未来へと進む一歩
「さっきの大きな音……アクス達、大丈夫かしら」
敵地にて、離れ離れになった仲間を思いながら、サリアは戦場へと進む。
「サリアさん!」
「その声は……ヘルガン!?」
行方をくらましていた仲間の声に、サリアは喜々として振り返る。
「って…!どうしたのその姿!?」
透けているヘルガンの身体に、サリアは心配の声を上げる。
「あはは……まぁ、色々あって死んじゃって」
ヘルガンは、ここで一度殺されていた。
普通ならあの世に行くべき魂が、執念でこの世に留まっていたのだ。
「すぐ蘇生したいところだけど……ヘルガンの肉体がここにないと難しいわね」
「何故です?」
「肉体がまだ存在する場合、蘇生した途端魂が肉体に戻っていくの。もし蘇生された直後、敵がいたら危険でしょ」
「危険でも構いません!早くラックルを助けたいんです!」
ヘルガンと共にいたラックルは、敵に捕らわれ、ヘルガンの肉体の横で眠らされていた。
サリアは悩んでいた。
何故ならば、一度死んだ人間は二度と蘇る事は出来ない。それがこの世界のルールだからだ。
安全を確認出来ない以上、サリアはヘルガンの頼みを呑むことは出来なかった。
「お願いしますサリアさん!!」
ヘルガンが必死に頭を下げる。
「…………分かったわ、蘇生する…」
「ありがとうございます!」
「アクスかリーナにこの事を伝えるから、二人のどっちかが助けに行くまで無理しちゃ駄目よ」
「恩に着ます」
サリアは杖をヘルガンに向け、蘇生魔法を唱えた。
『リバスター!!』
ヘルガンの魂が空高く飛び、天井をすり抜けていった。
そうして魂がたどり着いた先に、ヘルガンの肉体があった。
死んだ肉体に魂が戻り、全身に再び血が巡り始める。
そうしてヘルガンは、目を覚ました。
「戻った…」
自身の身体をペタペタ触り、幽霊でないことに安堵する。
すぐさま、側に捕まっていたラックルを救い出した。
「ラックル!」
ラックルは酷く弱っていた。
「急いでサリアさんの元に戻らないと」
弱ったラックルを回復してもらおうと、再び下へ降りようとした。
しかし、ヘルガンの前にある男が立ちふさがる。
「もう一回殺されに来たのか?ヘルガン」
そいつはヘルガンの父、ノルガン。
ヘルガンからしてみれば母の敵の様なもので、その顔を見るやいなや怒りをあらわにする。
「何度も殺されてなるものか!逆に僕が殺してやる!!」
短剣を抜き、ノルガンに向ける。
その動きに迷いは無く、ヘルガンの覚悟が垣間見える。
「学習しないやつだ……それだから死ぬんだよ」
ノルガンの目は息子に向ける様なものではなく、ゴミでも見るかのようだった。
「うるさい!!今度は負けない!!」
己を鼓舞し、ノルガンに向かって突き進む。
凄まじい気迫だが、動きはただよ一般人。当たるわけがなかった。
短剣の突きをかわされ、雷の槍に胸を貫かれた。
致命傷だった。ヘルガンは血を大量に吐き、地面に倒れた。
「無様な……血の繋がった息子とは思えんな」
ヘルガンの身体に唾を吐き捨て、その場を後にしようとする。
「まだ……だ……」
動けるはずのないヘルガンが、その場に立ち上がった。
「お前だけは……絶対に許さない…!」
たとえ死にかけようとその怒りは衰えず、その怒りをノルガンに向け続ける。
しかしノルガンは意にも介さず、立ち去ろうとする。
「お前に見殺しにされた……母さんのためにも!そして…巻き込んでしまった仲間のためにも!絶対に!」
「うるさいやつだ」
ノルガンが振り返ると同時に、雷の矢を放つ。
ヘルガンに避ける程の体力は無く、確実な死が迫った。
「きゅー!!」
ラックルがめいいっぱい叫びながら、ヘルガンを庇う様に前に飛び出る。
雷の矢はラックルに突き刺さり、ヘルガンを助けた。
「ラックル!!!」
ヘルガンが叫ぶ。
地面に倒れたラックルを抱きかかえ、必死に声を掛ける。
「ラックル!!しっかりしろ!!」
自身の怪我など気にせず、ラックルを気に掛ける。
そんなヘルガンの姿に、ラックルは優しく微笑んだ。
それを最後に、ラックルは光の粒となった。
命が尽きたと、ヘルガンは思った。
しかし、ラックルは尽きてはいなかった。
光となったラックルは、ヘルガンを包み込んだ。
眩い光の中で、ヘルガンは気を失う。
ヘルガンが目を覚ます。
「ここは!?」
辺り一面、真っ白な世界。
「まさか、ここがあの世?」
「違うよ」
誰も居ないはずの空間で、誰かの声が聞こえてくる。
「誰!?」
「僕だよ、ラックルだよ」
ヘルガンの前に、死んだはずのラックルが浮かび上がる。
「ラックルが喋ってる!?っていうか、生きてる!?」
「驚くよね。ここはね、僕の世界。だからある程度、いろんな事ができるんだ」
「そうなんだ……」
ヘルガンは驚きの連続で、頭の中ではすべてを理解しきれていなかった。
「でもね、残念ながら僕は死んでしまった。それは覆せない事実だよ」
「……ラックル!ごめん…!」
「謝らないで。そもそも、君を守るのが僕の使命だったんだ」
「使命?どうして僕なんかを?」
「約束したんだ、君のお母さんと」
「母さんと?」
「うん、そうだよ」
ラックルは語り出した。
「君のお母さんには世話になってね、その恩返しをしたいと、僕から申し出たんだ」
かつてラックルが魔物に襲われ死にかけていたところ、ヘルガンの母親によって助けられていた。
「それで君のお母さんは僕に頼んだ。君を助けてくれってね」
「母さん……」
ヘルガンは今にも泣きそうだった。
「っつ!」
ラックルの身体が、薄く透け始めた。
「どうやら……時間のようだね」
「そんな!どうにもならないの!?」
「僕は人間とは違う生き物だ、人間と同じ様に簡単に蘇る訳じゃない。仕方のないことなんだ」
「僕は君に助けられたのに……僕は君に何も返せてない…」
「そう思い詰めないで。それに、僕の魂は消えない。君と共に生き続ける。だから、前に進んで」
その言葉を最後に、ラックルは消滅した。
そしてヘルガンは再び、光の中で気を失った。
ヘルガンは再び目を覚ますと、ラックルの最後を思い出した。
辛く、涙が出そうになるが、ラックルの最後の言葉が、ヘルガンに前を向かせた。
元の世界に戻ってきた途端、ノルガンが興味を示した。
「何があった?さっきの光はなんだ?それに傷も治っている……」
不思議なことに、ヘルガンの傷は完治していた。
その事を問い詰めるも、ヘルガンはそれを無視し、自分の胸に手を当てた。
「ラックル……確かに伝わったよ、君の言葉」
ヘルガンは短剣を手に、ノルガンに再び向かっていく。
「馬鹿が、勝てる訳がないだろう!」
雷の矢をヘルガンに放つ。
今までは対応の出来なかったそれを、ヘルガンはかわした。
「かわした?いや…今の動きは……」
「うおぉぉぉ!!」
勢いづいたヘルガンが、ノルガンに迫る。
だが突然、その場で動きを止め、左から回り込む様に動いた。
その直後、ノルガンの前に天井から雷が落ちた。
「やはりそうか!未来が見えているな!」
あの世界でラックルは、消える間際にヘルガンに力を託した。
未来を見る力。それがヘルガンのものとなった。
「もらったぁ!!」
再び短剣で、ノルガンの心臓を狙う。
「甘いわ!」
雷の刃が、一瞬でヘルガンの右手を切り落とした。
右手と共に短剣が地面に落ちる。
「それも見えてるんだよ!」
痛みを我慢し、左手をノルガンに伸ばす。
伸ばした左手は、ノルガンの眼球に突き刺さった。
「うぐぁぁぁ!!」
その一撃でノルガンは倒れ、地面でのたうち回っていた。
ヘルガンは落ちた短剣を拾い、ノルガンの側に寄る。
「これで……終わりだ!」
「ぐっ……!」
短剣を胸に振り下ろし、決着を着ける…はずだった。
ヘルガンの頭に、嫌な未来が流れた。
「なんだ……?こいつは…」
それが判断を鈍らせた。
「来い!EX-ゼロ!!」
ノルガンの叫びの後に、大きな地響きが起きた。
ヘルガンが急いでとどめを刺そうと、再び短剣を振り下ろす。
しかし地響きはさらに大きくなり、ヘルガンは地面を転がった。
その隙にノルガンは逃げ出した。
「待て!!」
後を追ったその時、地響きの正体がヘルガンの前に現れた。
三メートル程の巨体の化け物。
顔には六つの目があり、口には細かく鋭い牙が生え並ぶ。
体には厚い毛皮や鱗があり、さまざまな動物を混ぜたようなその化け物に、ヘルガンは吐き気を催すほどの恐怖を感じた。
「こいつ……さっきの予知のやつ!」
その化け物にノルガンが近づき、高らかに叫んだ。
「EX-ゼロ!俺を取り込め!!」
命令を受け、化け物はノルガンをその身体に取り込んだ。
ノルガンを取り込んだ化け物の姿に、変化が現れる。
身体が変形し、おぞましいものだったそいつは、大猿へと変化した。
化け物は、流暢に語り出した。
しかしその声は、ノルガンのものだった。
「これが俺の最高傑作《完成形キメラ》。姿形を俺の思うがままに操り、意のままに操る事が出来る」
そう言うやいなや、大猿の背中から翼が生える。
「よくも私に傷のを付けたな!殺してやるぞ!」
大きく羽ばたき、空中から拳を振り下ろす。
「まずい!」
ヘルガンは全速力でそこから離れた。
攻撃はかわせたが、地面が破壊された。
大穴が空き、アクス達が居る地下へとヘルガン達は落ちていく。
その光景はアクス達三人の目にもしっかり映っていた。
「あれは、ヘルガン!」
「リーナ!」
「分かってる!」
アクスとリーナが同時に走り出し、上へと跳び上がる。
アクスはヘルガンは助け出し、リーナはノルガンに攻撃を仕掛ける。
「駄目です!かわされる!」
ヘルガンは再び未来を見た。
そしてその言葉の通り、リーナの攻撃はかわされる。
「速っ…!」
三人の頭上をとったノルガンは、三人を地面に叩きつける。
「みんな、大丈夫!?」
サリアが駆けつけ、三人に回復魔法を掛ける。
「痛ってぇ……あいつ、強いな」
「すみません皆さん。僕がはやくとどめを刺しておけば……」
「上で何があったのか知らないけど、ぐちぐち言ってる暇があったらさっさと動きなさい。ほら、来るわよ!」
ノルガンは地上へと降り、アクス達を睨む。
「魔王様に歯向かう愚か者ども、我が国に来て生きて帰れると思うな。全員、我のモルモットにしてやる!」
再び姿を変え、獅子となって四人に襲い掛かった。




