謎に包まれる
クラーケンを倒し、海を進む三人。
猛スピードで進む船は、夜間も進み続けた。
何度も敵の襲撃に遭いながらも、次の日の昼には、ようやく西の大陸が見えた。
「見えた!ようやく着いたわね」
「やっと船酔いから解放される……」
三人は大陸に上陸し、辺りを見渡した。
「特に何かあるわけではないわね」
何かあるかと警戒していたが、目の前に草原が広がっているだけだった。
「いや、あそこにデカイ壁があるわ」
リーナが指差した先には、大きな壁がうっすらと見えていた。
「じゃあ、あそこに向かいましょうか」
大きな壁を目指して進む三人。
敵地という事もあり慎重に進んでいたが、一向に敵は現れなかった。
「妙ね……敵の気配が全然無い」
「アクスは何か感じる?」
「何も無いな……あの壁の奥からは感じるけど」
「壁の向こうで待ち伏せしてるのかしら」
「ヘルガンはあの中でよく無事にいられるな」
「………今更だけど、ヘルガンが私達より先に着いてるのはおかしくないかしら?」
サリアの言葉に、リーナが頷く。
「ええ、そうね。ヘルガンの方が早く港を出たとはいえ、船の速さはこっちの方が圧倒的に上。あそこに居るのが不自然だわ」
アクス達は自慢の怪力や、能力を使って、短い時間でこの大陸に着いた。
一方でヘルガンは、三人に比べると非力で、大した能力も無い。
「となると…ラックルの未来視でどうにかしたのか?」
「未来が見えるだけで、私達より早く着くって?おかしな話ね」
リーナはあざ笑うが、否定はしない。
その可能性があることを、理解しているからだ。
「ま、本人に聞くのが一番ね」
三人は進み続け、壁までたどり着いた。
真っ白な大きい壁を、三人が見上げる。
「よし、入りましょう。アクス」
「ああ、背中に乗れ」
アクスがサリアを背負い、壁の上まで跳び上がる。
リーナがそれに続いて跳び上がる。
壁の上へと着いた三人は、壁の中の風景に息を呑む。
四角い建物が並んで立ち、街中を機械が走り回る様子が見える。
住人達も異様で、腕や足に機械が仕組まれた服を身に着けている。
「変わった所だな…」
「どっかで見た事あるわね。確か、月で…」
「でも、月よりもすごいわ」
アクスとリーナの二人は、街の様子に興味を覚え、隅々《すみずみ》まで観察し始めた。
「まさか…ここまで発展してるとはね……」
「もしも、魔王軍が居たらやばいわね」
「そこの通りは人が居ないわ。そこから降りましょ」
サリアは安全に降りれそうな場所を見つけ、二人に伝える。
壁の中へ降りた三人は、念のために建物に隠れた。
アクスとリーナは、再びヘルガンの気配を探る。
「ヘルガンの気配は?」
「ん……下だ」
唯一の手がかりである、ヘルガンの気配は、この国の地下にあった。
「じゃあまずは、地下への道を探さないとね」
地下への道を求めて、三人は広い国を回り始めた。
地下深くにて、ある男がモニター越しにアクス達の様子を眺めている。
国中に仕掛けられた監視用のカメラから、男は見ていた。
「ようやく来たか。あいつを泳がせたかいがあったというものだ」
男は側に女性を侍らせ、グラスに入ったワインを飲み干す。
「入れ」
部屋の外に待たせていた兵士を呼び出すと、モニターに映っている三人に指を指した。
「この三人を地下へと案内してやれ」
「はっ!」
兵士は命令を聞いて、すぐさま部屋を出ていった。
「さてと、実験開始だな」
男は側に居た女性を連れて、部屋から出ていった。
地上では、三人が地下への道を探していた。
この国は広く、入り組んでいる。
探すのは、困難であった。
「腹減った…」
「我慢しろ!」
アクスは空腹で、今にも倒れそうだった。
「仕方ないわね…一回休憩にしましょう」
リーナはその言葉を無視し、壁に張り付いた状態で、周りの様子を見ていた。
「二人共、こっち」
二人はリーナの後ろから、リーナの視線の先を覗き込んだ。
そこには兵士が二人。
通信機を使って、何やら話している。
「了解。直ちに地下へ向かう」
その言葉を、三人は聞き逃さなかった。
「聞いたわね?」
「ええ、あの兵士を追いましょう」
兵士に気づかれぬよう後を追い、三人はある建物の前に着いた。
兵士達が中へ入っていく様子を見て、三人は確信した。
「ここね。少ししてから私達も行きましょう」
「罠の可能性もあるから慎重に行くわよ」
「その前に何か食ってからでも…」
「はいこれ」
サリアは懐からサンドイッチを取り出し、アクスの口に突っ込んだ。
「それでいいでしょ?」
「足りねぇ」
「いいから早く行きましょ」
リーナがアクスを引っ張り、無理矢理地下へと進んで行った。
地下への道は階段となっていて、ずいぶんと狭い道を歩き続ける。
しばらく歩き続けると、少し開けた場所へと出た。
真っ白な空間に、小さな扉があった。
「さっきのやつらはこの扉の先か?」
アクスが先導して、扉を開こうとする。
扉の中央にある取ってを掴み、引っ張る。
しかしその扉は、横に引いても縦に引いても、開く気配は無かった。
「開かねぇ……ぶっ壊して進むか」
「駄目よ。気づかれちゃうわよ」
敵に気づかれる事を懸念するも、その考えをあざ笑うかのように、突如扉が開いた。
「とっくにバレてるってことね」
三人は警戒をより一層強め、扉の奥へと進んで行く。
中はさらに一層広く、下を覗けば、広大な研究所が見える。
人が入れるくらいのガラスの筒がずらりと並び、中には緑の液体が入っている。
アクス達は近くで見ようと、下へ飛び降りた。
間近で見たガラスの中には、思わず目を逸らす物があった。
人の腕。さらには、足や頭まで。
男女問わず、ガラスの中に詰められている。
「嫌な場所だな……」
アクスも目を逸すが、逸した先の光景に冷や汗が吹き出た。
「ヘルガン!ラックル!」
そこらの肉塊のと同じ様にガラスに入れられた、ヘルガンとラックルの姿があった。
ガラスを叩いて反応を待つが、目を覚まさない。
「二人とも手伝ってくれ。これをぶっ壊すぞ!」
アクスは拳を握り、ガラスに殴りかかる。
放った拳は空振った。
アクスの体が、ふわりと浮き上がったからだ。
それは二人も同じで、体が宙に浮いていた。
「なっ!?」
「なによこれ!」
直後に起こる、視界の混乱。
アクス達の目には、世界が歪んだかの様に見えた。
「くそっ……サリア…!」
薄れゆく意識の中、サリアに手を伸ばすが、その手は届かなかった。
視界が歪んだまま、どこかへと落ちた感触を味わった。
徐々に元に戻っていく視界には、綺麗な青空が見えた。
地下にいたはずのアクスは、その光景に違和感を感じた。
「どうなってんだ…」
自分の顔を叩き、意識をはっきりとさせた。
その目で再び、周りを見た。
目に写ったのは、丸い窓越しに見える太陽の輝き。
さらには、真っ青な海。
地下では見る事が出来ない景色だった。
「地下に居たはずなのに、なんで地上に出てんだ……」
アクスが居る場所は、線路を走る汽車の中だった。
近くには何の気配も無く、走っている汽車に違和感を覚えた。
『不思議に思うかね?』
誰かの声が響く。
だいぶ年を取った男の様な声だった。
「誰だ!」
『ようこそ、俺の国へ。来ると思っていたぞ、ヘルガンの奴を追ってな』
「誰かって聞いてんだろ!」
アクスは何度も叫んだ。
しかし向こう側から、直接答えは返って来ない。
『君たちには俺の実験に付き合ってもらう。俺の国へ攻めてきた罰だ』
その言葉を最後に、話は終わった。
「やっかいな事になりましたね、アクスさん」
「無事だったかジベル」
「そりゃあ、いっつも貴方にくっついてますしね」
「サリアとリーナも無事だといいんだが……」
『アクス!聞こえる?』
アクスの脳内に、サリアの声が伝わる。
「無事なのか!?」
『ええ、無事よ。アクスも大丈夫そうね』
「なんとかな。ただ、状況がまったく分からない」
『まずはリーナと合流しましょ。気配は辿れるわよね?』
「ああ…すぐにやってみる」
目を閉じ、リーナの気配を探り始める。
「居た!」
『それじゃあすぐに合流しましょ。私も位置は把握してるから』
「わかった。俺もすぐ…」
不意に、妙な気配を感じた。
『どうしたの?』
「敵だ!上からくるぞ!」
アクスの言葉の後に、至る場所に敵が降ってきた。
街に何十体もの敵が降り注ぎ、地面に激突していく。
アクスが乗る汽車の上にも現れ、屋根を突き破って中へと入って来た。
それはゆっくりと顔を上げ、大きな口を開いた。
目や鼻が見当たらず、顔そのものが口となっていた。
身に纏っていた服は突然破れ、腕から剣が生えてきた。
そいつはアクスを見ると、一目散に飛びかかった。
荒い声を上げながら、腕の剣で喉を狙った。
敵の放った剣は、喉の前を横切る。
攻撃をやり過ごし、化け物の腕を剣ごとへし折った。
痛みで悲鳴を上げる化け物に、強烈な蹴りをくらわせた。
壁に打ち付けられた化け物は、今度は怒りを込めて叫んだ。
「思ったよりしぶといな……」
アクスは腕を向け、拳を握り締める。
化け物の周りを氷が囲み、大きな箱となって化け物を閉じ込めた。
アクスは再び、手を強く握り締める。
その瞬間箱の中で、氷の針が化け物を突き刺した。
化け物の悲痛な叫びを聞き、アクスは氷を溶かした。
溶けた氷と共に流れる赤い血。
化け物の体には、無数の穴が空いていた。
アクスは死骸に近づき、その化け物の体を注意深く観察し始めた。
「こいつが例の実験とやらか?」
「そうみたいですね。それにしても気持ち悪い魔物ですね」
観察を終えたアクスは、汽車の上に登った。
海の反対側には街があった。
アクスは一刻も早く仲間と合流するため、汽車から街まで跳び移った。
汽車から街までは遠いが、アクスは一回の跳躍で無事に着いた。
しかし街に入ったと同時に、耳を塞ぎたくなるほどの音が街中に鳴り響く。
それを合図に、地面から敵が現れる。
白い装甲が全身を覆う、機械生命体であった。
機械である敵は、アクスにも探知出来ず、アクスの動きが遅れた。
戸惑って、その場に立ち尽くした。
その隙に、アクスを視界に捉えた機械達が、一斉にミサイルを撃つ。
アクスは上に跳んで、ミサイルを避けた。
しかし、上に跳んだアクスを、建物の屋上から敵が狙う。
音も無い攻撃が、アクスの肩を貫いた。
空中で態勢を崩されたアクスは、地面に身体を強く打ち付けられた。
地面に落ちて、動きの鈍ったアクスを、再びミサイルが襲う。
何十発ものミサイルが撃ち込まれ、炎と煙が上がる。
延々と続く攻撃の最中、煙の中からアクスが飛び出した。
飛んでくるミサイルを躱し、一つずつ機械を潰していった。
それでもなお、ミサイルの数は減らない。
アクスは再び、上に跳ぶ様に追い込まれた。
上に跳んだアクスを狙い、敵が再びどこからか狙いを付ける。
敵は建物から攻撃を放ち、アクスの太腿を撃ち抜いた。
「くそっ!」
「五十メートル先。白い建物の真ん中辺り!!」
唐突に、ヘルガンの声が敵の位置を知らせた。
声に気づいたアクスは、即座に言われた場所に目を向ける。
そして、建物全体を飲み込む程の冷気を放った。
建物は一瞬で氷つき、アクスによって砕かれた。
さらに、下にいる敵に対しても同じ様に凍らせ、一気に数を減らした。
無事に着地したアクスは、辺りを見渡しながら叫んだ。
「無事だったかヘルガン!どこにいるんだ?」
仲間の無事に喜ぶも束の間、アクスの目の前に現れたヘルガンが衝撃を与えた。
「なっ!?ヘルガン……お前!」
「すみませんアクスさん。ヘマしてしまいました」
宙に浮き、全身が淡い光に包まれたヘルガン。
体も透けて、まさしく幽霊そのものだった。
「どうしたんだ!?」
アクスがその体に触ろうと手を伸ばす。
伸ばした手がヘルガンの体に触れようとした時、アクスの手はヘルガンの体を通り抜けた。
「まさかお前……」
「はい。………死んでしまいました」
「っつ……!」
アクサは思わず、ヘルガンから目を背ける。
しかし、敵がそれをずっと眺めている訳でもない。
再びミサイルが、アクスを狙う。
「消えろ!!」
恐ろしい怒号と共に、大量の冷気を発した。
飛んでいたミサイルは空中で凍り、動きが止まった。
ミサイルを撃っていたロボット達も、冷気にやられ、完全に停止した。
周りに敵がいない事を確認し、アクスはヘルガンから詳しい話を聞き始めた。
「話す事が多すぎて、長くなると思いますが…」
「手短に頼む」
「では始めに、ここに来てから聞いた男の声。あれは………僕の……父です…」
口調に悲しみを感じさせるヘルガンに、アクスはどう言葉を返すか迷った。
「それは……その……残念だったな…」
ヘルガンを首を横に振る。
「別に、いずれ落ちぶれると思っていたので。魔王軍に入っているとは思いませんでしたが」
「魔王軍。もしかして、そいつも幹部か?」
「はい。誇らしげに語ってましたよ」
「そうか……急いで二人とも合流しなくちゃな…」
幹部と聞いてから、アクスの態度が変わった。
これまで魔王軍の強敵達と戦ってきたアクスは、その強さを重々《じゅうじゅう》理解していたからだ。
「あいつは科学者で、機械や生物学に精通しています。僕とラックルの身体も、その研究に利用するつもりです」
ヘルガンは自分の拳を握り締め、心の奥底に溜めていた言葉を吐き出す。
「あいつを殺すために……どうか、力を貸してください」
強い意志を持った言葉に、アクスはゆっくりと頷いた。
「……分かった。なら急ぐぞ」
上へと跳び上がったアクスは、宙に氷の土台を作った。
そこから二人の気配を感じる場所まで、跳んで行った。
久しぶりの投稿です。すみません!
次回はなるべく早く投稿しようと思うので、よろしくお願いします。




