第1話 天神様から始まった、異世界軍人譚
「天神様から始まる、異世界転生軍人譚」に続くお話になります。
最終話から830年後、事件からは1000年後が舞台となります。
前作の250話、と言う位置付けではあるのですが
時間経過などの理由から、別作品扱いとしました。
ここから読まれる方は、出来ましたら前作からお読みいただけると
大体のノリと作風が解り、より一層楽しめるかもしれません。
異世界レヴ・アース。
剣と魔法が織り成すファンタジーな世界。
そんな世界に三度、大きな転換期があった。
世界大戦と4人の勇者達、第二次世界大戦と神殺し。
そして第三次世界大戦と、蔦の幼女。
これはその最後の転換期から1000年後の物語である。
新生シード王国 王都セッカイル。
王都の中にある、国営フーカ・ジーロ孤児院。
とある日の夜、5人の子供達が院長室に呼び出された。
「スバル、マリーネ、アーガス、リーヴァ、リルネット。
皆揃っているね?」
「一体こんな夜になんだって集められたんだ?」
「もう寝る時間ですよ?」
「まぁ、聞きなさい。今日5人には赤紙が届きました。」
「「「「「赤紙?」」」」」
「聞きなれないでしょうが、最後までお聞きなさい。
満5歳となった子供に、この新生シード王国から届くのが
赤紙、と言うものです。
この紙は、君達に対する人生の選択肢となります。」
「じんせいのせんたくし??」
「この赤紙が届いた者は、新生シード王国の4軍、
つまり未成年隊への入隊資格があると言うお達しです。」
「4軍って……国軍ですか!?」
「そうだよ。」
「国軍入りって…騎士になれるのか!?」
「待ちなさい、アーガス。話は最後まで聞きなさい。
この赤紙は強制では無い。
たった今、君達5人には2つの選択肢があります。
1つはこの赤紙を断わるという選択肢。
もう1つはこの赤紙を受け入れ、今すぐ4軍入りするかです。」
「いや、そんなもの断わる奴なんて居ないだろ!」
「えっ、今すぐなんですか…?」
「そうだよ、マリーネ。今判断しなければならない。
そして喜んでいるアーガス。
よく聞きなさい。4軍入りした後、辞めたいと思った場合でも
孤児院に戻る事は出来ません。そして成人と同時に3軍入りになります。」
「3軍?」
「衛兵隊です。」
「衛兵って街の入口守ってる人だよな?」
「そうですよ。基本4軍は3軍へそのまま昇格するのです。」
「え?じゃあ…騎士にはなれないのかよ。」
「2つ方法があります。1つは3軍となって、1年後の
国軍騎士試験で合格する事。3軍になった時点で10年間の間
ずっと挑戦する権利が与えられます。そしてもう1つ。
4軍に居る間にもう1度、赤紙を貰う事です。
こちらは2軍である教導隊、つまり騎士に直接なれます。」
「おお!騎士になれるんだ!!」
「但し4軍から2軍に上がる人は殆ど居ません。
1パーセントに満たない人にしか赤紙は配られませんよ。」
「1パーセント?」
「100人に1人も居ない、と言う事です。
あと4軍に入っても下級学校は行くのですよ?
それと4軍は上級学校にも無料で行けます。」
「上級学校?」
「それって王族や貴族とかが行くところですよね!?」
「下級学校でえーっと…『しゅせき』?とかにならないと
いけないところですよね?」
「そうですね。4軍入りしただけで、上級学校の国軍科に
無料でいけるようになります。但し…。」
「何かあるんですか…?」
「この赤紙は、貴方たちの人生の選択肢なのです。
途中で軍人になるのが嫌になった、では済まされません。
貴方達がもし、この赤紙を受けた場合
満25歳、つまり国軍騎士試験の受験資格を失うまでは
ずっと軍人のままになります。
さらに成人となる15歳までは、実戦なども一切無く
10年間、訓練のみとなります。
これがどういう事か解りますか?」
「………?」
5人とも、やはり5歳と言う事からかは解らないが
意図があまり掴めない様だった。
「25歳まで軍人。そこから他の職業を目指すとしても
最早手遅れでもあるのです。
商人になるのであれば、早いうちからお店に入らないといけない。
丁稚奉公などを経て、お店に入るのが一般的だからです。
冒険者になるにしても、10年は遅れる。
能力は満たされていたとしても、ランクを上げるのが遅れる訳です。
その頃には皆の身体の最盛期は既に過ぎている場合が殆どです。
それからは緩やかに身体が鈍る。
そんな中で冒険者が出来るかどうか、疑問ですね。
つまり貴方達が、生涯軍人として過ごす覚悟があるのかどうかと聞いている。
それがこの赤紙です。
そして受け取ったと同時に、貴方達はこのままこの孤児院を去り
4軍の施設から出る事は当面出来なくなります。」
「え?王都の中でも駄目なんですか!?」
「はい。4軍になった時点で貴方達は軍人候補者であり
軍人の方々と同列に扱われます。
貴方達が5歳だから、幼いから。
そんなものは通用しなくなります。
ですから軍人として恥ずかしくない行動が取れるまで
施設から一歩足りとも出られません。
もし勝手に抜け出せば、シード王国法で処罰対象となります。」
「処罰…、ってなんですか?」
「罰ですよ。例えば鞭叩きとかは確かないので…。
新生シード王国の処罰と言えば
1日で400キロ走るとかですかね。」
「「「「「400キロ!?」」」」」
「ちなみに2軍の方ならそうですね…8時間以内に
走られるそうですよ。早い方は5時間を切るそうです。」
「400キロを5時間……?」
「魔導車が物凄く走ったくらいじゃないかしら…。」
「マジかよ…。」
「良いですか?今から30分間。誰とも相談せず、この部屋から出ず。
この赤紙を持って決めてください。受ける方はそのまま持ち続け
断わる場合は自分の赤紙を破ってください。
30分後、赤紙の状態次第で決定します。」
「30分…。」
「これは国法で決まった時間です。変更は出来ません。
この部屋に5人居ても、話し合いは禁止です。」
そう言って、院長は大きな砂時計を逆さまにした。
「この砂が全て落ちきった時、それが30分です。」
この後、院長は口を開こうとした者を諌め
5人での話し合いを一切させなかった。
そして30分後、全員が赤紙をそのまま持っていた。
それに合わせて、院長室の部屋にノックが3回。
「どうぞ」
そして入ってきたのは、正式な新生シード王国の
軍服を着た人々だった。
「はじめまして、アーガスさんにリルネットさん、リーヴァさんに
スバルさんにマリーネさんだね。
僕は4軍の教導官、つまり君達の指導を行なうハイネ・ベルーガー少佐だ。」
「はじめまして、同じく4軍未成年隊の教導官。
マリアンヌ・フォン・デリーター少佐です。」
「では早速君達を4軍のある王城施設へと案内しよう。」
「院長、5人の荷物は暗部が回収しましたので。」
「ああ。」
5人は孤児院の前に停められていた魔導車に乗せられ
そのまま王城のある方へと進んでいった。
「これが魔導車の中…。」
「殆ど揺れない…。」
「魔導車にしては遅くないか?」
「ははっ、王都の中は速度制限があるんだよ。」
真夜中の移送。
しかし移送されてくるのは彼らだけではなかった。
そして王城に到着して驚いたのはそれだけではなかった。
「おい、あれ見ろよ!キャメロット・マルチハルだ!」
「しかも一番艦だ!エアマスター・ヘイルレザーだよ!」
戦略魔導航空戦艦 キャメロット・マルチハル 一番艦 「エアマスター・ヘイルレザー」。
かつてエアマスターと呼ばれたドルー・フォン・ヘイルレザー空軍大佐から名前をつけられた
新生シード王国の旗艦たる魔導飛空艇。
そこから次々と魔導車が飛び出すように落下し始めたと思えば
それぞれがゆっくりと空を飛び、徐々に降下してきた。
「今日、この日。新生シード王国の全ての街と村から
4軍入りを希望する君達と同じ子供達が集められるんだ。
年に1度のお祭みたいなものさ。
周りを見てごらん?」
5人が自分達が乗る魔導車の周囲を見ると
真夜中だと言うのに、声援は無くとも
新生シード王国の小さな国旗を振る大人たちが居た。
「何してるんだ?この人達……。」
「自覚なさい、貴方達は既にこの新生シード王国の軍人候補者なのです。
我々と同列に扱われるのです。
かつて第三次世界大戦と言う、この世界の危機において
活躍された我等が祖先たる蔦大隊。
それがあるからこそ、今の生活がある。
国民も、知っている者は知っているのです。
その礎とこれからなる貴方達に対して、歓迎の意を表しているのです。
これは国がやれと言ったものでは無いのです。
皆、自発的に貴方達に対して歓迎と敬意を表しているのですよ?」
そして魔導車が停車し、降りた場所は広場のような場所だった。
そこには新生シード王国の各街などから同じ様に集められた子供達が沢山居た。
「なんだこれ…どこにこんな場所が…。」
「ここに居るのは君達と同じように他の街の孤児院や
一般家庭などから集められた子供達だ。
そしてここは空間魔法で拡張された演習場、つまり君達が
学校に行く以外の間、訓練する場所だ。」
「学校に行く以外…?」
「そうだ。4軍は実戦が無いだけで扱いは軍人候補者だ。
つまり年給が出る。」
「「「「「年給?」」」」」
「お金の事だ。1年間で4軍だと1人金貨5枚が支給される。
つまり1ヵ月に銀貨で40枚、新月だけ20枚だな」
「え!?いくらなんでも多すぎませんか!?」
「そう思うなら多いのかな?マリアンヌ少佐。」
ハイネ少佐が問うと、マリアンヌ少佐は溜息をついた。
「子供だからと、正確に言わないのはどうかと思いますが?」
「そうか……。まぁ正直に言おう。軍人と言うのは
24時間働く訳だ。緊急出動もあったりする。
当然、休みの日は休みだけどな。」
「貴方達4軍も土曜と日曜以外は24時間。
突然呼び出される可能性があるのです。
本当にこの年給が多いかどうかは、これから解りますよ。」
「24時間…真夜中でも起こされるって事?」
「違います、自ら起きるのです。
貴方達、新生シード王国軍と言われてどういう
イメージがありますか?」
「そりゃあなぁ…。」
「魔導機や魔導凱に乗って戦ったり?」
「厄災級の魔物を倒したりとか…。」
「あのキャメロット・マルチハルに乗ったり?」
「まぁ、そう考えがちですね。
あれらに乗れるのは一軍だけです。
二軍以下には魔導機も、魔導凱も配備されていませんから。
それに国軍の仕事と言うのは非常に幅広いのです。
雪山で遭難した人の救助、夜盗の退治に街道の整備。
街の中の整備も国軍の仕事ですよ?」
「そういう小さいのじゃなくて大きな……。」
アーガスが喋ったと同時にマリアンヌ少佐が
腰の魔導銃を抜き、アーガスの額に当てていた。
「小さい?貴方は人の命をそんなもので
助ける助けないを決めるつもりですか?」
「やめておけ、マリアンヌ少佐。
まだ5歳の、教導すら始まっていない子供だぞ?」
「私も教導官ですから。今のうちに悪いところは
悪いと言うべきだと思うのですが?」
「やめとけっていったのに…ああ…。
腰抜かして漏らしてるじゃねぇか……。」
魔導銃は世界でも広く知られているもので
現代の銃とは違い、魔法が撃てる銃だ。
この時代の魔導銃は特に弾倉部分に
蓄魔石と言うものが入っていて、撃つ本人に魔力が無くとも
魔法が撃ち出せる形式のものが多かった。
但しキチンと弾倉が抜いてある事で
魔力を籠めても撃てない仕様であった為
それを見てもハイネ少佐はあまり慌ててはいなかった。
アーガスがお漏らしをした事以外は……。
そして魔導銃による事件なども多く、子供とは言え
魔導銃の怖さと言うのは国が大々的にレクチャーしていて
5歳くらいの子供なら、魔導銃がどういうものなのか。
魔法を撃ち出す銃である、という事くらい知っていた。
だからこそ、アーガスはそのままトリガーを軽く引かれれば
額を撃ち抜かれるとさえ思っていた。
「おい、ちょっとこいつに着替えをさせてくれ」
「はい」
すぐに周囲に居た別の軍人がそれに対応したが
その姿を見ていた4人の顔も青ざめていた。
新生シード王国軍と言えばどうしても
大きな事件、特に友好国の防衛などにも頻繁に出張り
きっちりと結果を残して戻ってくる。
子供にすればヒーロー的な立場に見える。
その実は比較的、目立たない仕事などもあるが
最優先とすべきは「命より優先するものなど無い」と言う
たった1つの言葉だった。
事件の大小、命の数の問題では無い。
マリアンヌ少佐からすれば、どれも重要な任務だ。
街道の整備、街の中の整備も怠れば
それで怪我人が、死人が出る事だってありえる。
それこそ2本の線路の先に轢かれそうな人が居て
どちらを優先するか、ではないからだ。
どちらかしか救えない、であれば大小で決めるが
そうでないなら、大小など考えるだけ無意味だと考えていた。
マリアンヌ少佐に限らず、ハイネ少佐も同じだ。
それが新生シード王国の理念だからだ。
ここには初代王であるカイル・フォン・シードが
セッカの想いを乗せ、後世にまで残してきたものがあった。
だからこそ、子供であろうと容赦しなかった。
それがこれから軍人足ろうと言うのだから。
「よし、アーガスも間に合ったようだし
全員揃ったようだな。」
「今年は172人ですか…、総合教導官も
かなりの人数を取ったのですね…。」
「まぁ、あの人が何を見て選んでいるかは
今だに解らんよ…。」
「しかし実績が物語っている以上は口出し出来ませんから」
「そうりゃそうだ。って来たな…。」
ハイネ少佐とマリアンヌ少佐が話している間に
前方の一部が競りあがり、朝礼台のようなものが出来上がった。
「お前達、あれが4軍含む全ての軍部の教導官だ。
しっかり名前と顔を覚えておけ。
あと決して失礼があってはならない。」
その台に登っていくのは非常に小さな若い女性だった。
いや、まだ幼子と言って良い体型だった。
髪は銀色、短いポニーテールを後ろに垂らし
正面を向けば………。
『ん?これでは届かないではないか!
みかん箱…違う!何か乗るものは無いのか!?』
台には書記台のようなものもあり、彼女は
その台に隠れてしまっていた。
『っていうかいつも用意しているだろうが!
私の身長でこの台があったら顔が出ないと解るだろ!
さっさっと乗るものをもってこい!!』
集められた子供達はクスクス笑っている者も居るが
軍人は誰一人笑っていない。
真面目な顔でそれを見ているのを見て
自分達も笑ってはいけないのだと察するものも居るが
まぁ、指をさして笑っている子供すら居た。
そしてそれを誰も注意する事はなかった。
『ん?いつものと台が違わないか?
まぁいい。』
そして台に乗り顔が一瞬見えたかと思うと
そのまま一気にズボン!と音がして、また見えなくなった。
『これダンボールじゃねぇか!
せめてガムテープをH型に貼って強度を増してから持ってこい!
てか木箱は無いのか!木箱!
いつもリンゴだの、タマネギだの、ジャガイモだのが入っている
食堂にあったやつだよ!
つーかもういいよ!お前、ここで失意体前屈になれ。
私がその上に乗るから。
え?失意体前屈を知らない?_| ̄|○←こういうのだよ!
え?左向きでも右向きでもどっちでも良いんだよ!』
「毎年思いますけど、これ毎回わざとやってますよね…。」
「総合教導官のお考えだ、私達が何か言う必要は無いだろう。」
『あーあー、テステス。ようこそ4軍入りを希望した
軍人候補生の諸君。』
やっと見えた顔は、正面から見ると
左眼が蒼眼、右眼が紅眼のオッドアイの少女だった。
『私が新生シード王国、1軍から4軍までの総合教導官。
セッカ、セッカ・フォン・エンデバー上級大将だ。
ようこそ、地獄の一丁目へ!』
その顔は若く、身の丈相応なのに
浮かべている笑みは、非常に怖いものがあった。
『さて、諸君。もう君達は既に軍人候補生であり
年給すら発生する、半ば軍人さんだ。
今笑っていたもの!全員この演習場を100周だ!!』
「あーあ、やっぱり始まった…。」
「あの、ハイネ少佐…、これは一体…。」
「決して失礼があってはならない。と言っただろう?
あの方は上級大将、つまり大元帥たる王様の次に偉い方だ。
それを見て笑うなど、と言う建前と共に
ここの厳しさを教える為の茶番だ。」
笑っていた子供は、それを聞いて襟を正す者も居れば
何言ってるんだ?と言った顔をしている者も居た。
『聞こえなかったか?笑っていた者は全員この演習場を100周だ。
教導官、すぐに走らせろ。』
「「「「「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」」」」」
そして一斉に無理矢理にでも走らされる。
だがこれが地獄の始まりだとは誰も思っていなかった。
『ああ、そうそう。全員が100周終わるまで
残った者はそのまま立っていて貰おう。
いわゆる連帯責任ってやつだ。』
その言葉に一気にざわめいた。
『今、文句言った奴も100周だ!』
次々と100周走らされる子供達が出てきた。
だがアーガス達は、顔が青ざめたままだった。
「こ…ここを100周ってどのくらいあるんですか…?」
「400キロだ。1周で4キロあるからな?
四角系だが、1辺で1キロある。まぁ普通に考えたら
3,4日掛かるんじゃないか?」
ハイネ少佐の答えはあくまで走ると言うより
歩いての計算だろう。
しかしアーガス達はそれを真面目に捉えた。
「つまり3、4日立ったままでいると?」
「お前達だけじゃない、俺達もだ。」
そしてこれが冗談では無いと、解ってきた。
走るのを嫌がっていても、走るように促され
何か棒のようなもので、皆叩かれてては
無理矢理にでも走らされていた。
「これが新生シード王国軍…?」
「何か思っていたのと違う……。」
『ほぅ。思っていたのと違う?
君達は食っちゃ寝して、のびのびゆったりと軍人に
なれるとでも思っていたのか?
随分と面の皮が厚い連中が揃ったか??
そうだな…4軍教導官のハイネ少佐!』
「はっ!」
『この400キロ走は何日目に開始する予定の修練だ?』
「3日目であります!」
「えっ!?」
「嘘!?」
『嘘?君達は4軍教導官であるハイネ少佐が嘘を言っていると。
本気で思っているのか?
たかだか3日程早まっただけで、君達5歳児が行なう
修練そのものなのだよ。
言っておくが、2軍ならさらに重りをつけて走るのだ。
おい、重りを持って来い。一番重いやつだ。』
そしてセッカは重りをつけて走り出した。
『はっ、身の丈も私と変わらぬお前達が
泣きながら叩くのを辞めるように懇願している中、私は両手両脚に
合計1トンの重りをつけて、悠々と走っている訳だ。
何人か同じ重りをつけて走れ。
そして新生シード王国の軍人の力を見せつけてやれ』
「すげぇ……。」
「あれ本当に重いんですか?」
「ああ、すっごい重いぞ?1つ250キロあるからな?」
セッカに限らず、暇を持て余していた教導官が
重りをつけて走ると、遜色ない速度で走り出した。
それどころか、余裕もあってか
踊るように、スキップしている教導官すら居た。
何周か走ると、それぞれがまた元の位置に戻っていった。
『さて、特別に今なら赤紙を受けた事を取り消してやる。
元の生活に戻りたいと思う者は、担当の教導官に申し出ろ。
だが明日になって辞めたい、と言うのはもう出来ない。
軍人足るもの、判断に時間をかけるのはありえない。
時間は今から10分以内だ!』
その言葉と同時に、大きな砂時計が引っくり返された。
「さて。今の話を聞いたな?
スバル、マリーネ、アーガス、リーヴァ、リルネット。
もう君達はお客さんでは無い、だから問おう。
辞めるなら今だ、本当に途中で辞めたいと思っても
途中退場は認められない。
最低でもこれから10年間、ここで君達は
これらの修練を行い、軍人になるんだ。
どうするかね?」
ハイネ少佐が確認をしている中、次々と周囲では
連れて来た教導官に、戻りたいと願っていた。
それを見て5人は考え始めた。
そして砂時計の全ての砂が落ちきった時。
172人居た4軍の半分以上が戻る事を決断した。
残ったのはたった47名。
そこに5人も残っていた。
「本当に良かったのか?」
「ええ、ここに残って修練すればああなれるんだよな?」
「まぁ言葉遣いは後々だな。なれるんですか?だ。
そしてその答えは『君次第』だ。」
「俺次第……。」
そして脱落、戻る事を決断した125名が送り返され
47名がそのまま修練所に立ち尽くしていた。
『ふむ、47名か。意外と残ったものだな。
2次試験もやるか?
え?これ以上やると明日に支障が出る?
なら明日休みにしてやれよ…。
そもそもなんでこんな真夜中に
集めてやってるんだって話だよな?
え?人知れずひっそり?
っていうか国民は知ってるだろうが!
皆小さな国旗持って出迎えちゃってるじゃねぇか!
そこにひっそりの要素があるんだよ!
つー、訳で私の独断で明日は休みだ!
全員、明日は教導官に施設案内してもらえ!
もう夜中の2時じゃねぇか…。
普段なら朝6時起きだが…、全員朝10時でいいぞ?
つかもう眠いから寝るわ、あとよろしく……。』
セッカは言いたい事だけ言って、去っていった。
47人の子供達はそれをポカンと眺めているしか出来なかった。
「さて、宿舎に案内するぞ?」
「あの、ハイネさん…。あの人そんなに偉い方なんですか?」
「ああ、上級大将ってのは上に大元帥と元帥しか居ないからな。
つまり王様と、それを継ぐ後継者。
それ以外上には居ないって事だ。軍部ではほぼ最上位だぞ?」
「なんか私達と同じくらいに見えるんだけど…。」
「まぁ、身長で言えば同じくらいだが
あの方は先程の走りを見せられただろう?
大の大人に混じっても、あの速度で走るんだ。
君達と見た目は近くとも、その能力は別物だ。
人を見た目で判断すると良くないというのを体現している訳だ。」
「ハイネ少佐、1つ忘れているだろう?」
「ああ。もう軍部に入ってるから良いか…。
あの方は初代カイル王の第一婦人で、蔦大隊の創始者だからな?」
「「「「「えええええええええええええええ!?」」」」」
「あの小ささで!?」
「あれで第一婦人!?」
「結構口が悪かったよね!?」
「っていうか何年前の話ですか!?」
『そこのお前ら!全部丸聞こえだぞ!?
5人とも連帯責任で、ここを1周してこい!!』
「「「「「えええええええええええええええ!?」」」」」
「諦めろ。あの方は悪口に敏感だし、1周とか絶対本気だからな?」
かくして5人は諦め、1周走ったがやはり5歳児に
4キロ走る、と言うのは非常に厳しく
中々の時間が掛かったのは言うまでもなかった。
かつての戦いから1000年もの時を経て。
今また、新たな軍人譚が紡がれる。
その中心に立つのが彼ら5人だとは、この時は誰も予想していなかった。
天神様から始まった、異世界の軍人譚。
始まります………。
2021/07/17:修正
泣いて叩くのを懇願している中、私は両手両脚に
↓
泣きながら叩くのを辞めるように懇願している中、私は両手両脚に