精霊の国
どうしてこうなった。
外で弁当を食べようかと思って外に出てみたら。
ユリが誰も居ない虚空に向かって話しかけていた。
「うんうんそれでね、先輩って強いの!だから、貴女の願いも叶えてくれるかも!」
………どうしよう、そっとしておくべきなのかしら。いやでも、誰かに見られたら余計に人が寄り付かなくなるし…
「ちょっと…ユリ?」
「あっ!先輩、ちょうどいい所に!この妖精さんがですね、助けてもらいたいそうです!」
「妖精……?何も居ないけど」
「えっ、先輩見えないんですか!」
ユリの話では妖精とやらが居るらしいけど…やっぱり何も見えないわね。いや、でも何か気配は感じる…
「えっと、なになに?姿が見えないのは心が純粋じゃないから?ですって、先輩!」
「喧嘩売ってんの?」
「違いますよ!妖精さんが言ってるんです!」
「だったらその妖精とやら、隠れてないで姿を見せなさいよ!」
私が怒鳴ると、ユリはまた妖精とやらと話し始めた。
「見せる為には私達を精霊の国に連れていく必要があるようです」
「ふ〜ん…わかった、連れて行って」
承諾すると、急に視界がぐるぐると回り始めた。
「っつ…!何よこれ!」
「うへ〜体が回る〜」
徐々に聞こえてくる声も薄れ、意識が完全に消えた。
身体の異変が収まると、そこは花が咲き誇るほこらの中だった。
ほこらの中でも花が咲いているのは、天窓から太陽の光だった。
「ようこそ、精霊の国へ」
声の方へ向き直ると、羽の生えた小人の女が飛んでいた。
「誰?」
「この子ですよ!この子が、さっきまで私が話して妖精さんです!」
「そうです。私は妖精のラワーです、よろしくお願いいたします」
そう言うとラワーは、ほこらの扉を開けた。
「着いてきてください、詳しい話は主からお聞きいただきたいのです」
主…精霊の国と言っていたし、主は精霊かしら。
考えていても仕方ない、付いていく事にした。
ほこらを出た先も花だらけで、その上を妖精達が飛び交っている。
周りに居る妖精達と目を合わせると、そそくさとどこかへ行った。人見知りなのだろう。
妖精に付いて歩いていくと、玉座の様な物が見えてきた。
そしてそこには、一人の女性が座っていた。
ピンク色の髪に、宝石の様な美しい瞳。さらには羽まで生えている。
その異質さから、どうやら人ではないらしい。
「フランシス様、人間の女性を二人連れてきました」
「ご苦労様。はじめましてリーナさん、ユリさん、私は花の精霊フランシスと申します」
「どうして私達の名前を?」
「精霊は特別な力を持っています、心を読む事は容易い事です」
「なるほど、さすがは精霊。しかし、そんな精霊が私達に一体何の用があるのかしら」
「単刀直入に言います、今我が国は魔王軍に襲われています。どうかお助けいただきたいのです」
「ええっ!魔王軍に!?」
「はい…それも、幹部の一人が攻めてきています」
魔王軍の幹部…聞いた話によると、国一つ滅ぼす事も出来るとか。
「あなた、強いんでしょう?どうしてわざわざ私達を頼るの?」
「私は精霊の中では新参者ゆえ、まだ未熟。情けないですが、魔王軍の幹部には敵わないのです」
彼女の発言的に、他にも精霊が居るのね。
「リーナさんの考えている通り、精霊は他にもいますが、精霊は基本的にその場を動く事は出来ないのです」
「そこで、人間である私達に頼もうって事ね」
しかしどうするか、この精霊と私の力は多分同じくらいだ。その精霊が倒せないとなると、私じゃあ勝てないのでは…
「やりましょうよ先輩!!困ってる方がいるのに黙ってる訳にはいきませんよ!」
……こいつはまた能天気な。
だが、魔王軍幹部…そいつを討ち取れば、私も強くなれるかしら。
リスクは大きいが、この願いを聞いてみるべきかもしれない。
「いいわ、ただし貴女達にも戦いは手伝ってもらうわよ」
「もちろんです、ご協力感謝致します」
そうと決まれば早速行くか、まずは敵の情報から…
「そうと決まれば突撃!!妖精の皆さん、付いてきてください!!」
勝手に先走るユリを殴って黙らせた。
「じゃあ敵の情報を教えてもらえる?」
「敵は氷の魔女、ブルーフと呼ばれていました。聞き覚えはありますか?」
「……聞いた事はあるわね、国一つを一晩で氷漬けにしたとか」
氷が相手か、確かにこの精霊様には不利な相手ね。
勝てない理由が分かったわ。
「そしてブルーフの周りには、二体の魔物が付いています。そちらの二体は力を見せてなく、どういった能力なのかも分からないままです」
「なるほど分かったわ。それじゃあ私は、そのブルーフってのを狙うわ」
「随分と自信があるのですね」
「私の得意分野は炎よ、氷なんか敵じゃ無いわ」
「……わかりました。しかし、慢心はしないように……」
慢心するつもりは無い、敵が格上である以上全力でやってやる。
「ブルーフはここから北に居るはずです、氷の建物が目印になるでしょう」
氷の魔女らしく、氷で建物を作っているのか。
「さて…ユリ、起きなさい」
「ふぇ?あっ先輩、ひどいですよ殴るなんて!」
「悪かったわね。それよりも、私は幹部を狙いに行くから、あんたは妖精達と一緒に行動してなさい」
「それ、危なくないですか!?」
「無理だと思ったら帰ってくるから、そっちも気を付けなさい、敵に殺されないようにね」
というわけだ、気を締めて行こう。
気配を消し、なるべく音も出さない様にすばやく北へと進む。
道を変えながら、とにかく北へと向かっていく。
なるべくならブルーフだけと戦う為に、接敵は避けたい所だ。
初めての戦いだ、油断はしない!
なんの苦もなく、目的の場所まで着いた。
氷で出来た巨大な城…間違い無いわね。
しかし中に気配は感じない。消しているのか?
考えていても仕方ない、中へと進もう。
中へ入ると、大きな空間にいくつもの氷像が並べられており、その奥には上へと続く階段があった。
ご丁寧にシャンデリアや家具も氷で作られてある。
しかしこの氷像…妖精とやらにそっくりね。
私がそれに触れようとした瞬間、うるさい高笑いが城内に響いた。
「そこの君!困るね、僕のコレクションに触らないでくれたまえ!」
階段から一人の男が降りてくる。
派手な服に派手な武器、趣味の悪い奴ね。
だがこの男、気配が無かった…相当強い。こいつがブルーフとやらの部下かしら。
「誰よあんた」
「んん?君……美しい…!」
「は?」
「その髪、紅い瞳、美しい…だが残念な事に、私の芸術ではその色彩を再現出来ない」
「芸術…もしかしてこの氷像達は…」
「僕が殺した者達を氷を削って再現したんだ!どうかな?」
「悪趣味」
「そうかい…それは残念」
がっかりした素振りを見せると、一瞬でこちらへと飛んで来た。
派手に装飾されたナイフを右手に、私を切り裂こうと振りかぶってきた。
頭を狙ってきたナイフを紙一重でかわし、私の目の前をナイフが通った。
「ひょおぅ!!」
奇妙な掛け声と共に、ナイフを振り回す。
言動はムカつくが実力は本物だ、動きに隙が無い。
だからといって黙って受けている私じゃない、ナイフを受け止めた。
「貰った!」
奴の腹に一撃くらわせようとしたその時、奴が懐に手を入れた。
「もう一本追加だ」
懐からもう一本のナイフを取り出し、私の頬を切り裂いた。
「悪いね、僕は二刀流なんだ」
「ふん、それがなによ」
「一刀でも苦戦してたのに二刀に勝てる訳ないだろ?」
「誰が苦戦してたって?もう一度言ってみろや!」
ここまで言われたらもう黙ってられない、こっちも本気を出す。
足の一点だけに力を溜め、地面を蹴って一気に詰め寄る。
懐に入った、そのまま足を振り上げる。
「早っ!」
奴は防ごうと、咄嗟に腕を交差した。
だが既に遅い、私の本気の蹴りは奴の腕ごと顎を粉砕した。
奴の身体は大きく吹き飛んだ。
「口ほどにもないわね」
私は勝利を確信した、しかし奴は立ち上がった。
顎を砕かれた為か何も喋らず、こちらを睨んでくる。
「まだやるつもり?」
私の問いかけに応じる様に、向こうの方からこちらへ突進してきた。
「望むところ!」
奴の動き合わせて、私も動いた。
真正面から来る奴の顔に、気合いを込めた拳を振りかざした。
見事に拳は当たった。しかし、奴は倒れなかった、それどころか私の腹に何かを刺した。
それは奴の腕の骨だった。
腕から突き破って出てきた腕の骨だった。
不意を突かれた、まずい!
完全に隙を突かれ、奴はもう一本の腕で私の心臓を貫こうとした。
骨が胸を貫いた。奴はそう思ったのか、笑みを浮かべた。
しかし骨が刺さる前に、私は手で心臓を守った。
なんとか奴の攻撃は防げた、一気にとどめをさす!
身体から強風を起こし、奴の身体を吹き飛ばした。
奴が大きく体制を崩したところを、膝を狙って蹴りを放った。
膝を着いた奴の顔を蹴り上げ、宙に浮かんだところへ、力を込めた連撃を叩き込む。
『ショットバースト!』
炎をまとった足で放った無数の蹴りは、奴の全身を焼いた。
黒焦げになった奴は地面に倒れ、動かなくなった。
「ふぅ……勝てた」
これが殺し合い…何でもありって事か。正直甘く見てたな。
だがまだ終わっていない、早く次の戦いに…と思ったが、お腹空いたな。弁当を持って来ていてよかった。
「はぁ…はぁ…!」
先輩の後を追いかけ始めてどれぐらいの時間が経ったのだろう、お腹が空いてきた。
「大丈夫ですか?」
「お腹空いたよ〜!妖精さん、何か無い?」
「この辺の食物は氷の魔女のせいで駄目になってしまったので、食べれる物は何も無いです」
「そんなぁ〜…じゃあ雑草食べる」
「えっ?」
雑草おいしい。
それにしても先輩はどこまで行ったんだろう、こんな時に敵と遭遇したら……
そんな事を考えていたら、動物の唸り声が聞こえてきた。
「……なに今の」
声の聞こえた場所へ向かうと、巨大な獣がそこに居た。
白い毛並みに、鋭い牙に爪。
四足歩行で歩くその獣は、獅子の姿をした魔物のようだった。
「に…にげないと…!」
声を抑えながら、ゆっくりと後ずさる。
音は出さずにいたはずだが、魔物はにこっちに気が付いたのか、いきなり吠えた。
そして次の瞬間、こっちに向かって走り出した。
「逃げて!!」
妖精さんの言葉で、私は狭い森の中へ逃げ込む。
しかしあの魔物は、木々を薙ぎ倒しながら進んで来る。
「どうしようどうしよう!!このままじゃ追いつかれる!」
恐怖で足が震えながらも、必死に策を考え始めた。
しかしあの魔物は、私が策を講じるより前に仕掛けてきた。
魔物の咆哮が衝撃波となり、私の背中に突き刺さる様に当たった。
突然の痛みに声も出ず、地面を激しく転がった。
再び泣き出しそうになるも、ぐっと堪えた。
逃げようとすると、魔物が左手に噛み付いた。
痛みで叫びながらも、必死に魔法の詠唱をした。
「ぐうぅぅ!『マカルカル!』」
魔物に噛まれた左手から、炎の魔法を放った。
火球が魔物の口の長門で炸裂し、魔物は大ダメージを受けた。
左手を火傷していたが構ってられない。獣に向かって歩き、魔法を放った。
『マカルカル!マカルカル!マカルカル!』
何度も何度も火を浴びせ、魔物を追い詰めた。
しかし魔物は起き上がり、火だるまの状態で飛びかかってきた。
なんとかそれを紙一重でかわし、再度魔法を放つ。
『マカルカル!ビランラ!』
片手には火、もう片方の手には風の魔法を。
火と風が合わさり、強大な炎となって魔物を燃やし尽くした。
「はぁ!はぁっ!勝った…!」
「ユリさん!早く怪我の治療をしないと!」
「へ…?……そうだった。でも不思議、あんまり痛くないや…」
「それ大丈夫ですか?死にそうなんじゃないですか?」
妖精さんが急いで傷を癒やしてくれたおかげで、大事には至らなかった。
「よし!この勢いで先輩の所まで行くぞー!!」
「あらあら、ひどいわねぇ…私のペットを殺すなんて」
「え?」
知らない声に振り向くと、私の前に二メートルはある魔物が立っていた。
全身が氷で出来ており、その冷たい手で私の顔に触れた。
体を動かそうにも、氷が私の体を蝕み、視界が真っ黒になった。
ユリの危機に、リーナはどう動くか?
精霊達はどうするのか?
番外編も残り僅か、どうか最後までよろしくお願いいたします。




