炎の傷
すべてを燃やしつくさんと、燃え広がる紅き炎。
瞳の中にはそれだけが映っていた。
「リーナ」
名前を呼ばれて振り返る。
「…返してくれリーナ。私から奪ったものを」
人の形を成した炎が、リーナに手を伸ばす。
「うわぁぁぁ!!」
ベッドの上からリーナが跳ね起きた。
大きな叫び声に、側に居たアクスも思わず椅子から飛び退った。
「大丈夫か!?」
リーナはアクスの言葉に気づかず、自身の頭をぐしゃぐしゃに掻きむしった。
「痛っ!」
腕から肉の切れる音が鳴り、リーナがたまらず押さえる。
「バカ!まだ完治してないんだぞ!」
回復魔法ですぐさま治し、リーナを横にさせようとした。
しかしリーナは、アクスの手を払い除け、ベッドから飛び出した。
「………悪いけど、これ以上ここには居られない」
「何でだ」
「何でもなにも……あんたの怪我、私がやったんでしょ?」
アクスの両腕には、びっしりと包帯が巻かれていた。
「ああ、これは別にお前のせいじゃ…」
「嘘言わないで!自分がしたってことぐらいわかるわよ!」
するとその場で、リーナは泣き始めた。
「どうして責めないの…全部私が悪いのに。怒ってよ…恨んでよ……!」
「?……とにかくベッドに戻れ、な?」
腕を引っ張ってベッドに戻そうとするも、リーナは断固として動かない。
やむを得ず、抱きかかえてベッドに戻した。
泣き続けるリーナをなんとかなだめ、話をし始めた。
「えっとだな…この腕は溶けちゃったから新しく作ってもらったんだよ。包帯を付けてるのはまだ新しい腕が馴染んでないからだ」
「…………他に怪我は?」
「他は全部治してもらったぞ」
「……爪痕みたいなものは?」
「爪?いや、無いぞ」
「はぁぁぁ……よかった…」
長いため息をどっと吐き出し、ベッドに顔を伏せた。
「…いや、それでもあんたとはもう一緒に居られないわね…」
「だから!何だってんだよ!?無事だったからいいだろ?」
「……だから、どうして恨まないのよ…」
理解しがたいリーナの言動に、アクスは必死に頭を使った。
「あっ!もしかして…お前の姉ちゃんの傷もお前が付けたのか?」
その問いに、リーナは長い間を置き、話し始めた。
「ええそうよ、私が十歳の頃に付けた傷。今回の様に私が暴走してね」
「やっぱそうだったのか…暴走ってのは何だ?」
「…人間は普段、本来の力を一割も出してないと言われていて、私は脳に魔力を送ってその力のリミッター外す事を可能にしたの。
結果、膨大な力を制御する事は出来ず、暴走した訳よ」
「へぇ〜、じゃあ爪痕ってのは?」
「私の魔力が爪に宿り、猛毒の様に人体を傷つけてしまう。だから姉さんは眼帯に封印の魔法を施してそれを抑えているの。理解できた?」
「……イマイチわかんないな」
「まぁ…説明はもういいでしょ?私はもう行くわ。もし謝礼が欲しかったら言ってくれれば……」
「馬鹿野郎!」
アクスはリーナの頬に、平手打ちをかました。
「わかんないやつだな、大丈夫だって言ってんだから気にすんな!」
リーナは痛む頬を押さえながら、震えた声で言葉を出す。
「…でも、私は下手したらあんたも姉さんと同じ様に…一生残るかもしれない傷を…」
「俺はサリアと一緒に旅に出たときから死ぬ覚悟すら出来てんだ、傷ぐらいなんだってんだ!」
「でも…でも…」
未だに震えるリーナに、アクスは屈んで視線を合わせた。
「リーナが、冒険者になった理由ってなんだ?」
「……姉さんの傷を治す方法を探す為…」
「だったら誰かと一緒に居たほうが色々楽だろ?だから一緒に居ろ」
アクスは傷ついたリーナの手を優しく握りしめた。
「次はああならないよう、俺も強くなるから。だから無理しないでくれ」
らしくもない言動に、リーナはくすりと笑った。
「………そう、わかったわ。あんたがそこまで言うのなら…もう何も言わない……」
アクスの言葉にすっかり諦めさせられ、リーナは全身の力を抜いて、アクスの胸にもたれかかった。
「ごめんね………」
謝罪を述べると、リーナはそのまま眠りについた。
魔王城にて、大幹部ダバンの敗北が知らされた。
「…という事でございます魔王様」
報告を受けた魔王の側近である大神官、名をラーチという。
彼は機嫌の悪そうに、手にしていた書物を破り捨てた。
「……もういい、下がれ」
「は…はい!」
配下の魔物は怯えながら立ち去っていった。
「あの小僧共め…!まさかここまでとは…!」
自身の顔を掻きむしり、血が出ても指を止めなかった。
「憎き勇者の末裔めが…!そろそろ止める頃合いのようだな」
掻きむしる手を止め、テレパシーでとある魔物に連絡を取った。
「聞こえるかオンミゴ。……貴様の能力で、ある冒険者共を殺せ」
『ある冒険者とは…?』
「こいつらだ」
テレパシーを用いて、トーチの頭にあるイメージを送った。
『!…わかりました。このオンミゴ、必ずや成し遂げてみせます…』
次なる刺客が、アクス達に襲いかかる。
次回から番外編へと突入します。
舞台はリーナが18歳の頃、学校でユリとの出会いを果たし、魔王軍幹部と共に戦うことになります。お楽しみに。




