる

 特別な教導官の数字が書かれている!

 と言っても5人しか居ないのだから?

 5つしか入っていないがな!!

 と言う事でセプター!ポーラ!

 それからリーヴァ!マリーネ!アーガスの順で引くが良い!」


 それぞれがくじを引かされていき

 数字が決まると、それに合わせてローブ姿の5人が出てきた。


「さて、この3日間の教導についてのルールを教えてやる。

 1つ!この教導内容については誰に対しても口外禁止である!

 もし口外した場合、その場で退学となる!

 この5人同士であってもだ!!

 1つ!この教導を教えてくださる先生方についても口外禁止の上

 素性についての詮索の一切を禁止する!

 それでは自らが引いた番号の書かれたローブの先生方について

 3日間!みっちり様々な事を教えてもらえ!!」



 それはローブを被ってはいるが、異質な人々だった。

 何しろほぼ全員が2メートルを超える身の丈と思われ

 とかくローブがみっちりな位の巨体と推測出来た上

 そのローブの中からの目線だけで、既に恐怖を感じるほどだった。





「お前が1番か、ついてこい…。」

「あ、ああ。」

 くぐもった声でアーガスを誘導して言ったのは

 そんな2メートルの身の丈の人物達の中では

 比較的スラっとしていた。



「では暫く走るぞ?」

 そういってローブの人物は、一気に走り去った。


 アーガスが賢明に追い掛けるが、とにかく速かった。

 そして3時間程走った所で、やっと立ち止まった。




「この辺りで良いだろう。お前を特別教導するのは……この私だ。」


 そのローブがあっという間に萎み、中から出てきたのはセッカだった。


「くじ運がどうやら相当良い様だな?

 私自らが直接教導する地獄の1丁目2番地へようこそ!」


「え?お前に習うの?」

「不満か?お前の能力【立ち上がる者(ライザー)】を伸ばすには

 私の【魂の種(ソウル・シード)】は相性が良いからな…。」

「相性が良い?」


「アーガス、お前の能力たる【立ち上がる者(ライザー)】は

 私の能力たる【魂の種(ソウル・シード)】と同系統だ。

 しかも広義的に扱う事で、選択肢はさらに広がるだろう。

 私が選んだ4軍は大抵何かしらの能力がある。

 だが、お前はその中でも扱い方が非常に悪い。

 それは決してお前のせいではない。」


「じゃあ何が悪いんだよ…。」


「それを正しく使う為に同系統の能力者が教えていない事が

 悪かっただけだ。

 お前の能力【立ち上がる者(ライザー)】は無機物を立ち上がらせる操る能力だな?」

「あ…ああ……。」

「では私の【魂の種(ソウル・シード)】、どんな能力だか知っているな?」

「蔦生やしたりするあれだろ…?」


「平凡だな、見たままじゃないか…。

 まぁ能力について語るなど、手の内を見せるも同義だから

 仕方無いといえば、仕方無い。

 私の【魂の種(ソウル・シード)】は種を生み出す能力だ。

 この世界の天神様からいただいた能力だ。」


「種?」


「そうだ、種だ。まぁそこまでは良い。

 だが種と言えば、何を想像する?」


「種……種籾とか?」

「まぁそうだな。つまりこの種は土にこうポトリと落とす。

 そして【成長促進】をさせると、このように!」


「おおおおお!?」

「ウィスキーが生えてくる!」

「おかしい!色々とおかしい!!

 なんで種からウィスキーが生るんだよ!?」


「それだ」

「え?」

「お前は今さっき、自らの能力【立ち上がる者(ライザー)】は

 無機物を立ち上がらせる操る能力だな?、と問うた時に

 そうだと答えた。何故だ?

 お前のステータスではそう書いてあったか?

 まぁ私の推測だが、『ただ立ち上がらせる能力』としか

 多分書いてないと思うがどうだ?」


「え?あ、ああ……。」

「何故無機物しか立ち上がらせられないと思ったんだ?

 まぁ面倒だから答えよう。

 恐らくリーヴァやマリーネ辺りで試したのだろう?」


「まぁ…。」

「で、寝てもらいかけても立ち上がらなかったと。

 だから有機物が無理だと判断したな?

 さらに魔物辺りで試しただろう?」


「その通りだ。」

「ならこれで試せ。これはフォレストウルフの死体だ。

 これに掛けて操ってみろ。」


「いや、できねぇって言ってんだろうが!

 無機物にしか掛からなかったんだよ!」


「違うな。それは相手の魂の問題だ。

 魂がそのまま存在するものに能力をかけるのは

 魔法でもスキルでも無い能力としては非常に難易度が高くなる。

 それが空間を対象にするなら相手の意志は問わないが

 その身に宿す、などであれば基本的に相手の魂が

 どうしても抵抗する。

 つまり死体なら抵抗すべき魂が無いから掛かると言うのが

 私の見解だ。と言うかウダウダ言ってないでやれ!

 3日間などあっという間に過ぎる上

 他の4人も同じ様に能力を伸ばしてくるのだ。

 良いか?ここから3年間の間、軍部の教導を受ける事は無い。

 それで騎士にならねばならぬ。

 その上で、ここでお前の能力の可能性をここで見出せば

 3年間の間、それを伸ばす事に使える。

 4軍の教導で、殆どの上級学校の授業などとっくに終わっているのだ。

 お前らがすべきは、今の能力を伸ばす事。

 そして新たな可能性を見出す事、進化させる事だ。」


 アーガスは死体に対して向き合った。


「気合を入れろ!そして絶対に出来ると思え!

 広義とは【立ち上がる者(ライザー)】と言う能力そのものを

 幅広く、頭を柔らかく受け止めねば広義とならぬ!

 お前の狭い狭義の世界の殻を打ち破らねば

 その死体が起き上がる事は無い!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 【立ち上がる者(ライザー)】!!」


 魔物たる、フォレストウルフの死体に対し

 【立ち上がる者(ライザー)】を掛けたが、そのアーガスの顔は

 苦悶の表情を浮かべていた。



「当然だ!出来る事によって消費する魔力も増えれば

 初めてやる事など、大変であって当然だ!

 だから気合を入れろと言ったのであって

 叫べと言っているのでは無い!

 気をしっかりとフォレストウルフへと向けろ!

 フォレストウルフが動く姿を頭に浮かべろ!

 フォレストウルフは俺が動かすんだ!

 お前は俺に従えと念じろ!

 精神が半端では、能力は行使しきれない!

 お前はどちらかと言えば肉体を使う方だろうが

 【立ち上がる者(ライザー)】は精神的な強さを求める方だ!

 私と同系統だからな!見ていろ!【百重身(ドッペルゲンガー)】!!」


 その言葉に次々とセッカが増えていく。

「す…すげぇ…。」


「気をこちらに取られるな!このように私のスキルは種だと言うのに

 こんな風に分身が作り出せるという例としてやっただけだ!

 解るか!?ただの種だぞ!?どこのどいつが

 自分の分身体を作れるなどと思う!

 普通の考え方で収まるな!頭を柔軟にしろ!

 何故、お前の能力が【立ち上がる者(ライザー)】と呼ぶかを考えろ!

 立ち上がるんだろう!?ならそのフォレストウルフが立ち上がらない訳が無い!

 リーヴァやマリーネが立ち上がらなかったのは魂による阻害だ!

 相手が受け入れなかったからだろう!

 だがお前の魂が相手を凌駕すれば、恐らく立ち上がるだろう!

 だからそのフォレストウルフは間違いなく、確実に立ち上がる!

 それを今!ここで!為せ!」


 そのセッカの声がどう響いたかは解らない。

 だが、そこに死体であり動かない筈のフォレストウルフが

 多少ふらつきながらも、4本の足で立ち上がったのは

 紛れも無い、アーガスの能力によるものだった。




「ふむ、多少ぎこちないが起きたな。」

「うるせぇ!この状態の維持で一杯一杯だよ!?」

「言い返せるならまだ余裕がある証拠だ。

 これから3日間、地獄の1丁目3番地と4番地くらいは

 見られるくらいには鍛えてやろう。」


 そのセッカの顔には、久しぶりに笑みが浮かんでいた。


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