地元の方と接触しました
「お主ら狐か。」
と聞いてきた馬上の侍に天野先生が話しかけた(当時の言葉で。)
「我ら西国の戦乱から逃れてきたものです。どうにかこちらにたどり着き、荒れ地に仮の居所を作りました。本来ならば領主様に挨拶を差し上げなければならないところでしたが、急に盗賊に襲われてできず申し訳ありませんでした。ふたたびこの者たちに襲われまして、返り討ちにしたところでございます。ところで御領主様のお名前は?」
「そうであったか。わしは領主ではなく近隣の村長の飯田勝兵衛というものである。領主は手子生城主の菅谷様だが、今いるのは城代の赤松凝淵斉様だ。」
「手子生の赤松様といいますと、小田氏治様の配下の。」
(読者の皆様には釈迦に説法だが、一応申し添えておくと、天野先生は実際には『小田氏治様』とは言ってない。この時代、現代で普通に読んでいる名前は諱と言って気軽に呼ぶと無礼で首が飛ぶのだ。なので実際には官職や通称で呼んでいる。しかしそうすると今度は俺たちが分かりにくくなってしまうので、この物語では諱で呼んでいるように記載する。気になる人は脳内で変換してくれ。)
「その通りじゃ。」
オタク軍団が後ろでこそこそ『…小田氏治…』『あの戦国最弱の…』とコソコソ言っているのを聞き取られないように気をつけつつ、俺達は村長たちをホムセンに案内した。
「おお、これはなんと面妖な建物よ。狐でなければ南蛮渡来か。都の方ではなんとも変わったものを建てるのじゃな。」
と驚く飯田村長。ホムセンの方を見ると騎馬武者の出現に慌てたのか
「敵襲!敵襲!至急防御態勢を!」
と守備に残してきた面々が慌ただしく動き、ネイルガンが陣地からこちらを伺い、コンプレッサーが運転をはじめて唸る。発射されそうになるのを慌てて真田店長が
「ちぎゃうチギャウ!この人達は敵ではない!」
と噛みながら慌てて止めて、俺達は無事にホムセンに到着した。
村長にディレクターズチェアを勧め、徒士の方々にも椅子をすすめた。アウトドアテーブルに煎茶と皿に入れたカリントウを盛り、『どうぞ』と事務員のお姉さんが差し出す。
「…。」
異様な光景に手が出ない飯田村長一行。俺たちは安全だと示すために急須に入った茶を飲み、カリントウを食べてみせる。
「…これはなにぞ?」
と村長が尋ねる。
「これは煎茶というものでございます。」
「なに。茶だと。茶は抹茶として粉にして溶くものでないのか。」
「茶葉をこの急須に入れ、湯を注いで茶とするものであります。」
「この菓子は…甘くてうまいな。」
「これはカリントウといい黒糖から作るもの。」
「うーむ。どれもこれもわしの知らぬものばかり。都か南蛮から来たというのはどうやら真なようだな。」
「おっしゃるとおりにございます。」
「で、そちらはいかがいたす積もりか。我らを追い出し、この辺りの支配を狙うというなら我らも抗わなければなるまい。」
「とんでもありません。我らがここで住まい、もしよろしければ松林や裏の沼地を干拓することを許していただければ。」
「うーむ。松林や沼地は我らも特に使えなかった土地では有るが…ここは小田の殿様の裁可を得ないとなんとも言えん。」
「となりますと。」
「お主らの代表がわしとともに手子生城に行ってみるのがよいか。わしも共に参ろう。」
盗賊たちをとりあえず倉庫に放り込み、俺達はひとまず盗賊の頭目を引っ立てて貢物に白米を5袋(50kg)ほど持って村長と一緒に手子生城に向かったのであった。
手子生城は関東の城らしい土塁に囲まれたなんとも素朴な城だった。門番に村長がやり取りをして俺たちは庭に通される。庭で待っていると屋敷の奥から村長よりは恰幅の良い侍が現れた。
「某が手子生城代の赤松だ。あの米を贈ってきたのはそちらか。」
(何となく分かるが天野先生が通訳)
「はっ。」
「盗賊も捕らえてくれて感謝する。村長の飯田の話では近くに南蛮造の砦のようなものを築いたとのことだが、お主ら結城か佐竹の手のものか。」
「めっそうもございません。我ら西国から逃れてきて盗賊から身を守るために建てたもの、小田の殿様のご縁をいただければ。」
「うーむ。とはいえあまりにも目新しくてのう…あの白米も見たことがないほど光り輝いておってなんというか…。まぁ我らに敵対する気がないならよい。ひとまず勝兵衛に預ける。勝兵衛はよく見定めよ。」
「はっ。ご高配ありがとうございます。」
と天野先生が答える。赤松殿は続けて、
「ここに来たということは小田のために働いてくれるということよの?」
と赤松の目がギラッと光る。
「働く、といいますと。」
「我らは結城や佐竹と長年争っておる。わしやお館様(小田氏治)の下知があったときには兵を出してほしい、ということじゃ。」
「はい。それは世の習いなれば小田の殿様が必要な時は我ら身を粉にして戦いましょう。」
「よきかなよきかな。天野に先程聞いた話では主らはなんとも面妖な武器を使うということ。期待しているぞ。」
と赤松殿が言った。
『戦っちゃって良いんですか?』と俺は天野先生にこっそり聞くと『ここはこう答えるしかないでしょうよ。』と。
「主らの代表は。そこの今答えてくれたもの(天野先生)でよいのか。」
「はっ。」
…何分天野先生がこの時代の人とやり取りするには最も間違いなかろう、ということで俺たちの代表となった。後リーダーに向いていそうな真田店長が
「俺は絶対ホムセンを離れない!リーダーともなれば状況によっては出征することもあろう。だからリーダーは別のもの、この事態に詳しい天野先生を俺は推すのだ!」
と強固に主張したのもある。
「ところで盗賊はどうします?」
と尋ねると
「主らが捕まえたのだから好きにするがよい。しかし奴らがまた我らに害をなすようならお主らの責任になるな。それを考えて煮るなり焼くなり。」
と。いや石川五右衛門じゃないから煮るのはとりあえず避けたい。
「ところで我らの砦の裏手の沼地や前の松林、開墾してもよろしいでしょうか。」
「出来るのか?なら自由にしてみよ。とてもあんな荒れ地を開墾できるとは思えないのだが…しっかり年貢は納めろよ。」
と赤松様は疑問に思いつつもお許しをくださった。こうして俺達のホムセンはとりあえず存在が…たぶん…許されたのであった。