町を巡る
神礼祭当日。
アクスはヘルガンと共に、町へ出かけた。
ヘルガンとの約束である、メイド喫茶へ行くためだ。
町の中は、祭りで大きく賑わっている。
普段よりも多い人の数が、それだけこの祭りを楽しみに待っていた人が多いという事だ。
「着きましたよ、メイド喫茶」
派手すぎず地味すぎず、いたって普通な店に、“メイド喫茶”と書かれた大きな看板が掛けられていた。
「以外と普通だな。てっきり、ヘルガンがいつも行く店みたいに派手な店だと思った」
「大人の店とは違いますから」
ヘルガンは一足先に、店へと入っていった。
後からアクスも続いて入ると、早速メイドが出迎えた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
メイドの対応に戸惑うアクス。
「おいヘルガン、メイドってこんなんだっけ?」
「そうですよ!これでいいんです!」
城で見たメイドとの違いに、アクスは驚いていた。
その横でヘルガンは、楽しみにしていたメイド喫茶にすっかり浮かれていた。
「どうぞご主人様、こちらの席へどうぞ!」
「はっ、はい!」
二人は奥の席へと案内され、メニューを眺めた。
「意外と繁盛してるんだな」
「意外とは失礼な」
「いやだってよ、見ろよこれ」
アクスは、料理の値段を見せた。
「オムライスが二千ライラだってよ、冒険者ギルドの登録料と同じだぞ」
普段の外食の時よりも、倍以上の値段だった。
「その横を見てください、“メイドによるサービス付き”って書いてますよ。値段に見合ったサービスしてくれるんじゃないですか?」
サービスの内容が気になり、ヘルガンは近くに居たメイドを呼んだ。
「ご注文ですか、ご主人様」
「あの、このサービスってのはどういう?」
「そ・れ・は…ヒミツです!」
「聞きましたかアクスさん!これはテンションが上がりますね!」
「俺はサービスよりも質と量だな。とりあえず、オムライス一つとソフトクリーム一つ」
「あっ、僕もオムライスで!」
「かしこまりした!」
メイドが下がった後、二人は食事が来るまでのあいだ、店の中を興味深く見ていた。
「おおっ!見てくださいよ、メイドさんにあ〜んしてもらってますよ!」
「別にどうでもいいだろ」
「良くないです!なんでアクスさんは女性に関心が無いんですか!」
「別に興味無いわけじゃないぞ」
「へ〜そうなんですか?ちなみに、どんな所に興味持ってます?」
「強さ」
「だと思いましたよ!」
「お待たせしました〜!」
二人のメイドが、料理を持ってやってきた。
その二人のメイドを、アクスはやけに見つめていた。
「どうしたんですかアクスさん?ようやく女性への恋に気づいたんですか?」
「いや違う。お前らリーナとユリだよな?なんでこんな所に」
「え!?」
メイドの二人とヘルガンは、声を揃えて驚いた。
「何を言ってるんですかアクスさん!あの二人がメイドさんな訳がないでしょ!」
ヘルガンがそれを否定する。
それはそうだ。そもそも見た目がまるで違う。
「ち…違いますよ〜!私はユリじゃなくて、マユリって言いま〜す!」
否定するメイドの顔には汗が垂れており、それを見たもう一人のメイドが、続けて否定する。
「も〜う!ご主人様ったら冗談がお好きですね!」
「いや、なにしてんだよリーナ」
「リーナじゃないです、マリーって言います!きらりん☆」
とてもリーナとは思えない演技をする。
しかしアクスはそれを認めず、しつこく問いかける。
「もうっ!しつこいですよご主人様!そんな悪いご主人様には、おしおきしちゃうぞ!」
アクスの唇に指を押し付け、顔を近づける。
大胆な行動に、他の二人が顔を赤くする。
しかし当のアクスには効果が無かった。
それどころか、近づいていきたメイドの匂いを嗅ぎだした。
「やっぱり、この甘い匂いはリーナだ」
「ぎゃあああああ!!」
思いっきり、グーでアクスを殴った。
「痛ってぇなぁ…普通殴るか?」
「正体バラされた上に、急に匂い嗅がれたら殴るわよ!!」
アクスの言った通り、メイドの二人はリーナとユリだった。
先ほどまで姿は変装によるもので、正体がバレた今は、変装を解いていた。
「それにしても、ユリさんはともかく、なんでリーナさんもメイド喫茶で働いているんですか?」
「私がお願いしたんです」
「へー、ユリに対しては優しいんだな」
「うっさいわね!また殴られたいの!?」
「それはやだ。それよりオムライス食べたい」
「それじゃあ、私達がサービスしますね!」
ユリはケチャップを持ち、ヘルガンのオムライスにハートマークを描いた。
「もえもえキュン!」
おまけに、ヘルガンに向かって手でハートを作った。
「おおっ…これが、メイドサービス!」
「どうぞ召し上がれ!…先輩も、アクスさんのオムライスにやってください」
「はあっ!?あんたがやってよ!」
「駄目ですよ、リーナさんもメイドとしてサービスしないと」
ケチャップを押し付けられたが、リーナはまったく動けなかった。
何度もアクスを見ては、顔が赤くなって目を背けてしまう。
リーナを応援するユリと、笑いを堪えながら見守るヘルガン。
二人はリーナに期待していたが、アクスが場をぶち壊す。
「オムライス冷めちゃうから、ケチャップ貸して」
あまりにもひどい態度に、リーナがキレた。
「あんたねぇ!!ぶっ殺すわよ!?」
「なんで怒るんだよ、ケチャップかけるの嫌じゃないのかよ!」
「そこが問題じゃあないのよ!」
激しく怒るリーナをなんとか三人で止め、食事を続けた。
「お味はいかがですか?ご主人様」
ヘルガンは非常においしく食べていた。
しかしアクスは、口に入れては、何度も首を捻っていた。
「おいしいけど、やっぱり二千ライラは高いな」
「メイドさんのサービス付きですからね」
「ケチャップかけただけだろ」
「充分でしょ」
すっかりメイドにメロメロにされたヘルガンは、何を言ってもメイドを肯定した。
さすがのアクスも呆れて、それ以上は何も言わず、食事を続けた。
「それにしても意外ね、あんたがこういう店来るなんて」
「ヘルガンに誘われたんだよ」
「私はてっきり、サリアと一緒にいるかと思ってたわ」
「ああ、夕方から一緒に祭りに行く約束してるぞ」
「え?」
冗談のつもりだったのか、発言したリーナ本人が驚いていた。
「ええっ!?デートするんですか!」
「デート?」
アクスはいまいち理解してないようだった。
かき氷を食べていたジベルが、アクスに説明した。
「デートってあれですよ、男女が二人きりで遊びに行くやつですよ」
「ああ…なるほど」
あまりにも無関心なアクスに、ヘルガンは悔しさのあまり不貞腐れて、机に顔を伏せて泣き始めた。
「どうしてアクスさんはそんなにモテるんでしょうね……」
「四六時中、頭ピンクの奴と比べたらそりゃモテるでしょ」
リーナの辛辣な言葉に、ヘルガンが顔を上げる。
「へぇ……つまり、リーナさんはアクスさんがかっこいいと、多少なり思ってるってことですか」
「はあっ!?なっ…なんでそんな話になるのよ!」
すっかりメイドだということを忘れ、拳を振り上げる。
しかしヘルガンはそれを無視し、アクスに話を振る。
「アクスさんはどうです?リーナさんのこと好きですか?」
アクスがその問いに答えようとすると、リーナがヘルガンを殴り飛ばした。
「いい加減にしろやてめぇ!ぶっ殺してやる!!」
殺意をあらわに、ヘルガンに今にも飛びかかろうとした。
「ダメです!!先輩、やめて!!」
ユリが背後から動きを抑えるが、今にでも拘束から抜けそうだった。
「ヘルガン、店出るぞ!」
アクスがヘルガンを背負い、すばやく会計を済ませて店を出た。
店を出た直後、リーナが後を追って出てきた。
「二度と来んなカス!!」
町中に伝わるほどの大声で叫んだ。
アクスはこれ以上リーナを怒らせないために、大急ぎでリーナの視界から消えていった。
しばらくして、ヘルガンが目を覚ました。
「う〜ん……ここは…?」
「町のベンチ。お前なぁ…リーナ怒らせたらヤバイの知ってるだろ」
「いや〜…でも、あの反応を見たら、いろいろ気になりません?」
「………?いつも通りのリーナだったろ」
「………アクスさんのそういうところ、たまに腹たちますよ」
「そうなのか……ごめん…」
当のアクスは、本当に訳がわからず、ヘルガンの言葉に心を痛めた。
「じょ……冗談ですよ!」
へこんだアクスを見て、慌ててごまかした。
「あっ…俺、そろそろサリアとの約束の時間だから行かなきゃ」
「ああ、そうですか…じゃあ僕もこれで…」
ベンチから立ち上がった瞬間、激しい頭痛がヘルガンを襲った。
「うっ!……これは」
「大丈夫か!?また、未来を見たのか?」
「えっと……まぁそんなとこです。でも気にしないでください、大した事じゃないので!」
「そうか?それならいいけど、何かあったら教えろよ」
問題無いと判断し、アクスはサリアとの待ち合わせ場所へと向かっていった。
ヘルガンは、アクスを笑顔で送り出した後に、再びベンチに座りこんだ。
体が縮こまり、握りしめた手から汗がにじみ出る。
その様子を見たラックルが、ヘルガンの懐から顔を出す。
「きゅ〜……」
「……大丈夫だよ、ラックル。ただ…少しだけ付き合ってもらっていいかな?」
ヘルガンの顔は白く、生気が無い。しかし、目にはただならぬ意志が見えた。
その頃、町から離れた森の中で、暗き影が町へと迫っていた。
大量の魔物。しかも魔物達は、強力な武具を身に着けている。
町の近くまで来た魔物達は、数を分けて、同時に襲いかかろうと企んでいた。
しかし、突然の炎がそれを阻む。
森に火が燃え移り、多くの魔物が焼け死んだ。
生き残った魔物達は、森を出た。
森を出た先には、ヘルガンが待ち伏せしていた。
のこのこと出てきた魔物の急所を、短剣で的確に突く。
ヘルガンに気が付いた魔物達が、一斉に襲いかかった。
「ラックル!」
「きゅい!」
ラックル能力で、ヘルガンは未来を見る。
それで敵の攻撃をかわし、一体ずつ倒していった。
しかし、ヘルガンは弱い。
始めの奇襲は上手くいき、未来視による戦闘も悪くなかった。
しかし本人の強さが、あまりにも敵のレベルに追いついていなかった。
とうとう傷を負い、その傷による一瞬の遅れで、魔物の攻撃をもろにくらった。
鋭い槍が、脇腹を抉った。
痛みで、その場に膝を突く。
立ち上がる事も出来ないヘルガンを見て、魔物達が気色悪く笑う。
ヘルガンは途切れゆく視界の中で、先の未来を見た。
何を見たのか、口角を上げて笑い、その場に寝そべった。
その態度に腹を立て、魔物がとどめを刺そうとした。
その槍が届く前に、魔物が吹き飛んでいった。
ヘルガンが見た未来は、アクスの到来だった。
「ヘルガン、生きてるよな!?少し待ってろ!」
「ははは……すみません…」
アクスは魔物を次々と仕留め、数を減らしていく。
雑魚はすべて片付けたが、残っていた魔物達が少々厄介だった。
アクスの攻撃を受けても倒れず、武器を巧みに扱い、アクスに手傷を負わせた。
「意外とやるな……そうだ!せっかくだからアレをやってみるか」
「今やるんですか?実戦で試すのは初めてですよ?」
ジベルはアクスのアレとやらを知っているようだが、それを使うのには不安があった。
「いざって時に使えないよりいいだろ。やるぞ!」
アクスは魔物から距離を取り、目を閉じた。
深呼吸を繰り返し行い、体の中の魔力を高めていく。
何かをしようとしたのだが、突然アクスの左手が崩れ落ちた。
雪の様に溶け、傷口からは、少し遅れて血が出た。
「駄目か…!まだ無理か」
「アクスさん!来ますよ!!」
すぐ目の前にまで、魔物が迫っていた。
アクスは冷静に、その場から飛び退き、冷気をばらまいた。
魔物が冷気に包まれたのを見て、アクスは右手を握り締めた。
魔物の体内に入った冷気が、アクスによって氷の刃となって、魔物の体内から突き破って出てきた。
絶命したのを確認して、残った魔物達に対しても、同じ技でまとめて退治した。
「大丈夫か!?」
回復魔法で傷は完治し、ヘルガンは元気を取り戻した。
「いや〜……助けてもらってありがとうございます。ところで、あの手は…」
溶け落ちたアクスの左手は、本物の雪の様に溶けて、水になっていた。
「あれはもう使い物にならないから、後でサリアに新しく創ってもらうよ」
「すみません。僕がもっと強ければ……」
「魔物が来るってわかってたなら、教えれば俺がやるのに」
「せっかくのデートを邪魔するわけにはいかないでしょ」
「…………本当にそれが理由か?」
納得のいかないアクスは、ヘルガンに圧をかける。
しかしヘルガンは、なんの裏も感じさせない態度で答える。
「やだなぁ、僕なりの気遣いですよ。本当にそれだけですって。それよりも、早く行った方がいいんじゃないですか?」
「いや、家まで送っていくよ」
「大丈夫ですって。もう魔物もいませんから」
アクスは納得がいかないようだったが、約束の時間も迫っていたので、先に戻る事にした。
ヘルガンは家に帰るでもなく、その場に留まっていた。
倒した魔物達の武具を見ていたのだ。
武具には、一様に模様があり、ヘルガンはそれが気になっていた。
「やっぱり………。母さん、僕は……」
お久しぶりです。
次回はラブコメの予定です。
アクスはいつになったら恋心に気づくんでしょうね。
次回もよろしくお願いします。




